第七十三話 秘密
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本日の競技が終わった夜。
俺は今日も優姉の部屋に連行されていた。
「それじゃあ、百花ちゃんの準優勝を祝してーー」
「「「カンパーイ!」」」
連行されてすぐに、ジュースが入ったコップを持たされ、乾杯の音頭がかかる。
何もわからないまま声をかけられた為に戸惑ったが、流されるがままに音頭に合わせてコップを軽くあげる。
「私なんかの為に、本当に良かったんですか? 準優勝だった私よりも優勝した会長を祝した方が……」
「いいのよ。私は昼のうちに十分祝ってもらったから。今はあなたが主役よ」
謙虚な性格の鷹已さんは、自分よりも成績の良かった優姉が祝われることを推すが、優姉はそれを優しい声音で遠慮する。だが、鷹已さんはそれでも納得のいかないといった様子だ。
「でも……」
「百花のおかげもあって、うちらは一位をキープできてるんだから、もう少し受け入れてもいいんじゃない? それとも何、祝われるのが恥ずかしいの?」
美月さんの予測は合っていたようで、鷹已さんは恥ずかしそうに俯いた。
「この極限までの人見知りがなかったら優勝できたのかもしれなかったのになぁ」
「優奈、それはもうなしですよ。終わったことを言ったって仕方ありません」
「まぁ、そうなんだけどさ」
優姉の言いたいことも分かる。
決勝戦はなかなかの良い勝負、どちらかと言えば鷹已さんの優勢だった。
しかし、途中で何かあったのか、鷹已さんの動きが止まり、突如おどおどし始めたのだ。
恐らくだが、そのときに鷹已さんの人格が元に戻ってしまったのだろう。
その隙は大きく、相手に大きなポイントを与えてしまった。
終盤にはなんとか持ち直し始めたが、すでに時は遅く、結果負けてしまったというわけだ。
「それにしても、鷹已さんの魔力ってすごいですよね」
一分魔法は本当に魔力がものを言う競技だ。一分間魔法を放ち続けることもそうだが、次の試合までのインターバルの時間が短いのもその理由だ。
だが鷹已さんはすべての試合をほとんど変わらずに、魔法を放ち続けていた。
つまり相当の魔力量だと予想できるのだ。
「そういえば知らなかったっけ? 魔力だけだったら、百花ちゃんは私よりも高いわよ」
「えっ!? 本当ですか?」
それは驚いた。六家の一人である優姉よりも高いなんて……
そこまで高いとは思いもしなかった。
「でも私は、制御が下手だから……」
「それにしてもすごいですよ。何か特別なことでもしたんですか?」
ストレートに誉めると、これまた恥ずかしそうに、鷹已さんは俯いてしまう。
そんな鷹已さんの代わりに、答えたのは優姉だった。
「確か二重人格がどうたらこうたらだっけ?」
「説明するならもう少しまじめにした方が良い思いますよ?」
そう言って夏目さんは優姉に変わって説明を始めた。
「まず、百花さんは標準的な魔力を保持する人の二倍の魔力を保持しています。なんとなく予想ができてると思いますが、優奈が言った通り二重人格が故です。あまり詳しい事は分かりませんが、一つの人格につき一人分の魔力を保持していることになりますね。百花さんに限ったことではなくて、今のところ最大で三重人格の方でこういった変異が起きています」
「つまりは三倍?」
「そういうことになりますね」
常人の三倍とか、非常識すぎるだろ……
魔力の少ない俺からしたら、めっちゃ羨ましい。
「とにかく私が心配するなって言った理由は分かったでしょう? この競技はある意味百花ちゃんのためにあるようなものよ。制御は甘くても、魔力だけでほとんどなんとかなっちゃうからね。今回は事故的な出来ごとで負けちゃったけど」
「うぅ……すいません」
「そういうわけだから、来年までにこの性格を少しでも改善させるために、生徒会で人前に出る仕事をやるときは、百花ちゃんに任せるときがあるかもね」
「えぇー!?」
優姉からの連続的な攻撃(口撃)に鷹已さんは、しょんぼりしたり、たまらず大きな声を上げてしまったりしていた。
てかこれって祝うというより、反省会をしているような気がするんだが……
「どうしたの哲也?」
「いや、なんでもない」
俺の考えが表情に出ていたのか、美佳が俺の顔を覗き込むように見て、声をかけてきたが、軽く流しておく。こういうのは気にしたら負けだろう。
「さーて。ちょっと空気が白けちゃった気がするけど、ジャンジャン飲んじゃおー」
優姉はそう言ってコップに残っているジュースをぐびぐびと飲み干す。
「ほら、みんなも飲んだ飲んだ!」
この優姉の一言がきっかけとなって今夜もどんちゃん騒ぎという名のガールズトークが始まる。
俺はその中心には入らずに飲み物に適当に口をつけながら、出来るだけ傍観者として端で見守るようにする。
下手に巻き込まれないように。いろいろと危険すぎた昨日の夜を思い返しながら。