第八十七話 覚醒?
開いてくださりありがとうございます。
誤字脱字あったら報告お願いします。
――――side 紫水葵――――
「……葵。まだなのかよ」
試合が始まってからそれなりに時間が経過し、まだ何もすることがない洸太はそんな風に愚痴めいた呟きを漏らしてきた。
「うーん……もう少し?」
僕は洸太の様子に苦笑を浮かべながら答えた。
「本当だろうな?」
「本当だよ! それにしても、なかなかこれに触れてくれないのは予想外だなぁ……相手にダメージを与えるようなものじゃないんだけどなぁ……警戒でもされてるのかなぁ……」
疑われるような視線を受け、ため息をつかずにはいられなかった。僕だってこんなに時間がかかるなんて思ってなかったんだよ?
「警戒されないわけがないだろうが。あいつらはお前の合成魔法を一度は見たことがあるんだろ? それのきっかけと思ったら、迂闊には触れたくもないだろ」
そうつっこまれて、なるほどと思った。そういえば哲也くんに最初に見られた合成魔法は霧から作り出す『ライジングミスト』だった。洸太が言うように警戒されて当然というものかもしれない。
「でも、もう少しで会場全部を覆えるはずだから、どっちにしろもうすぐで見つけることができるはずだよ!」
僕が魔法を使って創りだした霧は、ほとんどみんなが知っているような霧だ。
相手も自分も白い小さな水の粒に覆われ視界が悪くなる。
触れてもダメージなんて負わないし、感じるとしたら湿気が強くなる感じだけだ。
だけど当然ただの霧ではない。
僕が魔法で創りだした霧は少し特殊で、まるで意思があるかのようにいろいろと僕に教えてくれる。
言うなればこの霧は僕の触覚の延長だ。この霧に触れているものなら、僕はどこに何があるかを知ることができるのだ。
「あっ!」
不思議な感覚が僕に与えられた。何かに飲み込まれるような、吸い込まれるような感覚。が、それはすぐに消滅した。そして人の温かい感触が伝わってたが、すぐに離れていった。
「いたのか?」
「……うん。見つけた」
先ほどの吸い込まれる感覚は誰の仕業かは予測がついた。
レースの時に見せた、正体不明の魔法を無効化するあの技だろう。あの時も風の魔法を吸い込むような感じだったし。
つまり、さっき感じた人の感触は哲也くんのものだったのだろう。
「それじゃあ、行こっか?」
僕はそれだけ言って先頭に立って歩き始め、後ろに二人が付いてくる。
歩き始めてすぐに相手の魔法の感触が伝わってきた。
人が数人は入れるだろう直方体のような形を取った土の感触。恐らく相手の誰かが造り出した土の防壁だろう。それ以外に何も感じないことから、そこに三人がいると予測を立てる。
「どうやら哲也くんたちは、魔法でこの霧に触れないようにしてるみたい。絶賛立てこもり中だよ!」
「要はチャンスってことだな? 足を少し速めるか?」
「そこまで慌てる必要はないと思うけど、のんびりしすぎるのもあれだよね……」
「じゃあ、急ぐぞ」
それだけ言うと、洸太はすぐに走り出していく。
「待って、洸太!」
「なんだよ?」
僕の呼び掛けに、洸太は不機嫌な声音で答えながらも足を止める。
「走るのはいいけど、方向あっちだよ」
「…………」
少し気まずい雰囲気を醸し出しながら、無言になりながらも僕が指を指している方向へと走りだした。
その背中を僕ともう一人の仲間は追いかけていった。
「あれか!?」
洸太は土で創られている『それ』を見ながら、確認をしてきた。
「うん。おそらく、だけど」
走っている最中に人が出てきたような感触はなかったし、他に伝わってくる感触もない。
おそらくと付け加えたのは、可能性としては限りなく低いが地中に潜っていることを考慮したが故だ。
「おそらくって……お前の魔法、完全じゃないのかよ?」
「いや、もしかしたら土の中にいる……かも?」
「それはさすがにないだろ……いくらあいつが異常な能力を持ってると言っても……たぶん」
洸太も同じように思ったようで、哲也くんだからこそ少しの可能性ですら考慮しなければいけないのだ。『氣』というのは僕たちにとってそれだけ未知なものということだ。
「僕もないとは思ってるんだけど、ね。警戒くらいはしておいていいんじゃない?」
「……そうだな」
「それじゃあ、指示は僕から出していくからね!」
これは向かっている途中で決めていたことだ。
霧を使って相手の動向が分かるのだから当然のことかもしれないけど。
「ってことで、洸太よろしく!」
僕が指示する前から準備をしていた洸太は、土のドームに向かって魔法を発動した。
現れたのは土の球。それが次々と地面から浮かび上がりドームの真上に集まっていく。
それはすぐに二個、三個と直径一メートルはある焦げ茶色の玉へと変貌する。そして洸太が合図をするように手首をくいっと動かすと、重力だけではあり得ない速度で土のドームに襲いかかった。
土と土が衝突する。
一個目でドームに大きな亀裂が走った。
二個目でドームはほとんど崩壊。
三個目で、哲也くんたちに直接ぶつかる。
だが三個目の土の玉は目の前に壁があるかのように動きを止め、土のドームと一緒にドロドロと溶けだしていく。それと同時に僕の霧もさっきと同じ感覚を受けた。すべてを呑みこんでいくような、そんな感覚。
「今だ! 赤江!」
聞きなれた僕の友達の声が聞こえたかと思うと、呑みこまれていく感覚はなくなった。がそれとほとんど同時に恐ろしい程の魔力を感じ取った。
(下だ!)
僕の中の警報が今までに感じたことがないほどになっている。
僕は危機感に身を任せ今いる地点から飛びずさる。
次の瞬間、目の前に火柱が創りだされていた。
辺りを見れば九か所で僕たちを囲うように創りだされている。
火柱の先を見詰めていると、それは折れ曲がり、今度は真下へ方向を変えた。つまり僕たちの方に向かってきたのだ。
火柱なんかではなかった。
それが今の目の前の光景を見て言えること。
「すっごいなぁ……」
僕は目に映る大きく口を開けながら襲いかかってきてる、九つの真っ赤な龍を呆然と見詰めながら、嫉みを込めながらそう呟いていた。
(……ちから……いる……?)
――――side 楠木哲也――――
圧巻。
そう思わずにはいられない魔法だった。
正直に言うと赤江のことをなめていたことを認めなければならないだろう。
目の前に映っているのは九つの龍。それが葵たちに向かって襲いかかっているのだ。逃げ場はない中で。
轟音が鳴り響き、土煙が巻き起こる。土煙から顔を保護するために顔を腕で覆う。
炎の龍は熱風という余波に変わって俺らの肌に接触する。
「……は?」
土煙が晴れて、目に映るその光景は異常だった。
二匹の龍が、まるで葵につき従うように寄り添っているのだ。
|まるで意思があるかのように《・・・・・・・・・・・・・》。
そして葵自身と言えば見た目は全く変わりはないが、雰囲気が異常だった。
姉さんとは異質な、だがどこか似ている危険な感じがする、そんな雰囲気。
俺の思考に関係なく、葵が手を前に突き出すと、二匹の龍は雄たけびを上げるかのように大きな口を開けて、赤江と野上に襲いかかり、一瞬にして二人を転移させた。
(これはやばい!)
俺は一気に仕掛けて葵を倒すことにした。
龍を操っている葵自身、今は無防備。
一撃で仕留めなければ負けてしまうだろう。いや、一撃で仕留めれば勝てるんだ。
絶対にやれる!
そんな風に自分自身に暗示をかけながら、少し震えている足を強化し、地面を蹴りだそうと瞬間。
葵はプツンと操り人形の糸が切れたかのように、ぱたりと地面に倒れ、負けの合図でもある転移魔法が発動した。
「勝者、第六学園」
アナウンスの声は、俺自身の心を複雑にさせた。
遅くなってすいませんでした。
遅いと三月まではこんな感じですのでご容赦願います。
感想評価頂けたら嬉しいです。