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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
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第六十話 不在

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 合宿が終わってから、一ヵ月が経とうとしていた。

 戻ってきてからの数日間は本当に死ぬかと思った。「あなたたちが合宿で楽しんでいた間に溜まっていった仕事よ」ということで、俺と美佳は理不尽なくらいに生徒会の仕事をさせられたのだ。トシと朱里から「生気が感じられない」と言われる程、その数日間は半端じゃなかった。そんなこともあったおかげか、平和な日常というものの大切さを改めて知った。

 そんな日の放課後の生徒会室。


「いやー、今日もやることがないなー」


 俺と美佳が資料の分別作業をしている脇で、じつにまったりした雰囲気を出しながら、暇をもて余している美月さん。やることがないなら、是非手伝ってほしいものだ。言ったところで無駄ということは分かっているので、口にはしないけど。


「働いている人の前でその発言はどうかと思いますよ?」


 一切の乱れを感じさせないきれいな姿勢をとっている夏目さんが、そう言ってくれるのはうれしかったりするのだが、結局は手伝ってくれないので、俺としては非常に複雑な気分だ。

 ちなみにこの言葉を受けた美月さんは、どこ吹く風とばかりに受け流していた。

 

「ほら、楠木。がんばれ」

「応援するなら、金をくれ、じゃなかった。手伝ってくださいよ」


 ちゃちな応援をしてくる野田さんに、愚痴を漏らす。当然のことながら、俺の愚痴は軽く全員にスルーされた。


「……わたし……手伝おっか……?」


 いや、一人だけ救いの手を差しのべてくれる人物がいた。今の俺には鷹已さんが天使に見える!


「百花、甘やかしちゃダメだよー」


 逆にあなたは悪魔に見えますよ、美月さん。


「でも……」

「私たちが一年生の時もこんな感じだったでしょ。それにこれは会長命令だよ」


 鷹已さんはチラチラと心配そうにこっちを見てきたが、会長命令という言葉に、やがてすまなそうにしながら引き下がる。

 

「大丈夫ですよ。もうすぐで終わりますから。気持ちだけで十分です」

「……ごめんなさい」


 そんな様子を見せる鷹已さんに、感謝の気持ちを込めながらそう言うと、鷹已さんは俯いて謝ってくる。その言葉を聞いて本当に心が優しい人だなと思ったのは俺だけではないはず。




 やがて種類ごとに分別し終えた資料を、トントンと整えて、俺より先に作業を終えていた美佳が置いておいた資料に重ねて乗っける。


「ふぅ……終わった……」

「お疲れさまです」


 作業を終えて椅子の背もたれにおっかかり、一息つくと、夏目さんが励ましの言葉と共に、お茶を俺の前においてくれる。こういう風に完璧なタイミングでお茶をいれて渡してくれるのは、さすがというか、本当にありがたい。


「ありがとうございます」


 俺はお礼を言ってから、テーブルに置かれたお茶を手に取る。暑くなってきた時期を考慮しているようで、中身は冷たく冷やされている。一口飲むと、ひんやりとした心地の良い温度が、のどに伝わってきた。


「会長はどうしたんですか?」


 お茶を飲むことで、気持ちをリラックスさせたところで、本日生徒会のメンバーの中で、唯一姿が見られない優姉が、どうしているのか尋ねてみる。

 

「私たち生徒会の一番大きな仕事、そう言っても過言ではない仕事の話し合いを学園長としているわ」

「一番大きな仕事ですか?」


 俺の言葉に夏目さんは「そうよ」と頷いて見せる。


「でもって、学園にとっては一番の大きなイベントだな」

「もったいぶらずに、それがなんなのか教えてくださいよ」


 そして、夏目さんの言葉に付け足すように教えてくる野田さん。そんな二人の様子に俺は痺れを切らして再び疑問を口にする。すると夏目さんはコホンと一つ咳払いをしてから、俺の疑問に答える。


「それはね、王立魔法学園対抗の魔法競技大会よ」


 その答えは俺の耳には聞き慣れないものだった。


「学園対抗の魔法競技大会、ですか? つまりは、ここの他にある魔法学園同士で魔法を使った何かしらで勝負をするってことですか?」

「その通りよ。正確には各学園の中で選ばれた人同士、ですけどね」

「へぇ~。なんだか面白そうですね」


 俺は少しだけだが内容を聞いてみての感想を率直にもらす。


「やっぱり聞くだけだと面白そうに感じるわよね」

「……実際はそうでもない。ピリピリする……」


 だが、俺の言葉を聞いた美月さんと鷹已さんの二人は、少し複雑そうな顔をしている。去年のことを思い出してそうなっているのだろうか? そう考えると急に、さっきの俺の考えは間違っているのではないかと思ってしまう。


「面白いというよりは、なんだろうな……達成感というかなんというか、まぁ、そういうことを心の底から感じることが出来る行事だな」

「詳しくは優奈が戻ってきてからにしましょう。資料とかそういう類のものを持ってきてくれると思いますから」


 野田さんがこの場に漂っている不穏な感じの空気を感じ取ったのか、フォローをするように言うと、夏目さんがうまく話題を切り上げた。


「それにしても遅いですね……一体どうしたんでしょうか?」


 話題を切り上げたはいいが、なかなか優姉が戻ってこないからか、心配するように夏目さんは呟く。俺としても詳しく話を聞きたいので、早く帰ってきてほしいのだが…… 


「ただ単に話し合いが長引いてるだけだろ。とりあえず来るまではゆっくりしてようぜ。ま、もしかしたら今日は来ないかもしれないけどな」

 

 結局、野田さんの懸念は本当になり、本日の生徒会は放課後に優姉が来ないまま、解散となった。

 

 



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