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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
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第六十五話 風切

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告おねがいします。

 パーティーの時間が迫ってきたので、俺とトシは部屋に出てパーティー会場となる場所に歩を進めていた。

 恰好は制服。誰がどの学園の所属か分かるように、各学園の制服を着用を義務づけられているのだ。

 

「こういう時くらい私服がよかったな」


 と横でぼやいているトシ。俺としてはおしゃれな服を持っているわけではないので、個人的には制服でありがたいと思っている。

 

「んじゃ、入ろっか」


 扉を開けると、そこにはすでにかなりの人が集まっていた。

 辺りを見渡せば、自分達とは違う制服の人たちが見受けられた。

 テーブルにはその人数の腹を満たすための料理が、多量に用意されている。

 

「これ、どうぞ」


 中に入ってすぐ、場に呑まれそうになっていたところに、横から飲み物が入ったグラスを差し出された。その服装は黒いワンピースに白いフリルのついたエプロンが組み合わされているエプロンドレス。頭にはフリルのついた白いカチューシャ――いわゆる世間でメイドと言われる服装をとっていた。

 

「ありがとうございます」


 差し出されたそれを、お礼を言って受け取る。メイドさんは「どういたしまして」と言って、別の場所に歩み去って行った。

 ちょっと場違い勘を受けた気がする……なんかこういうのは慣れない。

 緊張のために渇いたのどを潤すため、グラスを傾けて一口。

 甘酸っぱい果汁の入ったさっぱりとした味だった。


「哲也くーん」


 飲み物を飲み、一息ついたところで、優姉から呼び出しの声がかかった。恐らく他の学園の生徒会の人たちのあいさつ回りのためだろう。つい、ため息を漏らしてしまった。

 

「まぁ、頑張れ」


 俺のテンションがあからさまに下がったことを確認したトシからの労いの言葉を受けながら、俺は優姉の元に向かった。



――――――――



「つ、疲れた……」


 うん、それしか言うことがない。

 格式ばった営業スマイルを浮かべて、他愛もない会話の中に、さりげなく行われる腹の探り合い。

 傍から見ると穏やかに聞こえる会話。その実は嘘でしか固められていない。

 なんというか、恐ろしくて仕方なかった。

 会話をいきなり振られた時には、ホントに困ったし。

 なんて言ったか正確には覚えていない。

 

「はい、みんなお疲れさまー。各自自由行動に移っていいわよ」


 特に疲れた様子も見せない優姉はそう声をかけて、どこかしらに歩いて行った。慣れてるとは言っても、なんでそんなに余裕なんだよ、とつい思ってしまう。

 美月さんと鷹已さんは優姉の言葉を聞いて一緒にどこかへ行ってしまった。

 場に残されたのは俺と美佳。

 

「これからどうするつもり?」

「とりあえずトシと合流するつもりだ。その後に知ってる奴らを探しにいく。葵とか新谷とか」

「ふ~ん。それなら、私も付いていこっかな。別にいいでしょ?」

「まぁ、構わないけど」

「それじゃ、行きましょ」


 そう言って歩き出そうとした時だった。


「美佳さんではないですか!?」


 後ろから突然かけられた声。

 呼びかけられた本人は、心底面倒くさそうな表情をしていた。


「逃げるつもりか?」

「そうしたいけど、そういうわけにもいかないわね。家柄的に」


 美佳は一つため息をついた後、くるりと声が聞こえた方向を向く。俺もそれにならってそちらを向いた。

 そこに立っていたのは、第三学園の制服を着た男だった。緑色の短髪に、きっとかっこいいと言われそうな顔立ち。一見ヒョロっとした体格に見えるが、筋肉はきちんと付いている。ヒョロそうに見えたのは、百八十はあるその身長ゆえかもしれない。

 息切れしているところを見ると、美佳を見つけて、走ってこちらに来たのだろう。


風切かざきりさん、どうしたんですか?」

「風切、ではなく名前を呼んでくださいって前に言ったじゃないですか。」

「そうでしたっけ?」

「そうですよ! 雅人まさとってよんでください! そして結婚してください!」


 どうやら、アホの子なようだ。美佳は苦笑いを浮かべていた。


「その話は丁重に断りましたよ。風切さん」


 とてもわざとらしく、強調するように名字を呼ぶ美佳。その言葉にダメージを受けたかのように「ぐっ」とわざわざ声に出して言う風切。


「ですが、俺はあきらめません。きっといつかあなたを落としてみせます!」


 一人で何やらとんでもないことを、決心している風切りを傍目に、俺は美佳にボソリと耳元で尋ねる。


「こいつは?」

「ああ、この人は六家の一つ『風切家』の長男の風切雅人」


 家柄的に無視できないというのはそういうことか。


「それで失礼ながら、美佳さんと仲の良さそうなこいつは?」


 俺のことを指さしながら、美佳に尋ねる風切。

 明らかに見下すように尋ねているように感じたぞ、おい。


「楠木哲也だ。よろしく」

「そうそう、美佳さん。この大会が終わったら、私とどこか行きませんか?」


 俺のことはどうでもいいようで、ただ単に話題の一つとして尋ねただけのようだ。

 完全無視か……いい度胸してんなこいつ。


「行かないですよ。私、礼儀を尊重しない人は嫌いなので」


 ニッコリ笑顔でさっきの俺に対しての態度の上げ足を取るように、そう言った美佳。その一言に悔しそうに「ぐぬぬ」とか言っている風切。

 そんな時だった。

 

「このどあほが!」

「ぐべぇ!」


 後ろから不意打ちの飛び蹴りを背中に受ける。もちろん風切が。

 飛び蹴りをかました張本人は、ショートに切った緑色の髪をふわりと広げ、華麗に着地を決めた。

 

「ごめんね、美佳ちゃん。この馬鹿弟が迷惑かけたでしょ?」

「いえ、大丈夫です。慣れてますから」

「そう言ってもらえると助かるわ」


 どうやらこの人は、うつ伏せの状態で気絶し倒れているこいつの、姉のようだ。

 なんというか、ボーイッシュでさばさばした人だなという風に感じた。


「君もわるいね」

「いえ、構いません。ただ完全に無視をされただけですから」

「ん、あとでこいつにお仕置き入れておくからそれで許してくれると助かる」


 気絶しているはずの風切がお仕置きという言葉を聞いた瞬間ピクッと動いたような気がした。

 

「にして、君、名前は?」

「俺ですか?」

「君以外にいるわけがないだろう」

「それもそうですね。俺は楠木哲也です」

「私は風切愛美まなみだ。風切と呼ばれては、こいつと区別がつかないからな。私のことは名前で呼んでくれ。その代わり、君のことも名前で呼ばしてもらおう」


 そう言って手を差し出してくる愛美さん。


「分かりました。よろしく、愛美さん」

「こちらこそよろしく、哲也くん。では、またな」


 別れを告げた愛美さんは、気絶している風切の襟を掴んで、どこかへ引きずりながら去って行った。


 


――――――――



 

 トシを見つけると、そこには葵、新谷、美波の交流合宿の時に知り合った三人の面子がそろっていた。

 どうやら先にあっちが会いに来てくれたようだ。


「あ、美佳ちゃんに、哲也くん! 久しぶり!」

「久しぶりだな」


 俺と美佳の二人の姿を見つけて、嬉しそうに、そして元気よく声をかけてきたのは、葵だった。相変わらず可愛らしい男の子だ。思わずその頭を撫でたくなる……

 

「全くやっと来たか……これ一人の相手にも飽きていたとこだぜ」


 これ扱いされているのはきっとトシのことだろう。


「そう言いながらも結構楽しんでたようだけどね」


 クスクスと笑いながら告げ口をしたのは、美波だ。

 その言葉に照れ隠しをするためか「誰がこいつなんかと!」と言い返している新谷。

 全然変わってなくて、ちょっとほっとする。まぁ、この短期間で変わられても困るんだけど。

 そんな短期間に起きた出来事や、合宿の時の思い出話に、この大会での意気込みとか。そんな話で盛り上がっていたら、パーティーの時間はあっという間に過ぎていった。


 

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