第六十七話 開会
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「まだ寝むい……」
「それは遅くまで起きていたお前が悪い。普通これくらいの時間帯なら、何の問題ないだろ」
「そうかもしれないけどよ、興奮して眠れなかったんだよ」
「相変わらずだな、おい……」
現在の時刻は大体九時くらい。
そんな時間帯なのにも関わらずトシは眠いとか何とかさっきから言ってくる。
ちなみに開会式の最中なので、声のボリュームはかなり落として話している。今いる場所は『対人』と『芸術』をする会場にいる。ちょうど学園の模擬戦をする闘技場のようなところである。
注目しやすいように台に上っている学園長(舞さんではなくて、他の学園の人だった)の話があまりにも長引くものだったので、暇を持て余していたのだ。
「てか、俺らの競技まで日があるって言うのに眠れないってどういうことだよ……」
「しょうがないだろ。なんか知らんけど興奮してたんだよ」
「当日睡眠不足で休みますなんて笑えないからな」
「分かってるよ、そんくらい。そうならないようには当然するさ」
当たり前だ、バカヤロー。もしそうなったら、本来二人一組のはずのレースを一人でやらなくちゃいけなくなるじゃないか。
「ま、もしもの時は無理やりにでも俺を寝かせてくれ」
「お言葉に甘えて、全力でいかせてもらうぜ!」
面白いことを自分から言ってきてくれたトシに、俺がいい笑顔でそう言ってやると、それでやっと気づいたようで、やっぱり少しは手加減してくれと言ってきたが、冷静にスルーさせてもらう。そんなことになる前に、ちゃんと寝れば大丈夫なわけだし。もちろん、いざとなれば、全力でやらしてもらう。俺のストレス発散にもなりそうだし、何より楽しいだろうから。
「頼むからマジで手加減しれくれよ」
「はいはい」
「返事がいい加減だし?! 背中に感じた悪寒は絶対お前のせいだ」
「とりあえず、そろそろ前向こうか」
会話を切るようにしたのは、学園のお偉いさんの話が終わり、人が入れ替わったのを確認したからだ。次も似たようなものだったら、トシとの話を続けていただろうが、今度のは、ものが違った。
もし睨まれたならそれだけで刺されたような錯覚を覚えそうな、鋭い目付き。いくつもの修羅場を越えてきたと思われる傷だらけだけど、がたいの良い体。そして何より、圧倒的な存在感を示す荒々しいオーラ。
その人を見た瞬間、俺は背中に嫌な汗を書いているのを自覚した。あの人を本能的に怖いと感じているのかもしれない。
「それでは、お願いします」
司会進行役のどこかの先生が、声をかけると、お辞儀もせずに、その人は話を始めた。
「俺は土御門隆次、今回ギルドの代表としてここにやって来た。ようは推薦者を決めるためだな」
気がつけば辺りはざわついていた。この人物が六家ということもあるだろうが、これはたぶん推薦という言葉に反応してのことだろう。
話は前から聞いていたが、この大会で活躍し、代表としてきたギルドの人のお目に留まると、推薦状を貰うことができ、良い条件でギルドに入れるという。つまり、将来的にギルドに入ってやっていこうと思っている人にとっては、願ってもないことなのだ。
「浮わついているところ悪いが、はっきり言わせてもらう。たぶん今回推薦状を出すことはないな。六家のやつ以外でも魔法力が強いやつはポツポツと見えるが、ただそれだけだ。勘違いしないように言っておくが、別に実力がないと言っている訳じゃない。こんな浮わついたやつらに、推薦状を出す気になれないだけだ」
その言葉に、ざわついていた空気は一瞬にして静まる。
「それにこれはお前らのためでもある。良い条件って聞いて予想はついてるだろうが、その条件っていうのは最初から高いランクでギルドに入れるっていうもんだ。ギルドのランクが高ければ色々な仕事を受けれるし、当たり前だが収入も良い」
一度区切りを入れてから、次の言葉を語る。
「だがその分、命の危険も多い。そんな命がけの仕事が浮わついたようなやつらに勤まるわけがない。そんな人間がギルドの仕事をこなせるとは、少なくとも俺は思わない」
命の危険と聞いて、思い出す合宿のときの出来事。
確かにそんな人たちが仕事をこなすのは無理だと思った。
「最初の印象でこんなことを話したが、ちゃんと見て決めるから安心しろ。そういうわけでお前らの実力を、真剣さを、本気を、根性を、底力を。それらをこの大会で見させてもらう。大会が盛り上がることを期待する」
それで終わりなようで、土御門さんは身を翻し、台から降りた。
「ありがとうございました」
進行役の先生は土御門さんの姿が場に戻ったのを確認してから、次に進める。
「次は選手宣誓です。各学園の代表の人は前に出てきてください」
その言葉に反応して、代表の生徒と思われる人たちが前に出ると、この暑い時期にも関わらず、この大会を観にきた多くの人たちの注目がそこに集まっていく。当然のごとく、優姉の姿もそこに見える。その姿は会長、今回で言うと代表者として、恥のないものだった。
代表者たちはお互いに目配せをして、頷き合い、右の手をまっすぐに挙げ、大きく息を吸う。
「宣誓!」
しっかりと揃えられていて、大きくて、凛々しい声がこの会場に轟いた。
こうして、若い実力者によって行われる、各学園のプライドをかけた、熱く激しい闘いの幕が開けた。
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