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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
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第八十一話 苛立ち

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 作戦も自分の新技もうまく行ったことによる高揚感に満たされながら、俺はゴールラインを突っ切った。

 俺がゴールをした瞬間、湧いていた会場が一瞬静まり返る。まるで信じられない光景を見たかのように。

 その一瞬の沈黙に反抗するように、俺が天に向けて拳を高く上げると、会場は最高潮を迎えたかのような歓声に包まれる。

 いつもよりも優勝した時の歓声が大きく感じるのは、予測でしかないが六家に勝ったことが一番大きいだろう。

 会場の誰もが六家が出ている競技はその本人が勝つと思いきっている。

 そのため六家の実力ではなく拮抗した戦いを見たい一部の人たちにとっては、六家が出る試合というのは少々退屈に感じている人もいるそうだ。

 だが、今回のレースではそれが破られた。今まででは考えられない光景が目の前で起きたのだ。

 思わず大きな声を出したくもなるのだろう。

 それにプラスして風切が一位を取れなかったことによる第三学園からの悲痛な声も加わっている。

 風切はトシの魔法を受けた後、それなりのダメージを負ったせいか、愛美さんがやっていたような自分自身に風を与えて加速するという方法をとらなかった。さらには風切のために放つ大規模魔法にすべてを掛けたせいか、第三学園の妨害役の生徒は、その後ほとんど何もできていなかった。そういうわけもあり、第三学園の順位は六家が出たにもかかわらず、四位という結果になった。


「やったな、哲也。作戦上手く行ったな!」

「おう!」


 全員がゴールした後、トシはすぐに俺に駆け寄ってきて手大きく上げてきた。

 俺はその意図を察して、同じように手を上げ、トシの手と合わせハイタッチをする。

 なんとも気持ちの良いものだなと思う。とりあえず一個目の競技を優勝することが出来て良かった。

 

「それにしても、本当に魔法を消し去るなんて、ビックリしたぜ。一体どういう仕組みなんだ?」


 目をキラキラさせながら聞いてくるトシ。

 氣についてあまり詳しく知らないトシに、俺が使った技について仕組みを説明するのは面倒くさい。

 ということでかなり簡略化させた説明をすることにした。


「……氣の応用だ」


 うん、自分でもすごく適当だとは思うが、トシ相手だったら妥当なところだろう。

 ちなみにトシがどのくらい知っているかと言ったら、氣で身体を強化できることくらいだ。つまりは氣という存在は知っていても、空氣と体氣という二つの種類があることは知らない。俺の技を説明するにはそこから説明を始めなきゃならないのだ。これで分かったと思うが、本当に面倒くさいのだ。

 トシはトシで俺がそれだけしか告げないことに不満を見せたが、俺の内心を悟ってくれたようで、これ以上の追求をすることはなかった。


「まぁいいや。なんか聞くと俺には理解できない訳の分からない解説をされそうで怖いからな」

「なんか、わるいな」

「気にすることなんてねえよ。目の前ですごいもの見れたんだからそれだけでいいさ。それより、あっちに戻ろうぜ」


 トシの気遣いに感謝しながら、競技場の出口に足を進め始めた――


「ちょっと待て! 楠木!」


 ――一歩目で後ろから声をかけられた。

 その人物の正体を悟った俺は、ため息をついて、そのまま歩き出した。


「いいのか?」

「いい」


 トシが気にしたようにして聞いてくるが、俺はきっぱりとそう答えた。が、それだけで終わるわけはなくそいつはしつこく俺に声をかける。


「待てって言ってるだろ!」

「本当に無視していいのか? 後々面倒だと思うぞ」

「ぐっ……」

 

 ズバッと言われたことで思わず唸るように声を出してしまう。

 確かに今は無視して戻ったとしても、こいつのことだから探しに来るだろう。

 俺は再びため息をついて、そいつに顔を向けた。


「なんだよ、風切」

「話はレースが終わった後って言ったのはお前だろ! なんで声かけてんのに無視すんだよ!」

「ああ……忘れてた。わりぃ」


 お怒りの様子の風切にそう言われて、そういえばそうだったなと思いつつ、適当に謝っておく。

 反応を伺えば軽くとはいえ素直に謝ったことが意外だったのか、なんとも言い難い表情をしていたが、すぐにその顔は引き締まった。


「……お前、一体何者なんだ?」

「いや、何者って言われてもな……楠木哲也だけど?」

「そういうことが聞きたいんじゃない!」

「分かってるから大声出さないでくれ」


 俺の答えが気に入らなかったのか、怒鳴るように言ってくる風切に、俺は落ち着けという意味を込めてそう言ってやる。


「魔法を無力化するなんて見たことも聞いたことがない。お前の苗字から、六家というわけでもなければ、どこかしらの名家って言うわけでもないんだろうし……」

「生まれなんて関係ない。生まれがよくたってダメな奴はいる」


 生まれの良さを前提として話そうとしてくる風切に対して、心の奥底から生まれてくる苛立ちを吐きだすように俺はそう口にしていた。

 その言葉、いや俺の声音の冷たさを感じ取ったのか、一瞬ではあるがビクッと反応した風切。

 確かに生まれがいい方が才能が授受されやすいのは周知の事実。風切が俺の生まれが良いと思うのは決して変なことではないし、逆に正しい。今回に限って言えば生まれがいいのは間違いなく当たっている。

 だからと言って才能が全員に引き継がれるというわけではないのもまた事実だ。

 最低限、俺という一個人は、生まれがよかったのにもかかわらず魔法の才能を受け取ることが出来なかったのだから。

 ここまで頭で思ってから俺はようやく気付く。

 風切に対する苛立ちの原因。

 それは魔法の才能に対する嫉妬だ。

 努力を大してしてない奴なのに、その才能のみで活躍することが出来る奴に対する嫉妬だ。 

 その事実が自分に浸透した時、俺はぐっと奥歯をかみしめていた。

 

「おい、哲也?」

「……一つだけ言っておいてやるよ、風切」


 トシに呼びかけられたことでハッとした俺は、競技が開始される直前に風切がしたように、自分が言いたいことを言ってやることにした。 


「才能だけに頼るのはやめた方が良い」


 心の中で「もったいないぞ」と付け足しながら、俺は風切の様子をあえて確かめることもなく踵を返し、出口にへと向かった。




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