第五十話 ゲーム終了
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葵と別れてからいろいろなグループを倒して数時間。
また新たなグループを探そうと移動しだしたところで頭上から花火のような爆発音が聞こえてきた。その音の大きさについ身構えてしまうが、音が聞こえてきた空を見上げて、すぐに構えを解く。
空には赤い文字で『タイムアップ』という文字が浮かんでいたからだ。文字通りこのレクリエーションの終了の合図なのだろう。
俺はそれを見て一息つく。それと同時に終わったことを知ったことで、ドッと疲れがやってきた。この疲労感が自分のためになった証のように感じる。
他の追いかける役がどのくらい倒したかは知らないが個人的には結構倒した方だと自負している。
そんな風に考える自分に軽く呆れながらも、俺は歩いて山を下りいった。
俺が山を下りきってレクリエーション開始時に集まっていた場所に戻ってくると、そこにはすでに俺のグループのメンバー全員が集まっていた。
俺のことに気付いたようで振り返って俺の方を見てくる。葵だけ見るだけではなく手を振るという動作がプラスされていたけど。
俺はそんな感じで見てくるメンバーに対して、さすがに歩いて行くのはな、と思ったので駆け足でみんなのところに寄って行く。
俺が輪の中に入ると、お互いに「お疲れ~」と言った労いの言葉をかけていく。
それぞれ言い終わった後、トシが俺に今ほどまでやっていたレクリエーションの結果について質問を投げかけてくる。
「哲也は逃げる側の人たち、どれくらい倒したんだ?」
「……まともに数えてないから正確ではないけど、たぶん10グループくらいかな」
「10人じゃなくて、グループ?」
「あ、ああ。人数で言ったら少なくとも60人くらい……」
俺がそう言うとトシは身を乗り出して確認するように近づき確認してくる。それになんとか答えると、周りからは驚いたような表情、呆れた表情など、様々な表情を俺に向けてくる。
「いや、そんな顔で見られても困るんだけどな……てかお前らはどんなもんだったんだ?」
俺は切り替えるように周りにそれについて聞いてみた。
「僕は3、40人くらいだったよ」
「うちは7人」
「私もそれくらーい」
「俺は15」
葵をはじめとして順々に答えていく。だがトシは目を反らし、美佳は何も言おうとしない。
「トシはどうだったんだ? みんなに話を振ってきた本人なんだし」
「まさかあのトシくんがみんなに言えないような記録なわけがないよな~」
先に美佳に迫るのも何だったので、トシに尋ねると悪乗りするように新谷がトシにそう言った。
トシは新谷の言葉に言葉を詰まらせ、黙り込んだと思うと、視線を美佳に向ける。
「火神さんはどうだったの?」
「逃げやがったか……」
「つまんないぞー」
「うるさい外野」
トシはちょっかいを出してきた新谷と朱里にぴしゃりと一言。
「それで……火神さん?」
「……え?私は暴れん坊じゃないよ?」
トシに名前を呼ばれて質問と関係ない、意味がよく分からない発言をしてきた。
俺はそんな美佳にどうしたのか尋ねてみるが、
「美佳、いきなりどうしたんだ?」
「いやだなー。私が暴力を好きなわけないじゃない」
「もしかしてさ――」
なんというか、会話がつながっている感じがしない。とりあえず俺は美佳の言葉から推測を立てて尋ねてみる。推測というかこれしかないと思っているんだが。
「めちゃくちゃに暴れまくって相当な数を倒した?」
「ッ!」
その推測は正しかったようで、美佳は肩をビクッと振るわせる。思わず分かりやす過ぎるだろ……と思ってしまっても仕方がないくらいの反応だった。
「一体どれくらい倒したんだ?」
「100くらい……」
「100!?」
「哲也くんの記録にも驚いたけど美佳はさらに上を行くか……」
美佳がぼそりと言った記録に美波は驚き、朱里は呆れたと言わんばかりに事実を整理する。
個人的に倒した数で美佳に負けたのは悔しいが、魔空技は使ってないし、他にも使っていない技があるので、少しはその悔しさは薄れる。
「別に言うのを渋る必要なんてなかったんじゃないのか? 数が多いってことは、強いことの証明なんだしよ」
「それはそうかもしれないけど……」
新谷からの言葉にどこか歯切れの悪い様子でその言葉を飲み込むことができない美佳。恐らくだが女の子として暴れまわりすぎたことが個人的には恥ずかしいことだったのだろう。
「まぁ、個人個人でいろんな考え方があるよな。俺は羨ましいと思うけど。どっかの誰かみたいに弱いよりはずっと」
新谷は流し目でトシを見てフッと笑みを浮かべる。
その一幕を見て、新谷は美佳を素直に励ましているかと思ったが、ただ単にトシをバカにするための足がけでしかなかったようだ。
その笑みを受けたトシは額に青筋が浮かぶ。
「僕ら以外誰もいないし、それに止まって話すのもなんだしそろそろ戻ろ」
葵は二人の様子を見て、切り上げさせるためにそう言った。喧嘩を避けるためというのは明らかだったが、葵の言うとおり俺ら以外人影は見られなかったので、トシと新谷の二人も葵の提案を否定することはなかった。
「みんな、お疲れさま。はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
宿の前まで来ると、照沢先生が冷たい飲み物を渡してくれたので、それぞれでお礼を言ってそれを受けとる。俺は喉が渇いていたので、受け取ってすぐに一口飲み込む。
「これ、うまいわ」
何かしらのフルーツと思われる結構な甘みとほのかな酸味が口の中に広がる。それによって疲れていた体が潤されている感じがした。
「ホントだ、おいしい!」
「まじうめぇ!」
「疲れが取れるねー」
最初に感想を述べた俺を筆頭に次々と先生から渡された飲み物の味に感想を言う。
「おいしいでしょ? これはね、ハイデンべルクトで生産されてるフルーツをいくつかミックスして作られてる果汁100%のフルーツジュースよ」
照沢先生からの解説に俺たちは「へぇー」と一言。ハイデンべルクトは植物が豊かな場所だと改めて思い知らされた。それと同時に新鮮な果物でできたジュースってこんなにうまいもんなんだな、と感心した。
「でも良いんですか? こんなおいしいもの頂いてしまって……」
「いいのよ。私が半強制的に岡嶋先生に買わせたものだから」
美佳が遠慮気味に聞いてみると、照沢先生はうふふ、と『美しい』と書いて『きょうふ』と読めそうな笑顔を浮かべた。
俺は照沢先生の怖さに少しふれた気がした。