第九十七話 芸術(2)
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予選を一勝一敗という結果で二位で抜け、順位決定戦に勝利したため、第六学園の対人は第三位という結果に終わった。
終わりよければすべて良しとでも言うように、最後の試合に勝利した時、かなりの喜びようだった。
十分な結果だと思うのでそのまま喜んでいても良いと思うのだが、『だった』と過去形にするように、今現在野田さんは悔しそうに「予選のあの試合に勝てれば」だの「もう少し何かできたんじゃないか」だの、そんな感じのことを延々と俺に語ってきている。
「やっぱりあそこのシーンで俺が追撃できていればな……」
「そうですねー」
「それよりも前に俺がもっと早く相手を探知できてれば……」
「そうですねー」
「いや、でもあそこの場面はな……」
「そうですねー」
「…………」
語りたい気持ちは分からなくもないが、ホントに延々と続くもんだから、段々鬱陶しくなってきていたのだ。だから対応が適当になるのも仕方がない、ということにしておこう。
いや、相手が先輩っていうことで最初の方は労わってたよ?
でも本当に永遠的に続くし、さらには、たまに同じ質問も混じってくるんだもん。さすがに紳士的にずっと受け止めるのはきつい。しかも相手は野田さんだし。
「……お前、ちゃんと聞いてるのか?」
「聞いてないですよ」
「即答!? ってちゃんと聞いてた!? もしかしたら俺がしゃべったところに『そうですねー』って答えるだけだっただから、ここでも『そうですねー』って言ってくると思ったのに! そしてもしそう答えたなら続けざま、誘導的に言質を取ってなにか脅しのネタに使おうと思ったのに!」
先輩として最低だと思うのは俺だけではないはず。本当に先輩なのだろうかとつい疑ってしまうほどだ。
そんな感じに野田さんが本当に先輩なのかどうか自分の中で議論していると、後ろの方でため息が聞こえてくる。そのため息には「やれやれ」と呆れたニュアンスが含まれている感じだった。
「……今の言葉、優奈にそのまま言ったらどうなりますかね」
「うげっ」
振り向くとそこには夏目さんがいた。
そして夏目さんからの言葉に、野田さんはヤバいといった感じで声を上げていた。
「優奈が可愛がっている楠木くんを、あなたが脅そうとしていた、なんて優奈に言ったら、きっと大変でしょうね……」
まるで言って聞かせるように、一言一言区切るように夏目さんは野田さんに向かって語る。
何を想像しているのか、野田さんは嫌な汗をかいている。
「ちょっとまて今回のは未遂だ結局何もやってない!」
「そんなに必死にならないでも……」
焦ったように、自分の無実を証明しようとする野田さん。
別にそこまで焦らないでも良いような気がするのだが、何かあるのだろうか?
確かに優姉ならたとえ未遂だとしても何かしらやって来そうではあるけど……
「必死にもなるわ! お前はこの女の恐ろしさをまだ解っていないだけだ! こいつは脅しのネタを作っては俺に仕事を押し付けるんだ!」
「……今さっき野田さんも同じことをしようとしていたじゃないですか」
俺はジト目でそう言ってやると野田さんはぐッとのどを詰まらせていた。
てか何かしらの仕事を押し付けようとしていたのかよ……
「だがこいつはすでにやったことがあるんだぞ? 未遂ではなくな。それも何回も」
「それはあなたが悪かったんでしょう? 上手く逃げる口実を作って仕事をさぼることが多かったから、無理矢理させるためにはどうするかって事で、そういう風な邪道な対応を取らざるを得なくなったんです。人を悪くいう前に自分のことをどうにかしてください」
「でもあの仕事量は、いじめというか横暴というか……とにかくおかしい! だから俺はその保険のために今こうしているんだ」
「サボった分のつけです。何もおかしな点などありません。それを理由に他の人を巻き込まないでください」
野田さんの必死さに対して、夏目さんの冷静なというよりは冷たい対応。
遠慮があまり見えないところをみると生徒会として一緒にやってきただけのことはあるのだろう。
これはこれでなんというか……
「……二人とも仲がいいですね」
「「誰がこいつ(この人)と!!」」
いや、そういうところがですよ?
口には出さないけど。
『これより、マジックザアートを、開始します』
矛先が俺に向きかけたところで、丁度よく次の競技の始まりを告げるアナウンスがかかった。
――――――――
五番目の出番だった第三学園の演技が終わり、会場が歓声に包まれる。
結果を言えばB判定だった。
「いよいよだな……」
傍から聞こえてきた声のように、次はいよいよ俺らの学園の出番である。
ちなみにすべてある競技の最後にある芸術は順位順に行われることになっている。
つまり今しがた行われた第三学園は二位であり、俺ら第六学園が一位となっているのだ。
一位(暫定では二位)と言っても僅差なので、みんなは浮かれないように自制しているが、上手くいっていない人が多い。
それも仕方がないことだろう。
競技をするのはあの優姉であるのだから、何か起きない限りは優勝は決まったようなものだ。
妹である美佳がS判定を出したことも大きな影響を与えていたりもする。
優姉たちが入場してくると、会場は凄まじい歓声に包まれた。俺の周りの盛り上がり方も凄い。
先ほど行われた第三学園と比べると可哀そうになるくらいの規模だ。
これまでの美佳や優姉の登場時ので慣れていなかったら、耳が壊れていたかもしれない。
そんな規模の声援にも優姉は慣れたように笑顔で手を振っていた。他の二人も新人戦の時の美佳の仲間とは違って、優姉程ではないが堂々としていた。
優姉を含めた三人が足を止めると、歓声は段々と止み、完全に静まり返った。息が詰まりそうなほどの静けさは、ゴクリと固唾を呑む音すら聞こえてきそうだ。
『それでは開始してください』
アナウンスの声が会場に響き渡る。
開始の合図と共に二人から魔力の高まりを感じる。
上級生の選ばれた人材というだけあって、優姉の仲間の二人の魔力の集まり方は早くて正確で、さすがと言えるものだった。
そして仲間の一人の魔力が放たれ、タワーズナインに使ったものよりもずっと大きい直方体型の氷の岩石が地面から出現した。
それが出現してすぐに、もう一人の仲間が風の魔法を次々に行使して、氷の岩石を削り、たまに整えるように火の魔法で細かい作業をこなす。
それに乗じて最初に魔法を放った人も風の魔法で氷の岩石を削り、こちらはたまに補強するように氷の魔法を使う。
数分後、出来たのは氷の巨像だった。その造形は槍を構えた一人の男だ。
少しばかりぎこちないところもあるかもしれないが、それでも今さっき作ったとは思えないほどの出来栄えだ。これだけでもそれなりの判定が出そうな気がする。
だがこれで終わりではない。
優姉がまだ魔法を使っていないのだから。
きっとここにいる観客全員が優姉の魔法に注目しているだろう。
当の本人である彼女は目を閉じて、額から汗が流れるほど集中していた。集まっている魔力量はあの時の美佳に勝るとも劣らない。
そして二度魔力がほぼ同時に弾けたのを視た。
現れたのは人間の男を模った火の化身、さらにその上からそのサイズに見合う一本の大きな槍が降ってくる。
火の化身は意思があるかのように槍に手を伸ばし、掴むような動作をして、それを構える。そしてそのまま氷の像に向かって踏み出し、槍をつき刺した。
火の化身が踏み出したことで氷の像の槍が火の化身の胸に刺さり、丁度差し違えたような形になる。
「どういう魔法のコントロールをしてるんだよ……」
どっからか呟きが聞こえてきた。
そう思うのは当然だろう。
あの炎の槍は氷の像を何の抵抗もなく貫く程の熱量を持っているはずだ。それなのに少しの時間がたっても氷の像に刺さり、槍の周りの氷を溶かすことなく、形をキープしているのだ。
普通なら氷を溶かしてしまい、貫いた瞬間に氷の像は崩れただろう。
だが優姉の造形だけではなく温度に至るまでの完璧といえる火の魔法のコントロールによりこの形が可能になったのだ。
大きな造形を操り動きを加えて演出をし、最後は一つの立体静止画として決める。
ことの一端が視えてくるような芸術の演出に会場から一気に歓声が沸き起こった。
そしてその瞬間、第六学園の優勝が決まった。
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