第四十九話 合成魔法
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「……やっぱり走り回ったりするのは疲れるな」
俺は最初のグループを倒したことで勢いがついたのか、俺的には結構良いと思えるペースでグループを見つけては倒している。その分ハイペースになるわけでいったん足を止めて今ほどのような呟きが漏れてしまったわけだが。
そんな呟きとは裏腹に少しずつこのレクリエーションを楽しめるようになってきた。
理由としては、俺の思っていたよりも補習行きの人からの恨めしい視線が無かったことがすごく大きい。
それにこのレクリエーションは自分のためにもなっているのだ。と言うのも姉さんとの修行に対多数という場面想定をしての戦闘訓練はあったといえばあった。だけど、あの場に俺と姉さんの二人以外に人がいるわけもなく、多数の相手がいたわけではなかったので、所詮は想定の範囲でしかなかった。だからこういう風に実際に多数の相手が襲ってくる中の戦闘ができるのは鍛練と考えるとすごくやりがいがあって楽しめる。
まぁ、想定外なことも起きずに、ほとんど同じパターンで倒せているのと、相手の実力がそこまで高くないことには少し不満が残っている。俺の強者のイメージが高すぎるせいかもしれないのだが。
そんなことを考えていると、俺の視線の先にまた別のグループを捉えたので、再び影に隠れてそのグループを倒すために走り出す。
ばれない程度の距離で木の影に隠れて気配を断ち、その場の様子を伺う。
「くそっ。これが六家の実力かよ。火神さんとはまた別もんの強さだ」
そこでは五人組のグループと葵が対峙しているところだった。
とりあえずピンチという感じでもないし、面白そうだったので見学を心に決める。危なくなったら出ていくつもりだが。
「自分的には美佳ちゃんと比べるとダメダメだと思ってるんだけどなー。でもそう言われると嬉しいかな」
先程の相手の言葉に嬉しそうに照れて見せる葵。そして楽しそうな表情のまま呪文を唱えて、詠唱を完成させる。
「これで終わりだよ? 『レイジングミスト』」
葵は手を自分の前にかざす。葵の詠唱の早さに相手は魔法による防御は間に合わないと判断したようで、葵に、正確には葵の前にかざされている手に視線を集中させて避ける体勢を整える。そういう風な対応をとったのは今までの攻撃が葵の手から放たれる魔法だったと思われる。
「な、なんだこれ!?」
相手の発想とは全く別の、足下から沸き上がってくる白い蒸気に相手は狼狽していた。もくもくと自分の体に絡み付く蒸気。攻撃という感じではない。逆にそれが不気味に感じられるようで、相手は不安な表情が顔に出ていた。そしてその不安通りに相手は打ちのめされる。
「『ライジングミスト』」
相手に絡み付いている蒸気に電気が混じる。気づいた頃には遅く相手はそれに巻き込まれ、一気に束縛の魔法がかかり倒れた。どうやら今のでストックがなくなったようだ。
俺は今ほどの葵が行った魔法に感嘆を覚えた。
『合成魔法』
二つの魔法を別々に放ち、本来とは変わった魔法の力を発揮するもの。
初めの蒸気は自分のみを隠すだけの下級の水魔法。いわゆる霧を作る魔法。
次に使ったのは雷の下級魔法。本来なら単体の敵に放つ魔法だ。
だけど二つを合わせることで、全体を巻き込む雷魔法になる。
使いこなせれば少ないエネルギーで大きな力を発揮できるとても優れたものだ。
使いこなすためには魔法を二つ以上使える才能と、魔法の処理能力の高さ、そして最大限の努力が必要だ。
今の滑らかさからして、相当な努力をしたことがうかがえる。
「すごいもんだな」
「っ!」
あまり元気がない葵に俺が背後から気配を消しながらばれないように(いたずら心から)話しかけると、葵は驚いたように肩をビクッとさせて振り返る。
「なんだ……哲也くんか。ビックリした……」
「悪いな、驚かせちゃったみたいで」
「背後から足音も気配もなく近づいてきてよく言うね……」
「はは、確かにな」
俺が軽い感じで謝ると、嫌みったらしく愚痴るように葵は言ってきたが、俺は笑って流した。葵はそれに頬を膨らましてブーブーいってきたが、すぐに表情を変えた。真剣なものに。
「すごいっていってくれたけど、全然すごくなんかないよ。これはね、僕の欠点を埋めるために努力をしてきた賜物なんだ」
いきなりの表情と話題の変わりように少し驚いたが、俺も応じるように聞く姿勢を作る。
「確かに治癒魔法に関しては異端とか異常とか言われたりもしてるけど、何だかんだで誉めてくれる人が多かったんだ。それは嬉しかった。だけど攻撃魔法に必要な、火力が全くって言ってもいいほどなかった」
葵は自嘲気味に語り続ける。
「小さい頃はそこまで気にしなかった。逆にいろんな属性の魔法が使えることで目立ってたくらいだった。だけど、大きくなるにつれてあれ? って思い始めたんだ。魔法に威力がでなかったんだ。お父さんも六家の息子としてやらなんやら言ってきたりしてたから、僕は必死に努力をした。そのお陰で詠唱の早さとか処理能力が上がった。けど、威力に関してはほとんど向上は見られなかった」
その頃を思い出しているのか葵の表情は少し暗い。
「ただ努力するだけじゃダメだと思ってきた頃、僕は合成魔法について聞いたんだ。これならいけるんじゃないかと思った。合成魔法に必要な条件はほとんど満たしてたしね」
確かに二つ以上の属性をつかえることに、詠唱の早さに処理能力。これらを満たしていれば細かいことがあるかもしれないが、後は努力だけだろう。
「案の定合成魔法は使えるようになって、見かけ上は攻撃魔法も平均以上に見られるようになった。中身はボロボロだけどね」
ははは、と薄い笑いを葵は浮かべる。
「ぼくは逃げたんだ。正面から火力をあげようとすることから。だから僕はすごくなんか――」
「葵はすげえな」
「えっ?」
俺からの誉め言葉に葵は目を点にする。一体なんでそんな表情をするのか俺からしたら不思議でしかないのだが。
「だから凄いなっていったんだ。一生懸命自分と戦ってるじゃないか。逃げちまった誰かさんとは大違いだ」
今となっては後悔などしてないが、家を逃げたことを恥ずかしくは思っている。だから葵の話をきいて素直に凄いと思った。
葵はいまだに俺の言葉を聞き入れている様子はない。
「自分と戦って努力をして、壁に当たっても、試行錯誤してまた新しいことを見つける。本当に凄い。もっと胸張っても良いんじゃないか? とりあえず俺は葵の努力を認める」
葵は無言で俺のことをじっと見ている。その様子に圧力を感じ、居心地が悪くなる。
「わりぃ。こんなことを俺から言われてもムカつくよな。なんか上から目線ぽかったし」
「そ、そんなことないよ。普通に嬉しいよ。今までのそこまで誉めてくれる人なんていなかったし。ありがとね」
葵は慌ててそう言ってきた。その言葉を聞いて俺はほっとした。
「それじゃあ、またあとでな」
「うん」
俺はそれだけ言ってこの場を去った。