第五十四話 フェンリル?
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自分の部屋で準備を整えて、宿の外に出ると、岡嶋先生と照沢先生が何やら話していた。
神妙な面持ちで話していたので、聞いても良さそうな話題ではないだろうと思い、特に追求することはしないようにすることにした。
「準備できましたよ」
「おう、早かったな」
「俺は基本的に戦闘は素手ですからね。準備という準備がほとんどいらないんですよ」
先生たちに声をかけると、その会話は切りやめて俺の方を向いて返事を返してくれた。
さっきの表情から一変、切り替えがうまいのか、いつの間にか穏やかなものへと変わっていた。
「岡嶋先生がそれを使うってことはそれなりにやる気があるみたいですね」
俺は岡嶋先生の腰に帯びている剣を見て、そう言った。
その剣は俺が入学してすぐに舞さんに言われてやった模擬戦の時に、使っていた魔法剣だ。岡嶋先生がこれを使うということはそれなりに戦う気があるということだろう。
「やるとなったら、やる気くらいは出すさ。そうじゃないと死ぬわ。相手は魔物、しかもフェンリルだし」
過程や状況はなんであれ、岡嶋先生がやる気で安心した。
そんな会話をしていると、美佳もやってきたので、先生たちの先導のもと、俺と美佳が付いて行く形となって、山の方へと歩きだした。
山の中を歩きながら、フェンリル討伐のための作戦会議も行われた。
今回の目的は言わずもがな、フェンリルを倒すこと。
前衛は俺と岡嶋先生が、後衛は照沢先生と美佳がやる。
基本的な戦闘の仕方は、直接攻撃などは牽制程度で行うことにして、後衛の魔法で攻める。美佳の火力は相当なものだし、照沢先生の魔法の力は一昨日に見ているので反論する余地はなかった。
ただ、これは基本的なものであって、敵に隙が出来ているのであれば、前衛からも攻撃を仕掛けろと言われた。
後は魔物に敵対するときに言われそうなことを細かく言われた。
最後まで油断するなとか、情けは無用だとか。正直耳が痛い……
「着いたぞ。あれが今回の敵だ」
「でか……」
岡嶋先生が指を指す方向に視線を向けその姿を見た瞬間、呆気にとられてしまった。
寝ていて身体を丸めているのにも関わらず、フェンリルのその大きさがとんでもなかったからだ。だが、今から戦う相手にそういうわけにもいかないので、すぐに気持ちを切り替えて、気合を入れなおす。
「最初は予定通り、一気に行くわよ」
俺は照沢先生からの指示を聞き、空氣を手に凝縮し始める。
岡嶋先生が横目で俺を見たときにギョッとしたのはあのときのことを思い出したのだろう。まぁ今回は火属性の魔力を合わせるんだけどね。
みんなそれぞれで準備を終え、顔を見合わせる。
そして誰からと言うこともなく、魔法を技を発動させる。
「業火の炎よ、敵を巻き上げ燃やし尽くせ。フレアトルネード」
「聖なる槍よ、敵を貫け。ホーリーランス」
「喰らえ!かまいたち!」
「いけ!」
それぞれの魔法、技は、フェンリルに向かって飛んでいく。
直後、凄まじい轟音が辺りを支配し、煙が立ち上る。
全員無言でそこをみつめる。
「どっちでもいいから横に跳べ!」
岡嶋先生から指示がかかる。反射的にそれを実行。
転がるように飛んだのですぐに上体を起こし状況を確認すると、フェンリルがさっきまで俺らがいた場所にいた。
フェンリルの様子を確認するがどこにも傷は見当たらない。
どうやら初手は失敗だったようだ。
恐らくだが、魔法が自身に当たる一歩前に斜めに飛びあがりうまく避けていたのだろう。
フェンリルは次の攻撃をすぐに仕掛けることはせずに一人一人を睨みつけるように見てくる。その眼はあまりに冷たくて鋭い。まるで氷のナイフのようだった。
その視線に萎縮してしまいそうになるが、さすがに相手に攻勢を取られてはたまったものではない。
俺は体氣で脚を強化する。強化が完了した後、岡嶋先生と目を見合わせ、どちらかともなく地面を蹴りフェンリルに向かった。
フェンリルはそんな俺らに尻尾を横薙ぎにするように振ってきた。
足を刈るような低空の横薙ぎ。
前回、こういう攻撃に対して上に跳んでしまって、空中で回避することもままならずに、追撃を喰らった。
なので俺は急停止し、バックステップで尻尾が届く範囲から出る。
岡嶋先生は、上に跳んでしまっていた……
そして当然のように来るフェンリルの追撃。
跳んでいる高さに沿って振るわれるそれはとても避けれるようなものではないように見えた。だが、岡嶋先生は予測通りと言わんばかりにニヤリと口の端をつり上げた。
振るわれるフェンリルの前足に身体を向け、ジャンプ斬りの要領で、叩きつけるように剣を縦に振るった。
タイミングバッチリに振るわれた剣はフェンリルの足に当たる。
その対応は経験を積んでいる証拠だと俺は思えた。
だが、フェンリルにとってそれくらいのダメージはどうってこともないようで、間合いに立っている岡嶋先生にさらに追撃を掛けてくる。
岡嶋先生は再びつっこむことはせずに、冷静に後ろに下がった。
攻撃の手を休めるわけにはいかないので、岡嶋先生が下がったのを見て、俺は足を横に振るい、かまいたちを使って牽制する。
フェンリルはそれを右に跳んで避けた。
「炎よ、弓矢のごとく我が敵に降り注げ。フレイムアロー」
次の瞬間には美佳の魔法が完成。俺のかまいたちの避ける先を予測していたようで、七つの火の矢はフェンリルが跳んで避けていた右の方に向かっていった。広範囲に散りばめていたため全部とはいかなかったが、その矢の何本かがフェンリルに直撃する。
だが、直撃したはずの火の矢に顔をゆがめることのないフェンリル。
その姿にダメージを与えられているかどうか不安を覚えてしまう。
それに岡嶋先生の攻撃にしても、美佳の魔法にしても両方とも足に当たっているはずなのにその速度が緩む様子は見られない。
「ホーリーランス」
照沢先生が魔法を完成させると、フェンリルの頭上に現れる、四本の光の槍。
フェンリルはそれを避けるきがないのか、不意に足を止めた。
その行動に疑問を持つが、考える間もなく、それらが一斉に降り注がれる。
「なっ!?」「嘘!?」「信じられん」「マジかよ……」
俺らは全員驚愕した。魔法が効かない。その光景を間近で見てしまったのだから。
直撃した光の槍は、突き刺さることもなく、フェンリルの体に当たったかと思うと、弾かれたように消えていった。
子はこれで倒したというのに……一体どうなってんだよ?
思わず途方にくれそうになる。
『我にその程度の魔法は通用せんぞ?』
突然のことだった。
脳に直接伝わるようにな声が聞こえてきた。
辺りを見回してみると、俺ら以外誰も見当たらない。
美佳や先生二人も同じように顔を振って辺りを見ていた。
『何を期待しているのかは分からんが、お前達の目の前にいるのが、声の主だぞ?』
内心ではわかっていたが、信じきれない自分がいる。だが、この言葉によって、嫌でも信じるしかなかった。
何故だろうか? 今の俺は嫌な予感が、頭を支配している。
『一つ教えてやろう。我はお前らが殺したあのフェンリルの親ではない。それ以前に、フェンリルですらないぞ』
唖然としている俺たちに、目の前の奴はさらに驚愕の事実を告げる。
『我はドラゴンだ』