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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
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第九十話 笑顔

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 どれくらい引っ張られたのか気が付けば人気があまりないところに連れて来られていた。

 この空間では俺と姉さんは二人っきり。

 

「なんで二人っきりになったと思う?」


 姉さんはニコニコしながら俺に問う。

 傍から見ればただかわいらしいだけなはずなのに、こういう場面でのニコニコ笑顔は何を考えてるか分かんないのですごく怖いです。


「わかんない?」


 これまた可愛らしく、首を傾げながら尋ねてくる。

 俺はどう答えていいか分からず、ただひたすら無言を貫き、考えているような表情を作る。

 

「こうするためよ」

「え、ちょっと、姉さん?」


 姉さんはそれだけ言うと、俺のことを抱きしめてきた。

 なぜこうなった? とか思わないではないが、それほど強く抱きしめられないどころか、ただただ優しい抱擁だった。

 俺は呆気にとられていたこともあり、特に抵抗することなく、それを受け入れた。


「よし、満足」


 そして思ったよりも早い解放だった。

 姉さんは屈託のない笑みで俺のことを見つめる。

 この笑顔を見る限りでは、先ほどまでのニコニコ笑顔はただ単に俺の不安を煽ろうとしていただけなのかもしれない。

 もしかしたら俺の態度次第ではひどい目にあっていたかもしれないが……


「満足って何が?」

「いや、哲也エネルギーが足りなくてね。それの補充。これでまたしばらくの間は頑張れるわ!」

「そう……」


 もう姉さんのこういう所にはつっこまない。

 てか哲也エネルギーって何だよ……

 

「哲也エネルギーって言うのはね――」

「――説明しなくていいし、人の心読まないでくれる!?」

「いや、顔に書いてあったから、つい、ね」


 姉さんは俺の顔を見ながらクスクスと笑う。どうやら俺の顔は分かりやす過ぎるようだ。

 まぁ姉さんの場合は顔に出ていなかったとしても、人の心をあっさりとよんでしまいそうだけどね……


「で、ここからが本題」


 あっけらかんとした姉さんの応対にため息をつきそうになったが、今言われた一言とその表情からその息は呑みこんだ。


「あ、ごめん間違えた。ここからも本題ね」


 が、結局はてへっと舌を出してみせる姉さんにため息をつくことになった。

 さすがにもうつっこまないよ? 哲也エネルギーうんぬんかんぬんが本題に入っているの!? なんてつっこまないから。

 そこあたりの言葉はさっきついたため息と一緒にどこかにやってやった。


「さっき言ったと思うけど、哲也の出てた競技は全部見ていたの」

「えっ? 確かに様子を見に来たとは言ってたけど……ということはさ……」


 俺の出ていた競技全部を見ていたということは、数日前からこの会場に来ていたということだ。

 それにしてもなんで数日前から来ていたのに、会いに来たのは今日だったのだろうか?

 

「思っている通り数日前から来ていたわよ。まぁ姉としては当然ね」

「でもなんで来てからすぐに会いに来なかったの?」

「う~ん、そこはいろいろとあったのよ。乙女の秘密が、ね」

「……乙女の秘密を聞きたいって言ったら?」

「それは哲也が乙女になれたら教えてあげる」

「そんなんじゃ一生聞けないじゃん……」


 正直いろいろと言ってやりたかったが、こういう時の姉さんはどう問いただしたって口を割ることはないし、今のように適当にはぐらかしてくるので、あまり追求しない。

 

「……全部見て、それがどうかしたの?」

「そのね、哲也さ、どこか体調が悪かったりする?」

「いや、別にそんなことはないけど……」


 質問の意図がよく分からなかったが、特に自分の体に問題があるわけでもないので、曖昧ながらもそのままのことを答える。


「ホントに?」

「うん……」

「そっかぁ……ならいいんだけどさ――」


 俺が頷いて肯定を見せると 姉さんの表情から温かみが抜けていき、声音まで冷えていく。

 それを感じ取り、思わず背筋にゾッと寒気が奔る。


「哲也ってそんなに弱かったっけ?」


 そして言われた一言は俺に突き刺さるような痛みを与えてくる。

 『弱い』。この一つの単語は強さを求めて死に物狂いで修行してきた俺にとって、何よりも辛い一言だった。

 

「弱いって、でも、おれ……」

「冷静に考えなさいよ。私に手傷を負わせるほどには強くなっていたのよ? それがたかがこんな学園生相手にいくら三人とはいえ時間がかかりすぎ。今日は相手が葵ちゃんだからまだいいけど、昨日の試合は瞬殺が最低限のノルマとしてもいいくらいよ」


 淡々と告げられていく言葉は、それを告げているのが本当にさっきまでの姉さんなのかと疑ってしまうほど優しさなど皆無だった。


「言っておくけど、もし目立ちたくないから手加減をするなんてバカな考えがあったなら捨てなさい。こういう大会は目立ってこそなんだから。あ、学校でも同じね。何をするにしても全力で取り組みなさい」


 命令するような口調に俺はただ頷くことしかできなかった。姉さんが恐ろしくて、縮こまってしまう。

 そんな様子を見かねたのか、空気を変えるように姉さんは「さて」と前置きをするように声を発した。


「もう一つ聞きたいんだけど、学園に入ってから私が教えた『氣』を扱う修行、さぼったりしてないよね?」

「も、もちろんだよ!」

「じゃあ、その修行をしてきて、上達感って言うか、成長している感じ、ある?」


 俺はその質問には頷けず、姉さんから目を反らしてしまう。

 あの時と比べたら、比べるのもおこがましいくらいしか成長などしていない。

 氣の扱いが少しは上達したかもしれないが、あの時は量も異常なまでに増えていた。それを感じることができていたのだ。

 だが学園に入ってからそれを感じる機会はなくなっていた。

  

「あ、別にこれに関しては怒ってないわ。むしろ今の状態(・・・・)で成長してたら困るくらい」

「え?」


 姉さんの言葉に疑問を感じるが、それに構わず続けざまに質問がやってくる。


「成長を感じなかったとして、それを疑問に感じることはなかった?」

「いや……あれらは力を維持させていくためなのかなって、思い始めてたから……」

「私の修行にそんなことがあるわけないじゃない。教えていたのはちゃんとあなたを、あなたの中にあるものを成長させるものだったのよ」


 姉さんは少しだけ空いていた距離を、ゆっくりと歩を進め詰めてくる。

 そして俺のすぐそばまで来ると、無言のまま自分の手を俺の胸にあててくる。

 

「…………」

「姉さん?」

「……うん、大丈夫そうね……余るくらいはある……」


 姉さんはボソッと小さく何かを呟くと俺から離れた。

 何を言ったか小さすぎて聞こえなかったが、満足気な顔をしていた。

 その顔を見た後、自分の体調を顧みると、なんだか覚えのある温かみを感じた。

 

「……何をしたの?」

「たぶん今日中に解るわ」


 俺の質問には明らかな答えは返ってこなかった。

 だが、言い方的に何かをしたことは確実だった。


「後二つだけ言っておくことがあるわ」


 よく聞きなさいと、前置きすると姉さんは続きを告げる。


「一つはこの大会が終わった後、一人でここに来て頂戴」


 そう言って姉さんは俺に紙を渡してくる。

 ぱっと見る限りでは、地図で場所が示されているようであった。

 このあたりの地理は良く分からないので、場所の名前だけで渡されるよりはありがたい。


「二つ目はこの後の試合のことよ」

「この後の?」

「ええ、もう少しで始まる試合のこと」


 姉さんの様子を伺うと、それはもう怖かった。

 笑顔であるはずなのに、後ろには何かがいた。悪魔みたいな何かが。

 そんな幻覚が見えるくらい邪悪な笑みだった。


「速攻で試合を決めなさい。何が起こったのか相手に悟ることもできないくらいに。いいわね?」


 相手は六家だというのに簡単に言ってくれる……だが、姉さんは絶対にできないことは言ってこない。


「出来るんだよね? 俺に」

「不可能なことは言わないわ。不可能どころか今の哲也(・・・・)なら余裕かもしれないわね」

「え? 余裕で?」


 姉さんは俺の疑問にさっきの邪悪なものを消し去り、今度はうって変わって誰もが見惚れてしまうような笑みを返すだけで、その答えを返すことはしなかった。


「それじゃあ、また会おうね」


 その代わりに言われたのは、別れの言葉だった。

 それだけ言い残すと、姉さんは人混みにまぎれて、気が付けば消えていた。


「戻らなきゃか……」


 一人ごとを呟き、俺はもらった紙をポケットに入れて控室に足を向けた。



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