第九十四話 忠告
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――――side 土御門隆次――――
新人戦の最終日の競技を終えた、いつもとかわりのない夜。
俺を含めたギルドの関係者たちが四人で集まっていた。
「いや~、今日も凄かったですね~」
「全くです。毎日毎日、本当に面白いものが見れます。ここ数日の新人戦は若い芽ということもあって荒削りな子も多いですが、見る価値がある子もいるので本当に楽しい」
「とは言ったものの、『六家』が圧倒的な力を見せつけた、と言えるところもありましたけどね。火神のところの次女の『芸術』は特に」
「あれはさすが『六家』としか言えませんよね~」
集まったのは今日の振り返りを行うため。
ギルドの代表として推薦を与える人物を選ぶために、こうして話し合いの場を設けているのだ。
俺一人で勝手に決めてもいいとも言われたが(あきらかに面倒くさがって押しつけている節もあった)、やはりこういうのは他の奴の意見を聞くのも重要なことだろう。結局最終決定権は俺がもらってしまっているが。
ちなみにこれは大会が始まった日から毎日行っている。
「その『六家』の二人が負けたというのは、今日一番の盛り上がり要素だったんじゃないですかね」
「土御門さんが『レース』の後に話を聞きに行ったあの子ですよね~?」
「確か、楠木哲也、という名でしたよね。あの子の力は……末恐ろしい。まだまだ成長途中とはいえ『六家』の風切の子を一瞬で倒してしまいましたから」
「ですが、あれがギルドの一員として活動してくれるのなら、これ以上ないほどの力になるんじゃないでしょうか」
各々が楠木のことについて述べ、三人の目が一斉に俺の方へと向く。
その視線は何かを期待しているような視線だった。
考えていることはなんとなくではあるが想像することができる。
ここで大きな戦力を手に入れ、それを利用して世界的に見たギルドの地位を、そして自分たちのギルドに加え自分たち自体の地位を上げたいといったところだろうか。恐らくそれが可能なほどの力を、あいつは持っている。
いや、もしかしたらその程度ではなく、その力は最強の形容ともいえる『六家』の地位すら脅かすかもしれない。
「確かにあいつが入ってくれれば心強い」
俺からのその言葉に、決まりですねと言いたげに三者とも同じように頷き、笑みを浮かべる。
俺は前日からあやつのことを推薦しようとする動きを見せていたし、それも当然と言えるだろう。
「だがあいつの推薦はなしだ」
それだけに三人の表情が崩れていくのは仕方のないことだろう。
「な、なぜですか!? 昨日あれだけ推してた人を、どうして?」
「どうして、か……そうだな……まだ早いと思ったというところだな。もちろんそれ以外にも理由はあるが、とにかくあいつを推薦することはやめだ」
そう言っても不満そうな顔を隠そうとしない奴もいたので、
「最終決定権は俺にあるんだ。文句は言わせない」
何かを言い返される前に仕方なしに自分の立場を利用した言葉を使う。
当然不満が残ったままにはなるが、この場を一旦回避するには十分だろう。
「まぁ土御門さんがそう言うんじゃあ仕方ないですね~。別な候補者がいないわけではないですし問題はないでしょ~」
「そうですね。そのための話し合いでもありますしね」
そういって追求しない奴に感謝をし、小さく息をついた。
「それじゃあ、あれはどうでしょう。確か『対人』の時に出場してた――」
そうしているうちに次の候補へと移るギルドの仲間に、切り替えの早い奴らだと思わず苦笑を浮かべてしまっていた。
そしてその最中、俺はこの話を持ち出すことになった理由を思い出していた。
――――――――
あの時――『対人』の試合が終わった後の俺は呆然としていたと思う。『六家』の一人が混じった三人の組が、たった一人のそれも同じ学生の敵に一瞬でやられてしまうという光景を見せられたのだから、仕方ない、ということにしたい。
まぁそれよりも異常なのは、『レース』の時ですら恐ろしいと思ったのに、今回はそれを超えるものを見せてきたからだ。
もうあれは一つの兵器だ。
一体あいつの限界はどこにあるのか……
推薦状を出す以上少しでも情報を得るために不本意ではあったが、再びあいつのところへ行こうと立とうした時、俺は違和感に気付いた。
今までじっと座って観戦していたことが災いとなったようで気付かなかったのだろう。まるで身体全体が何かに取りつかれたように身体がうまく動かないのだ。
声を出すにも出せないし、とにかく行動を制限されているのだ。
ありがたいことに視覚、聴覚、嗅覚といった感覚器官は働いているし、呼吸するにも問題はないので、追撃が来ない限りは死ぬことはない。
ただ嫌な予感ではすませれない何かが訪れている気がしてならず、背中からは冷や汗が滲み始めていた。
相手は魔力の量に関しては俺より上だ。
こういった拘束魔法、それも全身に及ぶものとなると、相手よりも魔力が高くなければものの数秒で振り切ることができてしまう。だがこうして今も動けない状態を強いられている時点で、魔力の量が俺よりも高いことを示しているのだ。
『あなたがギルドの代表の土御門さんね?』
この人混みの中ではっきりとした女性と思われる声が聞こえてきた。
周りの連中には聞こえている素振りがないことから、この声はテレパシー的な何かだと判断する。
いきなりの展開だったが、意外にこの時は落ち着いていた。
『違う。そう言ったらどうするつもりだ』
テレパシーの対応は知っていたので、言葉を返してみる。
すると相手から笑い声が漏れてくる。
『ふふふ。こういったものの対応は知っているようで良かったわ。ちなみに間違ってないって知ってて確認しているから大丈夫よ。お気遣いありがとね』
全くもって嫌な返しをしてくる……
お礼を言われたのに馬鹿にされたようにしか感じ取れない。
『それで用件はなんだ? こんなふざけたことをしてくるんだ。当然何かしら要求をしてくるんだろう?』
もしもの時は、近くにいる護衛的役回りをする仲間がどうにかしてくれるだろうが、下手に挑発したところで意味はないと判断し、相手の要求を聞きだすことにした。
意外にも相手は脅しの一つもなしに、要求を述べるようだった。
『話が早くて助かるわ。私からの要求は一つよ』
さてどんなことを要求してくるのか……
『あなたが妙に推薦したがっている子がいるでしょ? その子をギルドに勧誘しないでほしいの』
『確か楠木哲也、だったか』
『ええ、その子よ』
『……それだけか?』
『ああ、そうそう。できればこれ以上あの子に関与するのもやめてほしいわね』
どちらにしろこれだけのことをするにしては、要求の内容は小さなものだった。それにギルドの推薦に関しては問題ないといえば問題ない。それに楠木はまだ一年だから、時間もある。
『……もし断ったり、その子に関与しようとしたらどうなるんだ?』
『そうね――』
女は少し考えるような、そんな感じだった。
それと同時に後ろからゾワリとした気配を感じた。
動けないので振り向くことはできない。
そして気配を感じてすぐに、背中に指先を当てられグリッと当たられた。
「――こんな感じで……後ろから襲っちゃうかも?」
回答を得られた数秒後、拘束を逃れた。
すぐさま振り返り、辺りを伺うが、それらしき人物を見つけることは出来なかった。
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と、こういったことがあったためだ。
今もあの指先の感触が、俺自身に釘をさしているように、背中に残っている感じがする。
短いやり取りではあったが、不意打ちをされれば逃れることは出来ないだろう。
これでも修羅場を潜ってきた自覚はあった。俺に対して何かをしてくれば、不意をつかれたとしても反応できる自信はあった。
だがあの時は何もできなかった。つまり隠密的な行動に関しては勝ち目がない。さらに俺を押さえつけることができるだけの魔力も有している。
一体『六家』とは何なのか……
あの二人によってその定義が俺の中で揺らぎに揺らぐ。
各属性ごととはいえ、その中の選ばれた最強の家系の長男が、そして頭首がいとも簡単にいなされてしまった。
これはなにかしら手立てを打たなければならないかもしれない。
根本的なところから実力の見直しをしていかなければならないかもしれない。
ギルドの、そして『六家』の一つ『土御門家』の現頭首として俺は決意を固めてた。
そうして今日という日の夜は過ぎていった。
今回は遅れましたが、次は早めに更新できそうです。
たぶん明後日くらいには。