第五話 学園生活の始まり
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俺は何もない闇の中でうずくまっていた。俺の目の前には大きな黒い影が俺に視線を向けてきている。
「全く。こんなこともできないのか?」
見下すように影が言ってくる。
『しょうがないじゃないか!!』
「なんでこんなこともできないの?」
ため息をつきながら言ってくる。
『そんなの俺に言われても困る……』
「あなたの姉と妹は簡単に出来ているというのに……」
憐れむように言ってくる。
『姉とか妹とかと比べるな!』
「そんなんだから、お前はダメなんだよ」
呆れるように言ってくる。
『ダメなんて言わないでくれ……』
「まぁ仕方ないか。なにせお前は……」
『これ以上何も言わないでよ!』
「落ちこぼれなんだからな」
そう告げた瞬間影の口の両端がつりあがったように見えた。
俺は叫ぶような声を上げて目を覚ました。日はまだ昇っていないほど朝早くに。夢というのは起きると忘れていることの方が多いというが、俺の頭には鮮烈に記憶が残っていた。毎日とまではいかないが週に一回は見る夢だ。いつ見ても慣れることなど出来やしない……
早く起きることは悪夢を見るにしろ見ないにしろ決まっていたことなので二度寝する気はない。決まっているというのは、姉さんと修行していた時に毎朝行っていた鍛練をすることだ。
俺はベットから身体を起こして洗面所で顔を洗い意識を切り替える。そして動きやすい格好に着替えてカードキーを忘れずに持ってから寮を出た。
鍛練をするにも場所を見つけるのが先決。
あまり見られたいものでもないので一応人気の無さそうなところを探そうと思うが、考えてみればここは今まで修行を行ってきた森の中と違いそんな場所を見つけるのは困難なことだろう。
まだ日も昇ってきていない時間だから人に見られる可能性は低い。早めに切り上げれば大丈夫だろうという結論に至る。
そういうわけで身体をおもいっきり動かすのに支障がない広場を探すことにした。俺はとりあえず案内板のようなものからその場所を見つけることにした。適当に探して見つけたはいいが迷って帰れなくなりました、なんて笑えないから。
案内板を探すこと数分、無事見つけることができた。『リンディル広場』と書かれた場所がここから一番近く、広そうだったのでのでそこに向かうことにした。
そしてリンディル広場に着いた俺は早速鍛錬を始めた……
――――――――――
キレイな赤い髪をした少年がいた。
その少年がリンディル広場の中心で構えをとっていた。
久しぶりに面白そうなものが見れそうな予感がしたのでここで見ることにしたのだ……
予感といっても勘でしかないのだけれどね。
静寂の空間の中、少年は静から動へと移り変わり、疾風のように動き出した。
動いては力強そうな拳を振るい、動いては鞭のようにしなやかな蹴りを放つ。
その姿はまるで演武の見本と言ってもいいくらい洗練されたものであった。
その少年の姿につい見入ってしまうくらいに。
私の勘も捨てたもんじゃないわね……
ここからでは、はっきりとは判断が出来ないがかっこいい顔をしているようにも見える。
あんな少年はこの学園では見たことがない。
いたら確実に見つけることが出来ているはずだ。
私があんなに面白そうな存在を見つけられないはずがないもの。
転校生といったところだろうか?
もし転校生なら第二部の入学式前ということを考えると、一年生の可能性が高いだろう。
いろいろと思考にふけていたせいか、隠蔽魔法を使っていた油断だろうか、
私はその少年がいつの間にか演武を止めてこちらに視線を向けていることに、気づくのが少し遅れてしまった。
しかし油断していたとはいえ、気配をほとんど消していたのはずなのに……ホントに面白いわ!!
とりあえず私は近いうちにこの少年についていろいろと調べていこうと心に決めて、
その場を静かに離れていった……
―――――――――
俺は鍛錬をしてる最中や戦闘を行うときは妙に感覚が冴えわたるので、わずかな気配でも感じ取ることができる。それをさっき感じ取ることができたのでそちらに視線を向けていると数秒後またすぐに気配は消えた。
一体なんだったのだろうか? もしかしたら気のせいかもしれないし、ただの動物の気配だったのかもしれない……気にしてもしょうがないと割りきり鍛錬を続けた。
それから30分ほど動いた後、日が昇ってきたので今日の鍛錬を終わりにした。いつもより切り上げるのが早いが人目につくわけにはいかない。
そんなことを思いながら寮に戻ることにした。
学園に行くまで時間はまだあるし、汗をかいた格好のまま行くほど神経は図太くない。それに自分が汗臭いまま人と会うのは嫌である。というより相手に嫌われるだろうと思われることは極力したくはない。嫌われて追い出されるのはもうこりごりなのだ……
そんなわけで俺は寮に戻りシャワーを浴び、着替えてから学園へと向かった。
学園の玄関から入りまずは学園長室に向かう。
そしてコンコンとノックをして中から舞さんの返事を聞き、「失礼します」と声をかけて入室する。
舞さんは正面にあるちょっと大きめ(舞さんにとって)の仕事机の椅子に座って資料を眺めていた。
俺は舞さんと仕事机越しに向かい合うところまで歩み寄ってから声をかける。
「学園長」
資料の確認に集中していて俺の声に気づかないようで顔を上げない。もう一度声をかけてみる。
「あのー、学園長?」
さすがは学園長といったところだろうか。俺の声に反応しないほど集中している。でもそれでは困るので再度声をかける。
「学園長!」
さっきよりもちょっと大きめの声をかけたのにも関わらず反応がない。ここまで来ると狙っているとしか思えなくなってくる。もしかして…………
「あの、舞さん?」
「なに?」
予想は当っていたらしく、名前を呼んでようやく顔を上げる。
しかし、その顔はぷぅと頬をふくらましてちょっと不貞腐れているようだった。そんな子供っぽいしぐさ(そんなことしなくても普通に子供っぽいのだが)に俺はつい苦笑い。それが気に入らなかったのか舞さんはますます頬をふくらまして、
「哲ちゃんひどいんじゃないの……せっかく昨日の夜では普通に名前で呼んでくれたのに、今日になってまた学園長ってよそよそしく呼ぶなんて……」
「いや、だって昨日学園以外では名前で呼んでって言ってたじゃないですか。だから学園では普通に学園長って呼ぶと思って」
なぜこんなところで舞さんは怒っているのだろうか?
「そう言えばそうだっけ? ごめんなさい。じゃあ、他の人がいる時以外も名前で呼ぶことにしてね!」
「はい……分かりました。それで制服は?」
ここで断るとまたあの上目遣いを使ってくることだろう。あんな破壊力があるものを受ける前に俺は素直に了承し、渡されるはずの制服について質問した。
「制服ね……はい、どうぞ」
そう言って仕事机の引き出しの中から袋に包まれた状態の真新しい制服を取り出して俺に渡してくる。
「ありがとうございます」
俺はそれを受け取り、お礼の言葉を述べる。
「いいのよ。とりあえず早く着替えなさい」
「はい、ってここで着替えるんですか?」
流れで返事をしてしまったが、ここで着替えるのは抵抗があった。
「ええ、そうよ」
しかし俺の疑問に当たり前でしょうとでも言うように答える。
舞さんの答え方になんだか抵抗している自分が馬鹿らしくなってきたので、ありがたく? ここで着替えることにした。
俺は今制服に身を包み急いで入学式の会場となる第一体育館へと向かっている。ちなみに先に職員室に行ってクラスだけは聞いておいた。
急いでいるのは俺の着替えている途中の姿を見て、いきなり舞さんが暴走してしまい、それを止めるのに時間がかかったせいである。(あまり思い出したいものではないので省略)
そしてようやく体育館に着いた頃には、すでに大半の生徒が座っていた。周りの様子を見てみると座る場所は自由なようで、友達同士で座っている者がいれば、一匹狼とでも言うように独りで座っている者がいる。騒いでいる者がいれば、静かに待っている者がいる。
俺はそんな中空いている席に一人で座って入学式が始まるのを待っていた。
時間が少し経ち、まずは渋い男の教頭が開会宣言をして入学式は始まった。特に変わったこともなく入学式は進行していく。そして学園長の挨拶、すなわち舞さんの出番である。
ステージに上りちっちゃい体を使って身ぶり手振り話す姿は微笑ましく、生徒たちの緊張を解くものであった。
次にステージに上がってきたのは学年首席の女の子だった。背は平均的なもので、胸も身長に合ったものだった。雰囲気は大人っぽく、髪は赤色で肩に掛かるか掛からないくらいのショートカット。顔立ちは整っていてとても綺麗な方だと思う。瞳に力強さを感じたのが印象的だった……
その女の子が形式的な挨拶の言葉を読んでいく姿は、人前に立つのに慣れているようで少しだが威厳さえ感じてしまうものだった。
首席の挨拶が終わり、再び渋い男の教頭が閉会宣言をして入学式は終えた……そして渋い男の教頭が全体に向けて連絡を伝えてきた。
「これから新入生は自分の所属するクラスに行ってもらいます。クラスの全員が揃い次第担任の紹介と明日以降の予定、連絡をその担任からしてもらいます。それが終わったら解散とします。では各自自分のクラスに移動してください」
教頭からの連絡を終えた後、俺はとりあえずクラスに向かって足を運ぶのだった。