第九十六話 探知
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今日は大会八日日。
長かった大会も今日で最終日。そう考えるとなんか感慨深いな。まぁ俺の出番はもうないけど。
残っている競技は本戦の対人と芸術。
俺の知っている限り、対人では生徒会のメンバーから野田さんが出場し、芸術では優姉が出場することになっている。
やっぱり注目すべきは優姉の芸術だろう。
これは俺だけの考えではなく、観客たちの考えでもある。耳を傾ければそういった声がちらほらと聞こえてくるので間違いはない。
残念ながら野田さんたちの方には注目が集まりづらかったりする。というよりは対人全体の注目が芸術の方に呑まれた形になっているのだ。
まぁ、六家がこれだけ出場する年が珍しいだけであり、彼らが出場する試合に注目している人数が上がっているだけで、総合的な人数で見れば例年と変わらないらしいが。
ちなみにそういうこともあり新人戦にも関わらず、紫水と風切の二つの六家が出場した対人の試合は、今までにないほどの人が来ていたらしい。
そんな場になっていたにもかかわらず、それらの人物たちを倒し、さらにはそのうちの一人を一瞬とも言える時間でかたをつけてしまった俺は変に噂されていたりする。
いま現在、生徒用の観客席に向かっている間でも、名前がボソリと呟かれるのが聞こえたり、指を差されたりして……いや、自意識過剰ではないはずだ。
こういうことに文句を言う気はないけど、やはり良い気にはならない。美佳や優姉はいつもこんな風に噂されていたはずだが、おくびにも出さずにすました表情でだった。やっぱ慣れなのか……?
「お疲れだね~、哲也くん」
ようやく到着して席に座ると、美月さんが労いの言葉を声をかけてきた。あえて「くれた」と思わないのは、労ってくれているのは言葉の表面だけで、声音は明らかにからかいの色が大きく、表情を伺えばニヤニヤとしていたからだ。
「ま、仕方ないんじゃない? 紫水のところの子に予選で勝利をおさめ、決勝では風切のところの子を相手にレースに続いて二度目の大金星。さらにはギルドの推薦のために土御門家の頭首に声をかけられたとか、あまつさえ美佳ちゃんと二人きりで何かやってたとか」
「最初のは事実ですので否定はできないですけど、途中からは知っている人が限られてる情報源ですし、最後のなんて全く存在しないことじゃないですか」
「分かんないよ~。噂とかだったら事実がなかったとしてもいくらでも流れるしね~」
「……美月さんが勝手に流さなければあり得ないですよ」
もしそんなことが流れてたら、周りからの視線がもっと棘棘しいものになっているはずなので、そんなことはないと信じたい。でも怖いので釘はさしておく。
「さて、冗談はここまでにして……どう? 本戦の対人は楽しみ?」
「そうですね……楽しみといえば楽しみですね。やっぱりどんな試合でも見てれば面白いですし、それに観客席から見ることで、あっちにいた時とはまた違ったことが分かるかもだから、自分の成長につながっていくと思いますし」
とは言ったものの、試合に出る人は俺のように『氣』を使って戦闘することはほとんど、というか全くないだろうから俺個人としての戦闘スキルの向上は見込めなそうなんだよなぁ……
複数人の魔法の打ち合いを見ることで、戦術的なものは学べそうだけど。
だからどちらかというと『面白い』という要素の方が明らかに強かったりする。
「向上心があることはいいことだね」
「……そうですかね」
だからこの場面でこういう風に褒められるのはちょっと応え方に困ってしまう。
というか向上心というのは誰しもが持つものだと思うのだが……
「そうだよ。すでにそんなに強いのに奢らずに上を目指そうとするのは、いいことだと思うし凄いことだと思うよ。私に哲也くんみたいな力があったら奢って何にもしない気がするし。もしかしたら誰かを見下すことすらしてたかもね」
「……俺はそうは思いませんけどね。強さを持つ人って自然とついてた人とか、努力してつけた人もしくは両方を備えてる人がいると思うんですよ。奢ってしまう人って自然についてただけの才能に溺れてる人がやっちゃうことだと思うんですよね。美月さんはちゃんと努力してますし、向上する気持ちがあります」
少なくとも俺と一緒に修行をしたがるくらいだしね。
たまに起きれなくて出来なかったという日はあっても基本的には来てくれてたし。
「だから美月さんは人を見下すことはないと思いますよ」
「……そんな風に断言するように言われると照れちゃうね」
美月さんは言葉通り照れたように目を反らす。
「まぁ、強さを盾にからかいの度合いがひどくなる可能性はありそうですけどね」
「……それは反論できないね」
出来れば反論してほしかったな……
『これより、マジックバトル本戦の、予選を始めます。第一試合は――』
とこんな感じで会話をしてたら、アナウンスがなった。
美月さんとの会話はそこそこに、俺は競技の場に意識を向けた。
――――――――
やっぱり客観的に観れる試合も面白いものだと思う。
やる時はやる時でその立場としての面白みもあるが、こういう風に上から試合を見ると、何がどうなっているのかがよく分かるのでまた違った面白みがある。
なので対人の本戦も次で四試合目だが、飽きることなく楽しんでみることができる。
むしろ早く次の試合が始まらないかなーと思うくらいだ。
『続いて、第四試合は、第一学園対第六学園です』
アナウンスの声と共に、俺の辺りの第六学園の応援席は一気に盛り上がり始める。
第六学園の登場、つまり副会長である野田さんの出番でもあるのだ。
俺は気になったことがあったので同じ生徒会の仲間である美月さんに問いかけてみた。
「野田さんってどんな感じなんですか?」
「どんな感じって?」
「……ぶっちゃけ強いんですか?」
こう言ってはなんだが、俺は野田さんが何かと戦っているところどころか、魔法を使っているところすらまともに見たことがないのだ。
俺のストレートな質問に美月さんは困ったような表情になる。
「んー、どうなんだろうね? 私がどうこう言うより、こういうのは同学年で同じ生徒会役員の人に聞いた方がいいんじゃない。近くにいることだし」
どうなんだろうねって……生徒会役員として一年以上一緒にいるはずなのに……
そんな俺の考えを他所に、美月さんは言うが早いか夏目さんに声をかけて、俺がした質問をそのまま夏目さんに伝えると、意外なことに夏目さんも美月さんと同じように少し困ったような表情を浮かべる。
「強いかどうかって質問は正直回答に困りますね。戦闘に関して言えば決して強い方ではないです。一対一の戦闘を見るにしても複数人同士の戦闘を見るにしても、あの人よりも強い人はうちの学園にもいるでしょう」
それは意外だった。
こういう学園で副会長に選ばれるくらいだから、かなり強い人だと思っていた。
「じゃあ、なんで対人の選抜選手に選ばれているんですか?」
「それは探知能力の高さです。それの重要度は競技をこなした哲也くんなら解るでしょう?」
「なるほど……」
俺はそれで納得した。どうやっているかはともかく、相手より先に見つけることができるということは、すなわち先制攻撃が出来るということ。
魔法同士の戦いにおいて先制攻撃ができることのアドバンテージは計り知れない。本当に相手をしっかりと探知出来るのなら多少の戦闘能力の低さなど関係なくなるだろう。
「納得してもらえて何よりです。それでは応援頑張っていきましょう」
俺ら二人が納得したのを見て、夏目さんは微笑みながら元の場所に戻った。
それにしてもどんなふうに探知をするんだろうか? 俺が知ってる限り探知するための魔法は特殊な魔法だったはずだし。
この試合は注目するべき要素ができたので、さっきよりも集中してみることにしよう。
『試合を開始してください』
聞こえてきたアナウンスと共に、眼を強化をしてから試合の様子を伺う。
相手の方は開始の合図と共に動き出しているが、こちら側はまだ動く気配がない。
恐らく今から野田さんが探知するための魔法を行使するからそれを終えた後に動き始めるのだろう。
野田さんを注視していると、土の魔力が現れるのが見えた。どうやら探知として使うのは土の魔法のようだ。
少し詠唱のための時間が立ち、その魔法を放つための動作なのか、しゃがみ込んで地面に手を当てると、その魔力が弾け魔法が発動したのを確認した。
すると、魔力を土に流し込むかのように、土の表面に魔力が浸透し広がっていくのが見える。
こう言うと魔力を無駄にしているように思えるが、俺の眼の強化でもかすれて見えるぐらいの薄さなのでその消費量は、葵が使った霧の魔法と比べれば格段に少ない消費量で済んでいるだろう。
その魔法が発動して数秒後、勢い良く広がっていくそれは相手の足もとに到達しようとしていた。
そして相手がその領域に踏み込んだ時、面白い現象が起きた。
踏み込んだ刹那に土の魔力に鮮明に見える線が奔ったのだ。丁度踏み込み足と野田さんをつなぐようなギザギザの線。相手が踏み込むたびに、その現象が起こる。
その光景は野田さん自身が木となり、その線は養分を探すために伸びていく木の根のように見えた。
それで相手の場所を探知したのか、野田さんは地面から手を放して立ち上がり、近くにいる二人に指示を出していた。
「……これは使えるかもな」
指示を完了させ相手の方へと走り出し始めたのを見ながら、ひっそりと呟いた。