第八十五話 マジックバトル
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俺らこと対人のメンバー三人は、控室に集まっていた。
ちなみに俺らの間には会話はない。
別に周りの空気が静かで、それに合わせている、というわけではない。実際、作戦の確認をする声や、リラックスするためか、ただ単に雑談をしている人たちの声があちらこちらから聞こえてくる。
それで分かると思うが、俺らには確認するほどの作戦を立ててないし(というか何もない)、雑談をしあうような話題もなければ、そういう仲でもない。傍から見れば己の集中力を高めているように見えなくもないかも、と他人事のように考える。
『対人予選第一試合、第二学園対第六学園の試合を始めます。出場なさる選手のみなさんは、競技場に入ってください』
アナウンスの声と共に、第一試合として出場する俺らは、目を見合わせ、すぐに行動に移す。
仲の悪さは相変わらずなので、お互いを励ます声などは、当然掛かることなどない。ただ無言で自分が行くべき場所に向かった。
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「各自これを胸ポケットに入れてください」
外に出る前にいる競技の管理人と思われる人物から、そう言って渡されたのは、少し大きめのお守りのようなもの。
中身はルールで示したあったように、一定ダメージが与えられると場外へと出される転移魔法が入った代物だろう。
「健闘を祈ります」
俺らは全員言われた通り胸ポケットにそれを入れてから、競技の場へと入った。
紙に書かれていた限りでは、木が障害物として結構茂っていたり、湖を想定したような大きめな水溜りがあったり、地面が小さく隆起したようなところもあった。
今までの競技とは違い、個人の実力以外に環境に合わせた戦いが必要になりそうだ。
『選手は位置についてください』
再びアナウンスがかけられる。
茂っている木が影となって相手の姿は見えないが、今はまだ向かい側の入り口の近くにいるのだろう。
『それでは、開始してください』
開始の合図と共に俺は目を氣で強化してから走りだす。俺の動きに次いで赤江と野上も走りだした。
作戦と言うほどの作戦は立ててない、というより何も立ててない。
俺が二人に言ってあるのは、俺は相手のいる方に一直線に向かう、ということだけだ。ここで注意しておきたいのは、俺は二人についてこいということは一切言っていないという点だ。要は彼ら二人は自分自身の判断で俺についてきているということ。二人とも好戦的ということは疑う余地もなさそうだ。ちなみに氣で強化していなくても身体能力で明らかに俺は上回っている自信はあるので、スピードについてはあえて少しばかり落としていたりする。
俺の理想としては、相手がバラけてくれること。相手が一人一人になっているところを三人で一人ずつ叩いていくという戦法だ。
「現実、そんなにうまくいかないよな……」
相手の動向を探ってみた後、足を止めることはせずに、一人ぼやいた。どうやら相手はこっちの先制攻撃を待つような形をとるようだった。
目を氣で強化することで分かるのは、相手の位置取りと魔力の動き。正確には『魔力』の動きが分かるから相手の位置取りが分かるのだが。目を強化することで見えるのは『氣』と『魔力』。『体氣』というのは生き物ならどんなものでも持っているし、それ以前に『空氣』もあるのでこういう自然のある場において、『氣』だけでは人の識別はやり辛い。だが、魔力は人間や一部の魔物くらいしかもっていない。それに魔力には色がある。たとえば火属性だったら赤、水属性なら青、といった具合だ。
ちなみに相手はそれぞれ、火、土、風の魔法を準備して適当な場に待機をしている。距離はおよそ百メートルくらい先。
俺はここで少しばかり考えた、一人で行くべきかどうかを。一応は二人にも伝えておくのがいいのではないかと。
「やってみるか……」
俺は自分一人で奇襲をかけることにした。
理由としてはなんかこうした方がいいような気がしたから。つまりは直感。他にも連携を取れる自信がなかったという理由もあるが、どっちかというと前者の理由の方が決定の理由は大きい。正確にいえば俺の直感が三人でやってもうまくいかないと告げているから、百パーセント「連携に難あり」ということになるのだがそれはおいておくことにしよう。
自分の中で結論を出したので、俺は迷わず足を強化し、地面を力強く蹴り、さっきの速度とは比較にならないスピードでその場から駆け出す。
後ろから何やら間の抜けた声が聞こえた気がするが、気にしないことにして、前の標的に意識を絞る。
どうやら相手の三人はひらけたところにいるようだ。恐らくもうちょっとつき進んだら、走りながらでは木の影をうまく使ったとしても、俺の姿は見つかるだろう。
ゆっくりとばれないように隠れながら進めば話は別だが、今はそれをあえてしない。
「――!!」
どうやら相手にばれたようだ。俺の目に映る相手の魔力の色が、先ほどと比べて一層強くなる。魔法が発動する一歩手前だ。
だがそんなのは関係なく、俺はただつき進む。目的は俺自身に相手の注目を集めることなのだから。
「『アースランス』」
そして次の瞬間には、三人のうちの一人の茶色の魔力がはじけた。そしてその魔力は地面に集中し、土の槍となって連続して俺に襲いかかってくる。
地面からの攻撃は、見えないところからの攻撃となるので、普通なら避けることは困難だが、どこから来るか知ることができる俺にとっては、特に問題は生じない。
そして、次の行動として、俺は片足で地面を叩きつけ、大きく飛び上がった。『体氣』を使った俺のジャンプは、相手の頭上を大きく飛び越える。
だが、大きく飛び上がるということは、その間は空中にいるということ。当然その時間は、大きな隙となる。
「『ウォーターボール』」
「『フレイムランス』」
それを見逃すほど相手は馬鹿ではない。
青色の魔力と赤色の魔力がそれぞれはじけ、方や水の玉に、方や火の槍へと形を変え、俺に襲いかかってくる。まともに喰らえば、きっと場外送りとなるだろう。
「ふっ!」
俺はその攻撃に向かって足を振り切る。
すると、かまいたちのような鋭い風の刃が生まれ、それは相手の二つの魔法に向かっていく。
使ったのは風の魔力をまとわせた魔空技。
二つの魔法と俺の魔空技が衝突しようかという瞬間、魔法は弾け飛ぶように散っていき、一直線に二人の相手に向かっていく。
ギョッとしたような表情をしながら、相手は大きく左右に分かれてそれを回避する。
そして、相手の元いた場所にかまいたちが襲いかかり、大きな衝突音がなり、同時に砂煙を起こす。
三人の相手は俺一人に完全に翻弄されていた。
気づけば俺にのみ視線が集められ、ほかの認識が疎かだった。それが命取り。
「『フレアトルネード』」
「『アースレイン』」
下からは火の渦が襲いかかり、上からは石の雨が降り注ぐ。
陣形が崩れていた上、さらには体勢も悪くなっていた相手に、それを避ける術も防ぐ術もなかった。
二つの魔法をまともに喰らった相手は、為す術もなく、場外へと転送されていった。
「勝者、第六学園」
勝者を告げるアナウンスと、大きな歓声が会場を支配したとき、俺は勝ったこと感じ取った。