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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
82/128

第八十二話 不安要素

開いて頂きありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。



――――side 土御門隆次――――



 面白い奴が、すごい奴がいるもんだな。

 予選のレースを見てこの大会で初めてそういう輩を見つけた。

 あの歳で氣の扱いを心得ているのは素直に賞賛に値する。俺ですらまともに氣を扱えるようになるには十年はかかった。つまり俺の修練状況と同じだったとしても六歳から。純粋に恐ろしいと言える。

 何年もかけてギルドで経験を積めば、俺を含めた六家の者たちよりも活躍することが出来るかも知れない。それほどに氣というのは凄まじいものだ。

 予選のレースで面白いものを見れた分、決勝のレースが始まるまでの時間が少々もどかしく感じてしまったのは内緒の話だ。

 突如としてあらわれた氣を使いこなす男と風切家長男の風切雅人との対決。決勝のレースが始まる時には、血が沸き踊りそうなほどだった。

 だがそのレースが終わった時には、俺の血は冷めきっていた。正確には血の気が引いていたというのが正しいかもしれない。

 楽しみが消えたからとか興醒めしてしまったからとかそういう娯楽的理由からではない。

 それだったら『対人』で再び奴ら二人は対戦することになっているし、彼が見せたものは俺の想像以上だった。

 俺の血が冷めてしまったのは、その技を見てしまったことで、忘れることができないあのときの出来事が俺の記憶から鮮明に蘇ってきたからだ。


『別に魔法が使えなくても、六家を上回ることが出来る』

 

 それは二十年前の出来事だった。

 その時、俺は生まれて初めて経験した。

 魔法が無力化されることによる無力感。

 何も抵抗することが出来ずにやられてしまう屈辱感。

 そして、絶対的な力を持ち、憎しみで存在が覆われていた奴への恐怖。

 どれもこれも土御門家として普通に育っていれば経験することはなかったはずだ。

 

『これは私を陥れた罰。当然の報い』


 そう言ったのは元六家の人間だった。

 昔、魔法の才能がないと言って六家を追い出されたその本人だったのだ。

 楠木哲也が使ったあの技は、そいつが俺らの魔法を次々と吸収していった奴の特異技(・・・)とそっくりだった。いや、正確には少し劣化しているというべきか。奴は吸収した魔法を利用して俺らに跳ね返してきたのだから。

 そんな奴の復讐劇によって奴を追い出した家系は潰された。

 だから俺は嫌な汗をかかずにはいられなかった。

 楠木哲也は誰かしらに復讐という名の罰を与えるために、奴の手によって育てられたという仮説が頭の中で繰り返し流れているからだ。それと同時に奴もどこかしらの名家を追い出されているという仮説も立てることができる。

 俺はその当時よりは当然成長しているという自負はある。

 自分の力の無さを嘆いたあの日を境に俺はとことん自分の力を伸ばすために修行に打ち込んだ。ギルドの仕事に没頭した。

 それでも奴にはまだ勝てる気がしない。それに加えて奴に比べればランクは落ちるかもしれないが、十分に実力のある楠木哲也。

 もし、そいつら二人に襲われることがあるとすれば……どう考えても勝てる方法は見当たらないし、勝てる気がはっきり言ってしない……ここは思考を変えていこう。

 行動を起こした後に止めるんじゃなくて、その行動を起こさせないようにしよう。

 そのためにはどうにかして自分の目の届く範疇に置かなければならない。

 所詮は可能性でしかないのにもかかわらず、俺は急いで楠木に接触するために腰を上げた。



――――side 楠木哲也――――




「すごいじゃない! 風切くんを押し退けての優勝なんて!」

「おめでとう、二人とも」

「おめでとうございます」

「すごかったよ!」

「ありがとうございます」


 俺とトシが応援席に戻る途中、生徒会の面々が俺を出迎えてくれた。

 レース終了直後の風切との会話によってどこか収まりの悪い心境だったが、優姉をはじめとして祝福の言葉を掛けてくれる人たちにそれでは申し訳が立たないので、そんな気持ちはどこかに追いやって、その言葉を素直に受け取る。


「でもまさか本当に勝つとはね」

「あれ、信じてなかったのか?」

「そういうわけじゃないけど……正直なところ信じきれていなかったかも。どこか心の中では、ね」

「ま、結果を見れば風切は四位、俺らは一位だけどな」

「うん……」

「はーい、そこ。雰囲気作らないで」


 俺と美佳が二人で話を進めていると、美月さんが顔をニヤニヤとさせながらからかいの爆弾を投下してきた。


「べ、別に雰囲気なんて作ってないですよ!」


 美佳は顔を赤くさせながら、否定の言葉を述べるが、動揺が隠れもしていなかったのでほとんど意味を成さない。


「じゃあ、二人はどういう関係なの?」

「関係も何も、美月さんたちが思っているような関係じゃないですし、あり得ません!」

「あれ? 二人は友達っていう関係だと思ってたんだけどなぁー。美佳ちゃんが言う二人の関係ってどういう関係なのかな?」

「うっ……」


 美月さんは美佳の反応を見て一層笑みを深くしながら次々と追撃を仕掛けていく。そうしていくうちに美佳が白旗を上げたも同然に口ごもる。


「それくらいにしてあげたら?」

「はいはーい」


 ここでようやく今まで傍観者側に徹していた優姉が止めに入る。それによって意外にも美月さんはあっさりと引き下がり、話題をレースのことに戻す。


「それにしてもホントにすごかったよ。私たちも含めて観客席にいた人たちはみんな唖然としてたし」

「そうですね……不覚にも私も驚きのあまり何も言えなくなりました」

「大丈夫よ。今、美月ちゃんが言った通りほとんどがそんな状態だったと思うわよ」


 美月さんに続いて夏目さんが同調するようにそう口にする。

 そういう言葉を聞くと、やってしまったなと感じてしまうが、今更どうしようもないだろう。


「みんなをそんな風に唖然とさせる、魔法の無力化。一体どうやってやったの?」


 優姉の言葉をきっかけとしてみんなの目が一気に俺に集まる。

 そう、みんながこんな風に好奇心を寄せるような目で俺を見てくるのは、仕方のないこと。

 きっと観客席に戻るときにはもっとすごい視線が集まるんだろうな……想像するだけでもうんざりしてしまいそうだ。

 

「魔法じゃないですよね? なんと言うかそんな感じはありませんでしたし……」

「はい。魔法ではないです」


 俺がちょっとした自己嫌悪に陥っていると夏目さんが先陣を切ってあの技――空氣調和について質問をしてくる。すでに半分確信を持っていたような感じだったので、俺は誤魔化すことはせずに正直に頷く。


「魔法じゃなきゃ一体何なの?」


 やっぱりというか美佳も気になっていたらしく、夏目さんに続いて質問をぶつけてくる。

 俺はこの質問に正直に答えるべきか迷った。

 これまで生活していった中で、一般的に知られている『氣』というのは身体能力の強化、つまりは俺の使っている『体氣』に該当する。

 『六家』である二人に『空氣』によって魔法が無力化できることを知られてしまうといろいろと面倒が起りそうな気がしてならない。それに限度あるとは言え、魔法を無力化できる技の正体を容易く教えてしまうというのは、なんかダメな気がする。


「詳しいことに関しては内緒だ」


 だから誤魔化すというよりは、これ以上の追及を拒絶するように俺はそう答えることにした。


「教えてくれないの?」

「秘密兵器と言うのは正体を隠してこそ意味があるからな」

「なにそれ……」


 結局誤魔化すような言い方になってしまったが、俺の答える気がないということがそれで伝わったのか、美佳は俺の答え方に少々あきれる様子を見せて引き下がった。


「話は言ったん終わりにして、そろそろ観客席に戻ろっか」


 話のきりがいいところで、優姉がそう提案し、歩き出した直後だった。

 俺は普通の人よりも大きい威圧的な気配を感じた。俺は足を止めてそっちに顔を向ける。

 この感じを俺は知っている。開会式の時にも感じた。

 だから誰が来ているのかすぐに分かった。


「どうしたんだ、哲也?」


 気配がする方に視線を向けていると、足を止めている俺を変に思ったのか、トシが振り向いて声をかけてくる。

 おれがジッと見ている方向と同じ方向に目を向け、走ってやってきたその人をみて、トシは驚きを露わにしていた。優姉たちもその人物を見つけたようで同じように足を止めている。

 その人――土御門隆次は俺の目の前で足を止める。


「楠木哲也だな?」

「はい」


 走ってきたところを考えて何かあったのかと思い、事情を聞こうとしたが、先に声をかけられた。

 どうやらこの人は俺に用があるらしい。

 俺って何かしたかな? とか考えつつ、俺の名前の確認に対して素直に頷いて肯定を示す。

  

「ちょっと二人で話がしたいんだが……今、問題はないか?」

「自分は構いませんが……」


 そう問われて、俺は優姉に目を向ける。

 応援はいいのか、という意味を踏まえながら。


「いいわよ、行って来なさい」 


 その意図がちゃんと伝わったのか、優姉はほぼノータイムでそう答えた。

 そしてそのまま身を翻して、みんなを連れて応援席の方に向かっていった。

 その後ろ姿が見えなくなるのを確認した後、土御門さんは息を小さく吐き、俺の方へと身体を向ける。


「落ち着いたところで話をしたい。少しここを離れるが、いいか?」

「構いませんよ」


 あまり多弁する人ではないようだ。

 この人に対してそんな印象を抱きながら、すでに歩き出している土御門さんの背中を早足で追いかけた。



 

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