第六話 男友達
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入学式が終わり渋い男の教頭が全体に向けて連絡を伝える。
「これから新入生は自分の所属するクラスに行ってもらいます。クラスの全員が揃い次第担任の紹介と明日以降の予定、連絡をその担任からしてもらいます。それが終わったら解散とします。では各自自分のクラスに移動してください」
教頭からの連絡を終えた後、この体育館にいた生徒がほぼ一斉に立ち上がり移動を開始する。こういう人込みはそんなに好きではなく、むしろ苦手だ。正確には慣れていないという方が正しいかもしれない。そんなわけで教室に着くまでに妙に体力を消費し疲れてしまった……
教室に着いた後、前に貼ってある座席表で自分の席を確認して席に向かう。
席に向かっているだけなのに教室内の生徒から視線(しかも妙に多い)を感じた。そういえば教室に向かっている時にも結構な視線を感じたような気がする。
その視線をできるだけ意識しないようにして自分の席につき担任が来るまで寝ようと思ったが、その考えはすぐに断ち切られる。
「お前って別の学園からの転校生か?」
俺の前の席に座っている男子生徒がこちらに体を向けて話しかけてきたからだ。
「えっと……」
「ああ、わるい。俺は晒科利幸ってんだ。友達はみんな『トシ』って呼ぶからできたらそう呼んでくれ。よろしくな」
男子生徒――トシは戸惑っている俺に自己紹介をして手を出してきた。一瞬彼の意図が分からなかったが、すぐに気付いてその手を握って俺も自己紹介をする。
「俺は楠木哲也。呼び方はなんでも構わないよ。こちらこそよろしく」
「おう。で、さっきの質問に戻るんだけど哲也って転校生なのか?」
「正確には違うかもだけど、そんな感じかな」
「ん? どういうことだ?」
俺はこの疑問に答えるかどうか迷う。きっと俺みたいに15歳まで学園に通ってなくて、しかも第二部からの入学なんて普通はあり得ない。知られれば一種の異端児的な存在と受け取る人も出てくるだろう。
「答えづらいなら無理して言わなくていいぞ」
考えているうちに顔に出ていたのかトシはそう言ってきた。俺はその言葉にありがたく乗させてもらうことにした。
「悪いね。ちょっといろいろとあってさ。話せるときが来たらそのとき話すよ」
「わかった」
気にならない筈がないのにあっさりと引き下がってくれたトシに感謝したいと思った。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、さっきからなんだけどこの視線の多さは一体何なんだ?」
「普通に考えれば分かると思うんだが……」
さっきから気になっていた視線について聞いてみたが、なんともムカつく答えが返ってきた。
「まるで俺が普通じゃないみたいな言い方だな」
「勘違いをしないでくれよ!? そういう意味じゃないから!」
俺は少し怒ったような雰囲気を作りながら言うと、トシは焦ったようにそう言ってきた。
「じゃあどういう意味だ? しっかりと説明してくれ」
俺は意識して目が笑ってない笑顔を作って聞いた。俺の顔を見てまだ焦りが抜けてないがトシは説明を始める。
「えっとだな……哲也って容姿いいじゃん」
自分ではよく分からないが……
「それで?」
「それに転校生だろ?」
だから何なのだろうか……
「そうだけど、それが?」
俺がそう言うとトシはなぜ分からないとでも言いたげな呆れた顔で、
「まだ分からないのか……」
と言ってきた。俺は真面目に分からないのだが……
「あのさ、普通に考えたらお前みたいに普通にかっこいい転校生がいたら普通は気になるもんだろ?」
無駄に含みがあるように普通という言葉を強調してきて言ってきた。言いたいことはだいたい納得できたんだが、
「確かにそうかもだけど……容姿だったらトシの方が良くないか?」
俺がそう言うようにトシは見る限り相当かっこいいと思う。
茶色の短髪を所々髪を立たせていて、目は茶色っぽい黒で顔立ちはよく整っていると思う。身長は俺と同じくらいで170前後、体型は細くスラッとしていて脚は長い。そんなトシなのだが、
「やっぱりお前は自分の容姿がどれ程良いか理解してなかったか……」
トシはため息をつきそんなことを言ってくる。
いやいや、俺の容姿なんて普通だろう。そう言おうと思ったのだが、担任の先生が来たので会話は自然とそこで途切れてしまった。
先生は「静かにしろ~」と言いながら俺らの前に来ると、なんともだるそうに自己紹介を始める。
「このクラスの担任になった岡嶋透だ。嫌いなことはめんどくさいこと。よろしく。明日についての連絡だが新入生の歓迎会があるから、今日と同じ時刻、場所に集合しろ。ただ二・三年も歓迎会に来るから、座る場所は前の方になるということを覚えておけよ。持ち物は特に何も要らん。以上だ。なにか質問があるやつはいないよな。はい、解散」
必要なことだけ述べた担任は解散の言葉と同時に速攻で教室から出た。
ホントにめんどくさいことが嫌な人なんだな……何であの人教師になったのだろうか? いや慣れたのだろうか? そんなことをつい考えてしまった。
「明日どうする? どうせなら一緒に行こうぜ!」
トシは担任の連絡が終わったあと、明日のことについてすぐ俺に聞いてきた。
「いいよ、一緒にいこう」
俺は断る理由は何もないので頷く。
「待ち合わせは校門のところでいいか?」
「オーケー。それでいいよ。じゃ、また明日校門で」
「おう、また明日な」
こういう風に返事をもらえる友達が早速できたことを嬉しく思った。こんな俺にすぐに話しかけてくれたトシのフレンドリーさに感謝して、俺は教室を出た。