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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
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第八十八話 登場

開いて頂きありがとうございます


誤字脱字ありましたら報告お願いします。

 試合が終わって控室に戻ると、そこにはなんとも言えない顔の二人がベンチに座っていた。

 おそらく今さっきの試合で何がどうなったか、良く分からないままやられてしまったショックのためだろう。別にそこまで落ち込む必要はないと思うんだが……

 もしあの時俺に攻撃が来たらどうなっていたかは正直分からない。もしかしたら避けれたかもしれないが、あの時二人に向かっていった攻撃に対してほとんど動けなかったことを考えると、避けれなかったかもしれない。


「お疲れ赤江。今回はお前のおかげで勝てたよ」


 さっきの試合の悪い部分だけを考えて、落ち込んでいてもしょうがないと思い、俺は単純で乗せられやすい、今回の勝利の立て役者である赤江にそんな言葉を贈る。


「あ、ああ。そうだな……僕の、おかげだな……」


 俺の言葉に曖昧に頷く赤江。ボーっとしているくせに、それでも賞賛の言葉に対して、しっかりと頷く辺りなんというかこいつらしい。


「それにしてもあんなすごい魔法が打てるんだな、赤江は。すげぇよな、味方ながら戦慄した」


 こいつと初めて戦った模擬戦からでは想像できないような魔法ではあったので、この言葉は本心からの言葉だ。

 それが分かったからなのか、それともやはり単純であるか故か。赤江は先ほどのまでの様子は一瞬にして霧散し、いつもながらの自信過剰の奴に戻っていた。


「そうだろう? 赤江家の長男である僕にかかれば、あれくらいの魔法は余裕さ。何せ火神家に引けを取らない実力はあると自負しているからね!」

「うるせ―よ、馬鹿」


 野上、ありがとう。そのつっこみがなかったら、俺が思い切りやっちゃってるところだったよ。


「なっ! 馬鹿とは何だ馬鹿とは。というかさっきの試合で何もできなかった貴様にそんなこと言われたくない!」

「はぁ……何言ってんのお前? ちゃんと土の魔法使って壁作っただろうが」

「そ、それでも貴様は、敵を一人も倒してなかっただろうが!」

「それとこれとは話が別だろ。敵倒したうんぬんなんて今は関係ない」

「君は、僕にケンカを売っているのか!?」

「あれ、分からなかったのか?」


 あー、これ放置してもいいよね? 喧嘩するほど仲が良いと言うし。

 とりあえず二人ともいつものように戻ったので、俺はこの場を離れてトイレに行くことにした。

 取っ組み合いをしている二人など、知らん。




――――――――




「あ、哲也くん!」


 そんな風に元気な声で、俺の名前を呼んできたのは、先ほどまでの対戦相手であった葵だった。

 走ってこっちによってくる葵の後ろには、いつも通りというか、マイペースで歩いている新谷の姿もある。


「よう、葵。新谷も。てかどうしたんだ二人して?」


 なぜ俺がこの二人がこっちに来たことに疑問を持ったかというと、いま現在競技を行う人たち、または待機中の人たちはトイレなどの生理的現象や何かしらの問題が起きない限り控室から出てはならない。またトイレは反対側の控室用のトイレがあるので、そういったことが事情でこの二人がこっち側に来ることはないはずなのだ。ちなみに俺はトイレだ。


「あー、ちょっとね~」


 俺の質問の意図が理解できたのか、葵は少々罰悪げに苦笑いを浮かべながら頬を掻く。


「こいつが試合中にめっちゃ大きな霧を出しただろ? そのせいで観客の奴らにはさっきの試合はほとんど見えなかったらしいんだよ。要は一部の客、かどうかは分からんが少なからずクレームが来たわけだ。てな訳でこの大会の責任者さんからのお咎めをもらった後の帰り」


 観客たちにとっては霧など傍迷惑なものでしかないだろうが、ルール上は問題ないわけだし、戦略の一つとして行使した魔法でお咎めを受けることには少しばかり同情してしまう。 


「てか悪いのはこいつ一人なのになんで俺まで呼ばれてんだ……あっちの人も君は別にいいのに、みたいな視線で俺を見てきてたし……結局俺は何も言われないまま返されたし……」


 これはこれで可哀そうな奴だな。

 はぁ……と葵を見ながら大きくため息をついているところを見ると、もしかしなくても半ば強制的に葵に連れていかれたのだろう。


「まぁいいじゃん。実際ルール上は問題ないことだから、あまり強く言われなかったし!」

「それならお前一人で良かっただろ。あんな風に『どうしよう、洸太! 呼び出しもらっちゃったよ! 怒られるかな、怒られるよね?? 怖い人から怒られたら僕もうどうしようもなくなっちゃうから付いてきて~』なんて怯える必要もなかっただろうが」

「わあーー!! やめてよ、恥ずかしい! しかも哲也くんの前でそんなこと暴露しなくてもいいじゃん」

「そんなことのせいで俺は疲れさせられてんだよ。無理やり連れられなければゆっくり休憩できてたはずなのに。全く、無駄足だろこれ」

「そんなことない! 洸太のおかげで僕はビビらずに話を聞くことができたもん」

「そうかよ……」


 胸を張って情けないことを言い張った葵の様子を見て、諦めたとばかりに新谷はもう一度ため息をついていた。

 

「さっきの試合と言えば、あの霧もなんだかんだですごかったけどさ、最後のあれ何だったんだ?」


 俺が聞くと葵は「え?」と言った感じで首を傾げてきた。

 新谷もお前は何を聞いているんだとばかりにこっちを見ている。

 いや、俺としてはその反応に「え?」って感じなんだけど……


「いや、最後のあれと言えば、あれだよ」

「ん? 魔法紙の誤作動か? 確かにこいつは俺達よりも少し遅れてやってきてたが、ホントに少しだったぞ?」


 話が合っていない感じなので、とりあえずこっちの言いたいことが分かるように説明を入れる。


「葵がすぐに飛ばされなかったのはお前らが場外に飛ばされた魔法を受けても、葵が無事だったからだぞ。逆に葵にやり返されてこっちは二人やられたし。その時のことについて聞いてみたかったんだが……覚えてないのか?」

「うん、全然覚えてない……逆に聞いてもいい? 僕は、何をやったの?」


 恐る恐ると言った感じで葵は俺に尋ねてくる。


「正直言ってはっきりとしたことは言えないんだよな……覚えてんのはこっちの魔法をそのまま返してきたって感じで……詳しく聞きたいなと思ってたから聞いてみたんだが、そっか、覚えてないのか」

「うん、なんかごめんね?」

「いやいや、全然問題ないって」

「うん……」


 というより逆に覚えていたとしても、答えたくなければ答えなくてもいいのが魔法に関して聞かれた時の常識だしな。例えばレースの時に風切が使ってた風に乗るあれも、やり方を知っているのは『風切家』だけって言うし。要は魔法に関して黙秘をすることは結構あることなのだ。

 今回の場合は葵の様子を見る限り本当に覚えてないようだが。でも自分の知らないことを聞かされたときって、なんと言うか、不安になるんだろうね。


 そんな風に少し微妙な空気になりかけた時、それは突然にやってきた。


「あっ! 哲也発見!!」


 自分の名前を呼ばれる。それは別段不思議でもなんでもない光景。

 ただ声音から分かるその人物がここに来ていることがなんとなく意外で、俺は振り返りその目で見るまで信じられなかった。

 人がパラパラと見えるのに、その人だけは異彩を放っていて良く目立つ。いや、たとえどんなに人がいようとも一目でどこにいるのか分かる、そんな存在感を持っている。

 容姿の方も相変わらずで、綺麗な黒髪をしていて、プロポーションも理想そのもの。近くにいる人たちがその人に気付くと思わずジッと見つめてしまうほど。

 髪と同じ色をした瞳で俺を一心に見詰めながら、その人はこっちに向かって駆け足でやってきた。


「久しぶりー、どう? 元気?」

「え、あ、うん、元気だけど……」


 あまりに突然にやってきたものだから、なかなか立ち直ることができず、返事が曖昧なものになってしまう。


「あれ、もしかして私のこと覚えてなかったりする?」


 そんな俺の心境を知ってか知らずか、その人はすぅっと目を細めて俺のことを見てくる。

 いや、そんな顔されると修行初めたばかりの時、ボロボロにされて立ち上がれない俺に「そんな程度のことで根を上げるんだ……もうやめる?」って言いながらうすら寒さを肌に与えて来るような視線を送ってきたことを思い出しちゃうから。

 当時のことを少しだけ思い出して恐怖を覚えたので、早目にその人のことを呼ぶ時の愛称を言っておいた。


「そんなことあるわけないじゃん。ただ驚いてるだけだって、姉さん」

「え、お姉さん!?」「は!? 姉さんだと!?」


 葵と新谷の二人は心底驚いたような表情でこっちを見てくる。

 その人は二人を見て女神も真っ青な笑みを浮かべながら、挨拶をした。


「どうも、哲也の親愛なる姉、楠木香織です。よろしくねっ」


 


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