第七十話 一日目の終わり
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愛美さんのあの凄まじい魔法を見せられた後だったため、一回戦の第二試合は、どこか迫力に欠けているように感じてしまった。普通の人が使うのはまず無理な類いな魔法を使ったわけなので、しょうがないと言えばしょうがないし、当然と言えば当然だ。
『続いて、第一学園、谷川優里。第六学園、夏目涼香の試合です』
アナウンスによって次の対戦カードが発表される。
それによって人気の差によって多少応援の力の入れ方が変わるように感じられた俺のいる応援席から、優姉の時と比べても全く劣らない声援が送られる。
それもそうだろう。優姉に人気があるように、夏目さんもクールビューティーと形容したくなるその容姿によってかなりの人気を誇っているだから。
優姉と夏目さんと一緒にいるところを見られたときは、怖いくらいの量の視線が投げ掛けられたものだ。
その夏目さんが入場してくる。
美人さんの登場によって、会場は愛美さんの時と同等の盛り上がりをみせ、大きな歓声が送られる。
第一学園の人にはかわいそうだが、明らかに観客席からの声援は、夏目さんに偏っている。
そんな声援を受けながら、夏目さんは特に表情の変化を見せないまま、すたすたと自分の立つべき場所に向かっていく。
やはりというか視線には慣れているようで、少なくとも俺からは緊張しているようには見えなかった。
そんな感じで夏目さんの様子を窺っているうちに、両者とも自分の場所についていた。気付けば選手たちの集中を乱さないようにか、観客席から大きな声が発せられることは無くなっていた。
そのタイミングを見計らったように、アナウンスがかけられる。
『第一回戦、第三試合――始めッ!』
アナウンスの合図と同時に詠唱を始める二人。
先に動いたのは夏目さんだった。
魔法を発動させたのか、地面から生え伸びてくる蔓ように氷が巻き付くように絡まっていく。
自陣のすべての柱に。
その意図を計りかねたが、すぐにその理由はわかった。
夏目さんが魔法を発動した直後、相手選手が魔法を発動させる。
現れたのはいくつかの火の玉。
それがそれぞれの柱に向かって、一つずつ向かっていく。そして柱に衝突し爆発を起こす。
しかし、夏目さんの柱はびくともしなかった。
ここに来る選手が威力のはき違いをするわけはない。少なくとも火の玉それぞれに、柱を倒す威力はあったはず。
だが、柱は倒れなかった。
それから得られる結論。夏目さんが最初に使った魔法は、自分の柱の支えとなる軸を作ったに違いなかった。
この状態になった柱を倒すには、この氷を溶かす魔法を使うか、この防御力を上回る攻撃をするしかない。
相手は後者を選んだようで、さっきよりも火力を大きくして、さっき使った魔法(火の玉をいくつか放つ)を同じ柱にぶつけるようにして使った。一つぶつかるごとに少しずつ柱は傾き、最後の一個でようやく一本の柱を倒した。
火力を大きくする分、魔力をそして時間を使うのは必至。
その間に、夏目さんは三本、いや今さらに倒したから四本目を倒していた。
勝負の結果は、見るからに明らかだった。
――――――――
「三回戦進出おめでとう、涼香」
「おめでとうございます」
「さすがでしたよ」
優姉を皮切りに俺らは次々と労いの言葉をかけていく。
優姉のこの発言でわかる通り、夏目さんは二回戦も勝利を納め三回戦進出を決めた。
ちなみに今は、今日の競技を終え、夕食が終わって後は寝るだけ、なのだが優姉から誘われたため、俺は優姉のホテルの部屋に来ている。
他にも人はいて、美佳とか美月さんとか鷹已さんと夏目さん。いわゆる生徒会の面々が揃っていた。野田さんは誘われなかったらしいけど。
それを知って男子一人と言うことがわかって、逃げ出そうとしたけど、無駄だった。
こういうのって男子禁制じゃない? 的なことを言ってみたけど、無駄だった。危険を感じない訳じゃないけど、どうしようもないのだから、仕方がない。そんなわけで今の状況。
「皆さん、ありがとうございます。初戦敗退だけは避けたかったですしね。生徒会としての面目は保てたかなと思います。勝てたお陰で肩の荷が少し軽くなりましたよ」
夏目さんはそう言って、柔らかい笑みを浮かべた。
「なに悠長なこと言ってるのよ。次が一番の勝負所なんだからね。絶対勝ちなさいよ?」
「相手が誰でもそうですけど、絶対に勝てる保証なんてないですよ」
優姉の言葉を聞いて、夏目さんは少し呆れたような表情に変わる。
「それに相手はあの六家ですからね……あの魔法を防ぎきる方法を考えないと」
夏目さんは悩ましげに考えながら、テーブルに出ている、甘い一口チョコレートを口に入れる。
あの魔法とは、愛美さんの放った嵐を呼んだようなあの魔法だ。愛美さんは二回戦もその魔法を放って勝利を納めている。
つまりは、あの魔法を攻略しない限りは勝ち目はないということだ。
「何か策はあるんですか?」
俺からの質問に夏目さんは曖昧にだが頷く。
「一応はありますよ。通用するとは思えませんがね。とりあえずやれることをやるだけです」
「ま、どんな策にしろ期待はしているわよ」
「全く、プレッシャーをかけてくれますね、あなたは。私はあなたと違って、そういうのに弱いと言うのに……」
「なに小心者気取ってんのよ。いつも人前に出て注目集めてるくせに」
確かにプレッシャーを感じている様子はなかったような……
夏目さんはズバリと優姉に言われて旗色が悪いと感じたのか、話題を移した。
「私の方は明後日なのでどうでもいいですけど、明日は的当ての決勝トーナメントです。優奈は大丈夫……って心配するだけ無駄ですね。まず負けることはないでしょうし」
「ちょっと扱いひどくない?」
「べつに問題ないでしょう? 優奈ですから」
「それもそうですよね。どちらかというと明日のことで気になるのは百花ですよ!」
優姉がぶーたれているのを他所にして、二年生二人が話を進め出した。
「美月ちゃん……注目されるようなこと、言わないでよ」
「そんなこと言っても、逃げようがないわよ? ていうか今からそんなにおどおどして……大丈夫なの?」
「うぅ……大丈夫だよ。たぶん……」
「たぶん?」
「……きっと」
美月さんに指摘されて、言い直してるけど、あんまり変わってないよ、鷹已さん……こんな様子だと少しばかり、心配になってくる。
実力はあるのは知っているが、それを出せるか? と言われたら確かに微妙なところ。
「大丈夫よ、我に策あり。心配しなくともなんとかなるわ!」
優姉がそう言うが、鷹已さん本人は首をかしげているのだが……本当に大丈夫なのだろうか?
そんな心配が募る夜だった。
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