表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
76/128

第七十六話 タワーズナイン(2)

開いて頂きありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 試合が終わった直後、観客席から大きな歓声がわいていた。


「やっぱり六家は強かったか……」

「でも、おしかったよね。第六学園の人」

「うん、そう思う」

「てかさ、レースの途中で変な動きしなかった? 風切さん」

「あったあった。まるで目の前に壁があったみたいに急上昇してた」

「特に何かあったわけでもないのにね。どうしてだろう?」

「さぁ? 私に聞かないでよ」


 それとは別に、レースの途中で何が起こっていたのかという会話がどこからか聞こえてきていた。

 答えが判っている俺としては、答えを教えてあげたいものだ。

 さらに近いところでは同じような会話を、優姉と夏目さんがしていた。


「もしかしてだけど、幻術魔法かな?」

「それ以外考えられないですけど、どうなんでしょうか……」

 

 優姉と夏目さんはお互いに顔を見合わせて思考を巡らせていたが、結局俺に顔を向けてそれについて尋ねてきた。


「美月が使ったあれは幻術魔法魔法なんですか?」

「はい、その通りです」


 今となっては隠す必要もないだろうと思ったので、俺は素直に頷いて見せる。

 それを見て優姉はやっぱりか……という納得した様子を見せる。


「やっぱりそうなのね。でもいつの間にそんな高等魔法を使えるようになったのかしら……」

「幻術魔法ってそんなにすごいものなんですか?」

「闇魔法の中ではかなり高いですね。規模にもよりますが、最低でも中から上級のレベルに間に属しています。元々闇魔法を得意としている人自体が少ないうえに、幻術魔法は使う人の相性もかなり重要となるので、難易度以前に珍しさで言ったら上級魔法よりも上かもしれないです。風切さんが引っ掛かったのもある意味仕方ないと言えますね」


 幻術魔法は闇魔法の中でかなり高いレベルに属していると聞いていたけどほんとだったんだな。

 朝の訓練の時に毎回のようにそれを受けるようになってからは、レベルの高い魔法という意識は薄れてきてたけど、こうして他の人の反応を見ると、改めて事実する。


「それでも勝っちゃうところは、流石の底力ね」


 この話を締めくくるようにそう述べた後、優姉は切り替えるように「さーて」と言って夏目さんの方を向く。


「次は涼香の出番よ! 美月ちゃんの仇、とって来なさい!」

「そんな無茶苦茶なことを言われましても……勝てるかどうかなんとも言えないのに」

「そんな弱気でどうするのよ」

「事実は正確にとらえる主義なので。まぁ、当然負ける気はありませんよ」


 力強く言って見せる夏目さんの姿は、どこか期待をしたくなるオーラを纏っているように俺は感じた。



――――――――



『これより、タワーズナイン、準決勝、一回戦を始めます。選手は入場してください』


 もう大分慣れてきたが、アナウンスの始まりを告げる声が聞こえてきたことによって、いつものような大きな歓声が会場内に広がる。


「どう思う? 策があるって本人は言ってたけど」

「会長が知らないことを、俺が知る訳ないでしょう」

「でも美月ちゃんのときは知ってる感じだったじゃない。もしかしたら凉香とだってあるかもって思うのは変ではないでしょう?」

「そうかもしれませんけど、今回は本当に知らないです」

「ふぅん……」


 少しの間疑わしげな視線を向けていたが、嘘を言っていないということを理解してくれたのか、やがて競技の方に目を移していた。俺もそれに習うようにして、同じように目を向ける。

 そこには火花を散らすように見合っている二人の姿が目に映った。

 両者とも緊張の色は薄く、強ばっている様子は全くない。きっと存分に力を発揮することだろう。

 どんな試合になるか、胸をワクワクさせながら、勝負の行方を見守る。


『準決勝、第一試合、始めッ!』


 試合開始の合図と共に二人は詠唱を始める。

 愛美さんは一、二回戦と作戦は変わらないようで、上級魔法を放つために長めの詠唱態勢に入る。

 一見すると無防備でしかないその立ち姿だが、何をするか分かっている身からすると、一種の恐怖からどことない圧迫感を感じてしまう。

 実際二回戦の相手は最初はまだ良かったが、時間が経つにつれて焦りと不安から普段の力を発揮しきれていないようにも見えた。

 そんなこともあったのだが、夏目さんは自分のことに意識を集中するためか、瞑想でもするかのように目を閉じて、呪文を唱えていく。

 両者ともに一手目が出されない。それ故に静かな試合風景。

 愛美さんが放つ魔法も掛け合わさって、まさに嵐の前の静けさのようにも見える。

 観客席からは固唾を呑む音まで聞こえてきそうだった。

 そんな中、ピキピキッという空気が固まるような音が聞こえてきた。

 どうやら夏目さんが魔法を完成させたようだ。

 先の試合よりも長い詠唱だったために、何か違うことをやるかと思っていたが、愛美さん同様に一、二回戦と同じ戦法を取るようだった。

 自陣にある九本の大きな柱を飲み込むように競技場が氷の世界に包まれていく。

 そこで愛美さんが動き出しす。

 魔法を制御するように、両手を前に出して構えた次の瞬間。夏目さんが作りだした氷の世界に嵐がやってくる。

 荒れ狂う風は、表面の氷を削り取るほどの威力があるようで、それも巻き込んで吹雪のように唸りを上げる。

 一本、二本と倒れていく、夏目さんの陣地にある柱。

 その光景を見て、観客からは息が漏れた。

 きっと『やっぱり同じ展開か』と思ったのだろう

 次々と傾いてはあらぬ方向に大きな音を立てて柱は倒れていく。

 創りだした幻想は夢と同じようにいとも簡単に崩れさる。そんな風に感じてしまう。

 中心に佇んでいる、氷の蔦に巻きつかれた一本の柱がそびえ立つ様を見るまでは。 

 周りにある氷はその柱を中心にして根を張るように広がっている。

 よく見てみれば、先の試合とは違いその一本以外には氷が巻きついてはいない。

 その一本のみ、一か八かで倒れないように固定するようにしたのだろう。

 その賭けに負けた愛美さんは目を見開いて驚愕の表情を露わにしていた。

 その賭けに勝った夏目さんは冷静に次の魔法を発動する。

 放たれた水の玉によって倒れる愛美さんの陣地の柱。反撃の狼煙と解釈できるその攻撃は、観客席を湧かせるのには十分な展開。

 二本目、三本目と柱が倒れるとともに歓声は大きくなっていく。

 だが、それはすぐに静まり返る結果になった。

 大きな支えになっているとはいえ、所詮作りだされたのは氷。氷が熱に弱いのは当たり前のこと。

 愛美さんによって放たれたのは、熱を帯びている風魔法。すなわち熱風。

 蒸気が目に見えるほど、急激に溶けていく氷。

 風そのものの力も弱いということはなく、氷が溶けていくにつれて残り一本の柱はグラついていく。

 そして、夏目さんが六本目の柱を倒したところで、夏目さんの陣地の柱はすべて倒れきった。


『勝者、第三学園、風切愛美』


  

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ