第六十四話 ホテル
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競技を発表されてから練習を重ね、ついに王立魔法学園対抗競技大会の日を迎えた。
「これは、うん。すごいわ」
「だよな」
「まさかここまでとは……」
「資料よりも迫力があるね」
「ぱねぇ……」
今年初めてこの大会に出場するメンバーはポツポツと感想をこぼしながら、それを見て唖然としていた。そんな風に周りの状況を解説する俺も、感想をこぼさないだけで同じような印象なのだが。
俺らの通うあの学園を見たときも驚いたが、このホテルはそれと比べても、とにかく半端じゃなかった。
何って? もちろんこれの大きさだよ。
こんなとんでもない大きさというのも驚きなのだが、このホテルがこの大会のためだけに建てられたというのにも驚きだ。まだ見てはいないが、きっと中の方も相当なものなんだろう。
だからこそ、なんというか、もったいない気がする。普通に営業として使ったら、かなりの儲けが出ると思うのだが。まぁ、俺が気にすることじゃないか。
「点呼も終わったし、みんな暑くてだるいだろうから、中に入ろうか」
そう全体に声をかけたのは、我らが学園長の舞さん。先頭を切って、そのホテルの扉を開けて、中に入る。後ろをついて行くように入るメンバー達。
ホテルの中に入ると、豪華な設備が目に入る。個人的には天井から下げてあるシャンデリアが一番印象的だ。
「涼しい~」
それにこのホテルの中の温度はとても心地がいいものだった。
今の季節はもう夏真っ只中。それに今の時間帯は昼過ぎ。異常な暑さからのこの涼しさだったのでとてもありがたかった。
「みんな聞いてー」
ホテルのカウンターであれこれとやり取りしていた舞さんが、こちらを振り向き、自分に注目を集める。
「今から部屋割りを言っていくからよく聞いてね。呼ばれた人から前に出て鍵をもらってもらいます。鍵をもらった人から部屋に移動してもらってかまいません。今日の日程については前配られた紙の通りだから、それを参考に行動してください。遅刻は厳禁だからね? それじゃあ言っていきまーす」
そう言って名前を呼び始める舞さん。テキパキと行動をするその姿は、幼い見た目とは違って、しっかりとしたものだった。
聞いている限り、基本二人で一つの部屋のようだ。
「――楠木くん、晒科くん」
名前が呼ばれた俺とトシ。どうやら同じ部屋のようだ。
俺とトシは前に出て、カウンターの人から鍵を受け取り、部屋に向かっていった。
―――――――――
いろんな学園の生徒が集まって戦う、十数日の日々。
一体どんな奴らが出てくるのだろうか? 強い奴らもいいっぱいいるのだろうか?
そんなこんなで不安も少なからずあるので緊張がないというわけではないが、なにか楽しいことが起きるかもという期待がそれを大きく上回っているため、そこまで気にはならない。まだ出番まで時間があるからかもしれないけど。
そんなことを考えながら歩いて部屋に向かっていたら、俺の部屋の前に辿り着いたので、鍵を開けてなかに入る。
部屋の中も十分設備は整っていた。
その中でも特に目についたのは、大きな二つのベット。触ってみたらめっちゃふかふかだった。寝心地はすごい良さそう。
「なんかすごいとこに来たって感じだな」
トシはふかふかベットに腰を下ろして、キョロキョロと部屋のなかを見渡しながらそう言ってきた。
俺もトシにならうように、もうひとつのベットに腰を下ろす。丁度向かい合う形だ。
「確かに、このホテルはすごいな。しかも、こんなすごいホテルがこの大会のためだけに建てられたのもすごいと思う」
「俺もそう思うぜ。きっとこの大会にはそれだけの価値があるってことなんだろうな……見に来る人も多いらしいし。あー、やばい! そう考えると緊張してきた!」
そう言って、ボフッとベットに寝転がるトシに、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
「俺らの出番はまだ先だぜ? 今から緊張してたんじゃ、その時になった時にダメになるぞ。というか、練習はしてきたわけだし、失敗さえしなきゃ大丈夫だって」
「そうだとしても緊張はするもんなんだよ。いや、だからこそ、かな?」
緊張の度合いも人それぞれということなんだろうか。
「緊張と言えば、今日のパーティーも緊張するぜ」
トシは競技についての話は終わりにして、今日行われる懇親会の話を振ってきた。
「見知らぬ人とあれこれと話すんだろ? 競技とはまた違った緊張があるぜ。是非とも可愛い女子と話をしたいものだ」
うんうんと一人で頷くトシ。なんだかんだ言っても、トシはトシだなと思った。
「お前は気楽でいいよな。なんか羨ましい」
「そうか? そういう哲也は気が重そうだな。なんかあるのか?」
トシの目から見ても、そう見えるのか……
「まぁ、そんなところだな。生徒会役員の一人として、他の学園の生徒会のやつらのところをまわるらしいんだよ。もちろん生徒会メンバー一同でだけど」
「別に面白そうだからよくね?」
「俺もはじめはそう思ってたんだけど、どうも対戦前ってことで妙にピリピリした会話になるらしい……腹の探り合いってやつ?」
「確かにそれは気が重くなるかもな……」
同情するように、トシはそう呟いていた。なんか空気が重くなってきた気がするので、俺は新しい話題を出す。
「そういえば、あいつらはここに来てんのかな?」
「あいつら?」
少し言葉が足りなかったようだったので付け足す。
「ほら、第五学園の葵とか新谷とか美波とか」
「あー、あいつらか! 来てるんじゃないか? 結構やりそうだったし。葵に至っては六家の人間じゃん。選ばれないわけがない」
「だよな。生徒会の挨拶回りが終わったら、一緒にあいつら探さないか?」
「いいね、面白そうだ。久しぶりに会うから楽しみだぜ」
三人ともいるといいなと思う。トシと同じで俺もあいつらに会うのは楽しみだ。
こんな感じで、俺とトシは適当に会話を交わして、時間を潰していった。
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