第八十四話 メンバー
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土御門さんとの対談を終えてに戻ってくると、興奮した様子のトシの出迎えがあった。いの一番で俺と土御門さんの対談の内容を訊きたかったらしく、数十分前から待っていたとのこと。わざわざそこまでしなくてもと思ったが、相手がトシなので口には出さない。
こっちに着いたのは時間帯的に夕飯の時間だったので、食べながら話すと言うことで一緒に食堂に向かうことになった。
トシにプラスして美佳と美月さん、そして明らかに美月さんに無理やり連れてこられたと思われる鷹已さんが俺の周りに集まった。個人的に優姉が来なかったのが意外だったが、生徒会としての仕事がまだ終わらないらしく、夏目さんと共に仕事をこなしているらしい。
「それでどんな話だったんだ?」
いの一番でどんな話だったか訊きたかったトシは、少しばかり不機嫌な様子になっていたが、仕方ないと割り切ったのか、気を取り直して訊いてきた。
それを皮きりとして、興味を持った視線が俺の方に集まってきた。鷹已さんからが一番強いと感じたのは意外だったが、それだけ推薦の話というのは、誰もが気になるものなんだなと実感した。
「別に対した話じゃなかったぞ。ただ単に推薦の話があっただけ」
口止めをされていたので余計なことは喋らないで、簡潔にその質問に答えた。
「……それだけ?」
「はい、それだけです」
少し間が空いた後、やはりというかなんというか美月さんが期待はずれと言いたげな顔で確認してきた。ついでにトシも面白くなさそうな顔をしている。
俺はそれに頷いて肯定を示す。
「えー、つまんない」
「美月ちゃん。そういうのは、よくないよ」
「そういう百花が一番好奇心剥き出しな目で、哲也くんを見てた気がするんだけどなあ~」
「えっ、そ、そんなことないよ……!」
鷹已さん、残念ながら美月さんの言うとおりです。とは言えないので、とりあえずそれなりの答えを返しておくことにする。
「すいませんね……話したくても口止めを受けているので詳しいことは話せないんですよ」
「そ、そうなんだ。なら、仕方ないよね」
「私は何となくそんな気してたけどね。哲也くんってそういうところに関しては、妙にまじめだし」
「約束はちゃんと守るという褒め言葉として受け取っておきます」
そんな感じで土御門さんとの対談の話題は流れていき、次第に話は明日の競技の話に移っていた。
「それで、明日は二人とも競技があるわけだけど、自信の方はどうなの?」
「結構自信ありますよ。最低でもA評価は貰うつもりです!」
「すごい、自信……」
「うーん、頼もしいね!」
自信ありげに答える美佳の姿は実に堂々としていた。何回か美佳から話は聞いていたので自信があることは知っていたが、改めてその言葉を聞くと美月さんが言っているように実に頼もしい思う。芸術はチーム競技なので美佳一人では良い作品にはならない。
つまりは、チーム全体を信頼できていないとこんな言葉は出てこない。メンバーを信頼できることは少し、いや、かなり羨ましい。
「それで、哲也くんの方はどうなの?」
質問を振られることはなんとなく予期していたが、それでも俺はこの質問に対して正直に答えるか悩んだ。
「……それなりにいけるんじゃないかと思います」
「考えてた割に、ずいぶんと曖昧な答えだね」
「なんか、頼りない……」
先輩二人に言われると、特に鷹已さんからさりげなく言われると、あちらこちらにグサグサと何かが刺さるような感じが……
「ま、哲也なら一人でもなんとかなんだろ」
そんな中、俺のメンバーとの実情を知っているはずのトシがそんな風に言ってきたので、俺は呆れたように言葉を返す。
「おいおい、さすがに過大評価しすぎだろ……相手は学園のトップを三人集めてんだろ? それに六家の奴らもいるし。そんな上手くいくわけないって」
「でも確かに哲也なら、なんだかんだで一人でもやっちゃいそうよね」
「美佳まで……」
口では呆れたような感じを出すが、美佳にそう言われると、トシとは違って妙なうれしさがある。なんというか、こそばゆい。
「期待、してるよ……?」
頼りないとは思われているようだが、なぜか期待はされるようだ。これはもう、プレッシャーでしかない。
「なんだかんだ言って、ここにいるみんな、それに会長とか夏目さんも、君に期待しているということだよ」
きっと美月さんは俺にプレッシャーを与えたいだけだろう。だって、ニヤニヤしすぎだし。
「とりあえず、自分のやれる限りのことをやりたいと思います」
悪戯心が混じっている人もいたけど、それでも期待を寄せてくれる人の気持ちを裏切りたくはない。
いい結果を絶対残そう。そんな決意を改めて付ける機会になった夕食だった。
――――――――
そして、対人の予選が行われる日の朝。
いつものように朝食を食べた後、優姉によって作戦会議という名目でメンバーに集合がかけられた。
「別にこんなことをわざわざしなくても、僕がいる限り負けることなんてないですよ」
対人のメンバーの一人は、赤江烈だ。
そう、覚えている人もいるだろうが、俺が入学した最初の方に模擬戦を行った際の相手チームのリーダーをしてた奴だ。
俺の意識では戦ったときのバカな印象が残っていたので、それほどの奴だとは思っていなかったが、赤江家の人物と言うだけあって、俺らの学年の中での実力はかなり高い方らしい。
「まあまあ、君に実力があるのは分かるけど、作戦を立てることのの重要性は、今年の模擬戦でよく分かったと思うんだけどなー」
優姉の嫌味を聞かせた言葉に、何も言い返せず言葉に詰まる赤江。きっとあのときの模擬戦はこいつにとっては苦い経験だったのだろう。
「クックッ……」
「……おい、何を笑っているんだ?」
そう言いながら赤江が突っかかったのは、三人のうちのもう一人のメンバーである、野上斗真だ。
「いやあ、何も言い返せずに言葉に詰まる貴族様の姿は、実に滑稽だなあと思っただけですよ」
「き、貴様!」
明らかに挑発と取れる言葉をふっかける野上に、それにいとも簡単に乗る赤江。
俺はため息を吐かずに入られなかった。
ちなみにこの光景はこの二人がそろうとよく見られる。
ここは俺が止めるべきなのかもしれないが、それをして良い方向に行ったことはない。かと言ってそれが放置しておく理由にはならない。
「落ち着けよ、二人とも。会長の目の前でそんなことを続ける気か?」
「ふんっ!」
「ちっ」
会長という単語には効果があったようで、鼻を鳴らしたり、舌打ちをしたりと不服を表す動作はあったものの、それだけで二人は押し黙った。
「それじゃ、私は仕事に戻るから。後はよろしく。三人とも選ばれているって自覚を忘れないでね」
「えっ?」
優姉はそれだけ言い残してどっかに行ってしまった……って俺らの作戦会議の様子の監視とかしてくれんじゃないの!? 今さっきの様子を見れば、優姉がここから消えたらどうなるかくらい予測つくでしょ!?
「おい、楠木。いい作戦を考えた」
「なんだ?」
あれ? 意外にうまく進行しちゃう?
「まずはフォーメーションからだが、赤江を前に立たせ、その後ろに俺ら二人がつく。そうすれば相手の意識が赤江に向くことは必須。そこを五人で赤江を叩く! 三対二と不利な状況にはなるが、みんなのストレスは解消される」
なんて一瞬でも思ってしまった俺は、バカなのかもしれない。でもこれをやって思いっきり赤江を叩くのは案外面白いかもしれないと思う。思うだけで実行に移す気はないけど。
「そんなに僕を陥れたいのか?」
「なんだよ、怒るなよ。冗談すら分からないなんて、これだから貴族は」
「なっ!? 僕をバカにしてるのか!?」
「言外にそう伝えたつもりだったんだけど?」
「きさまぁ!!」
再び野上の挑発に乗った赤江は、小規模ではあるが魔法を放とうと――
「ってさせるか!」
赤江の魔法の行使をやめさせるために、俺は咄嗟に間合いに入り、赤江の腕を掴み背負った後、勢いよく地面に叩きつけた。
「あっ」
俺の口から漏れたのは間の抜けた声。横では野上が爆笑している。
当たり所が悪かったのか、全く受け身を取れなかったこともあったのか、赤江を気絶させてしまった。
幸い、数十分後に目を覚ましたが、作戦など全く立てることができず、さらに俺と赤江の溝は深くなってしまった。
そんな俺らの都合など関係なく、対人の予選が始まった。