第七十二話 インフェニットワン
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「おめでとう!」
「おめでとうございます、会長」
「かっこよかったです!」
集まっている人たちからの、労いの言葉を受ける優姉。
結局、優姉は圧倒的な実力差を見せつけて、ブレイクボールの優勝を決めた。
一回戦のようなえげつないやり方は、あの一回のみだった。理由としては、夏目さんから説教的なものを受けたからだと予測できる。
二回戦以降の戦いは、先手を打つ戦い方で、相手に一ポイントもとらせないという完封勝ちですべての試合を終えた。
ある意味それもそれで相手は可哀想だと思ったのは俺だけではないはず……
「優勝しちゃいました!」
「しちゃいましたって……」
次の競技が始まるのは午後であり、昼食を食べるための休憩時間。
その休憩時間を利用して、集まっていた生徒会の面々(野田さんも含む)のところに、労いの言葉をかける人垣を抜けてやって来た優姉は、席に座ると俺の方を向いてピースをしながらそう言ってきた。横では俺の言葉を代弁するかのように、美佳が呆れた様子でそう口にする。
「言われ飽きたと思うけど、優勝おめでとう、優奈」
「うん、ありがとう」
夏目さんからの言葉に優姉はストレートに嬉しさを表現して見せる。
「とりあえず、優勝できて良かったわ。もう一人トーナメントに進出した子も一回戦は勝ってベスト四には入れたようだし、得点的には暫定一位。午後の競技でも良い結果を出して、是非とも今日は一位をキープして終わりたいところね」
「次って確か、一分魔法でしたよね?」
「そうだよ。つまりは百花の出番!」
「百々ちゃんには、優勝を目指してもらうよ?」
「……そうやってわざわざ注目を集めるように、言わなくて良いからね? 美月ちゃん。それに、会長もプレッシャーをかけないでください……」
相変わらず弱々しい様子の鷹已さん。二人の煽りに少し涙目な様子だ。
「競技まで、あと少しなのに、そんなのでどうするの? 競技する人の注目の集まり方なんて、こんなもんじゃなかったでしょ?」
「うぅ……そうだけどさぁ……」
そんな様子からして注目を浴びるところでは、どう見ても自分本来の力は、出せるようには思えなかった。きっとこのままでは、一回戦も勝てずに終わってしまうのではないかと心配になる。
俺以外でもそう思っている人は多いはずだ。
「大丈夫よ。昨日の夜に言ったでしょう? ちょっとした策があるって。勝てるかどうかは兎も角、本来の実力はちゃんと出せるようになるはずよ」
そんな俺らに対して、優姉は心配するなとばかりに、不敵に笑って見せた。
――――――――
『これより、インフェニットワンを、開始します』
インフェニットワン。
とにかく魔法を放ち、相手にぶつけるだけの競技。
シンプルな内容ではあるが、その見た目は、競技大会一カオスらしい。
そんな風に考えると、どうも鷹已さんの性格的には合わないような気がする。
そういうわけで優姉に聞いてみたら、
「あの子はあんな風に弱弱しい性格だけど、生徒会の役員ってことを忘れてない?」
そんな風に返されてしまった。
要はそれだけの力があるということを言いたかったのだろう。心配する必要はないと。
まぁ、そもそも実力がなければ、ここにすらこれてないわけだし、きっと大丈夫だろう。
………………
…………
……
『続いて、第六学園、鷹已百花。第四学園、小林秋子の試合です』
いくつかの試合を消化し、ついに鷹已さんの出番がやって来たようだ。
防御を考えずに、お互いに全力で魔法をぶつけ合うだけあって、噂通りの迫力だった。
そんな試合をいくつか見た俺は、鷹已さんの性格的に合わないよな、と改めて思っていたりする。
「……ん?」
両者が入場してきたとき、俺は少し変に感じた。
こんな大衆に見られているのにも関わらず、平然と入場してきた鷹已さんに。
勇気を振り絞って、そういう風に振る舞って見せてるなら、まだ理解できる。
だが、あそこにいる鷹已さんは、むしろ受けている視線を心地良いと感じているように見えるのだ。
「いやー、少し手間取っちゃった」
「優奈? 今までどこいってたんですか?」
息を少し乱してやって来て、なにかしらやってきたように思わせる発言をする優姉に、どこに行っていたのか尋ねる夏目さん。
その時俺は策があるとかどうとか言っていたことを思い出していた。
「やっぱり会長が、鷹已さんに何かを吹き込んだんですか?」
「そうよ。たぶんあの子は今頃、民に崇められている女王の気分のはずよ」
「……そういうことでしたか。確かにそれなら緊張でダメになることはあり得ませんね」
優姉からの答えを聞き、夏目さんは納得したように頷いていた。俺も、優姉が何をしたのかを理解した。そして同時に思い出した。鷹已さんにはもうひとつの人格があることを。あの女王様気質の人格を有していることを。
つまり優姉は、あの人格を、どうにかして引き出してきたというわけだ。
「しかし、一体どうやって引き出したのですか?」
「んー、秘密ってことで。言っちゃうと本人が可哀想だし」
「そうですか……なら聞かないでおきます」
それで会話は締め括られ、二人は競技者の方に目を向けた。
俺も気になったが、優姉がそう言う以上、聞かない方がいいのだろうと思い、同じように視線を移す。
気づけば、すでに競技者二人は、場につき、向かい合っていた。
『始めッ!』
始まってすぐに、鷹已さんは詠唱を終え魔法を放った。相手の魔法は少し遅れて放たれる。初っぱなから、ぶつかり合う魔法に、会場は沸き上がる。そんな歓声に応えるかのごとく、次々と魔法を放ち合う二人。
均衡が崩れたのは、それから半分が過ぎた頃だった。
鷹已さんが最初に先制して魔法を放ってから、防戦の形だった相手は、ついに耐えきれなくなり、鷹已さんの魔法を一撃受けたのだ。
周囲に張られている壁が光り、鷹已さんの方にポイントが入る。
時間が経つにつれて、質の落ちていく相手に対して、今だ威力が衰えない鷹已さん。
さっきの一撃は、徐々に開いていく差がついに一定以上になり、相手が耐えきれなくなった証拠。
次々と鷹已さんの魔法が相手にぶつかっていく。
残り十数秒。
観客の誰が見ても、鷹已さんの勝ちは確定的だった。
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