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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
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第八十九話 抱擁

開いて頂きありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

今回普段より少しだけ短めです。

「哲也の親愛なる姉、楠木香織です。よろしくねっ」


 突然の姉さんの来訪。

 勝手ながら、修行していたあの森にずっといるようなイメージがあったから、こんなところに来るなんて意外だった。

 なにせ修行している間はずっと森の中にいたわけだし。俺が知らないうちにどっかに行っていたかもしれないけど。まぁ、今はどうでもいいことか。


「ちょ、ちょっといいか、楠木」

「なんだよ?」「何かしら?」


 恐らく俺のことを呼ぼうとしたのだろうけど、『楠木』というのは今の俺の苗字でもあるし、姉さんの苗字でもあるため、俺と姉さんは同時に反応を示す。

 新谷は一瞬唖然としてしまってしていたが、すぐに立ち直して、一つ咳払いをした後にもう一度呼びかけてくる。


「哲也、この人って本当にお前の姉さんなのか?」

「えーっとだな……この人は――」

「そうよ! 私と哲也は姉と弟の関係! 海の海底よりもずっとずっと深い関係で結ばれた姉弟の関係よ!」


 新谷の問いに答えようとした俺の言葉に重ねるように、姉さんは合っているようで合っていない答えを返す。思わぬところから出てきた答えに、新谷は思わずたじろいでいる。

 というか姉弟にそんな深い関係なんて存在しないと思うんだが……まぁ確かに深いといえば深い関係かもだけど、姉さんが言うと意味深に聞こえすぎてなんか怖い。


「それで、こんなところに来るなんて……どうしたの?」

「どうしたも何も、ただ様子を見に来ただけよ? 哲也が出るんだから見に来るのは当然でしょ?」

「うん、そうだね……」


 なんだか含みがありそうな言葉だったので、納得しきれない。

 姉さんが俺に会うためだけにこんなところにまで来るなんて、正直に言って想像できない。


「それにしても……ねぇ、君」

「え、ぼ、僕ですか?」

「そう、君」


 そんな俺の内心などお構いなしに、姉さんは葵のことを呼び掛けた。

 呼ばれた本人もこれまた突然のことに驚いているようで、ただ聞き返すだけだった。

 姉さんは葵の様子など気も止めずに、頷いて肯定だけを示すと、じっと葵のことを見つめ出した。

 その眼は容姿のような表面上のことだけではなく、その人自身の中のことを、その人の構成要素となるものすべてを見つめ、そして見透かしてしまうようだった。



「…………」

「あ、あの……」


 そんな視線にさらされている葵はすぐに居た堪れなくなったようで、恐る恐ると言ったようにか細い声を出した。

 それが聞こえたか聞こえなかったその瞬間だった。


「かわいい……」

「え?」

「この子、すっっごいかわいい!! 何これ!?」

「え? え??」


 あんな視線にさらされていたため、何を言われるのかと思っていたようでおっかなびっくりしていたが、まさかの『かわいい』発言に間が抜けてしまっているようだ。

 当然姉さんはそんなのはお構いなしで、次々に猛烈な勢いで追撃を開始する。


「君、名前は!?」

「あ、葵です。紫水葵で――」

「葵ちゃんね! うん、よろしく! それにしてもホントにかわいい! 本当に男の子? ちょっと抱きしめてもいい? いいよね!?」

「あの、ちょっ、わっ――」


 そう言うが早いか、姉さんは葵の前に一瞬で移動していて、葵を抱きしめた。

 抱きしめられた葵は、姉さんの豊満な胸に顔を埋めさせられ、最初はジタバタしていたが、だんだん抵抗しなくなっていき、やがて動かなくなって、


「姉さん、このままだと葵が窒息で死んじゃうから、そろそろ解放してあげて!」


 恍惚な表情で葵を抱きしめている姉さんには申し訳ないが、このままだと葵が本当にしんでしまうので、必死になって止める。

 それが必死さが伝わったのか、それとも単に満足したのか、おそらく後者のようで、姉さんは一仕事終えたような感じで、案外あっさりと葵のことを解放した。


「あら、ごめんなさい」

「ぷはっ……し、死んじゃうかと思った……」


 解放された葵は本当にやばい状態だったようで、最初に出てきた言葉はそれだった。

 俺も何度か姉さんにやられた経験があるのでわかるが、あれって本当に息ができないんだよな……あと、地味に抱きしめる力が強かったりするので、背中が痛んだりすることもある。


「哲也も久しぶりだし、私に抱きしめられたい? 別に飛び込んできてもいいのよ?」

「いや、いいよ」


 そういう経験もあり、両手を広げて待ち構える姉さんからの提案を俺はやんわりと断る。


「え~、別に恥ずかしがらずに甘えてもいいのよ? 昔みたいに」

「姉さんはよくても、俺にとってはよくないんだよ」

「じゃあ、人気のないところなら恥ずかしくないから、いいよね?」

「その言い方はいろいろダメな気がする……てか人がいるいないの問題じゃないって」


 姉さんは俺がことごとく否定したせいか、ちょっとだけ残念そうな表情をつくる。


「仕方ないわね……今回は葵ちゃんに免じて諦めてあげるわ」


 そんな表情も一瞬で、姉さんはすぐにフッと柔らかい笑みに変わる。


「それじゃ、またね(・・・)、葵ちゃん」

「は、はい。さようなら」

「それじゃあ、哲也。行くわよ」

「えっ?」


 姉さんはそう言って俺の腕を取り、引っ張っていく。

 呆気にとられた俺はされるがままに、何も抵抗できずに連れていかれる。

 後方から、「俺には何もなし?」なんて声も聞こえたきもするが、気のせいということにしておこう。 そんなどうでもいいことを考えて、姉さんの無言で引っ張り続けるという行動の恐怖から俺は精神を保たせていた。

 


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