第四十五話 合宿二日目の朝
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合宿二日目の朝。
俺はいつも通りに目を覚ましたが、部屋のメンバーの俺を抜いた五人は、すやすやという表現は今の現状に適しているかどうかはすごく微妙なところではあるが、とりあえずまだ寝ている。この言い方でこの部屋のひどさを分かってくれれば幸いである。
それは置いておくとして。
いつも通り、というのは鍛練をするために起きている時間帯、つまりは日が出たばかりの時間帯なので、寝ているのは当然と言えば当然だろう。
合宿での起床時間は、普通の生徒がいつも起きる時間より早く、俺みたいな例外は除いては、起床時間ギリギリまで寝ていたいといっていた生徒がほとんどだった。
そういう理由もあり、回りのメンバーを起こさないように、できるだけ物音をたてないように、あり得ない寝相の悪さでとてつもない体勢になっているやつらを踏まないように気を付けながら、汗をかいても問題のない格好になり、いつもやっている鍛練をするために部屋を出た。
部屋が並んでいる廊下を早足で抜けて、すぐに外に出る。
心地が良い朝の日差しと、風を浴びながら思いっきり両手を上にあげ、体を伸ばすと小気味のよい骨の音が聞こえた。
それを始めとして体のストレッチをいくつか行って体をほぐしていく。
ストレッチをしながら、どこで鍛練を行おうか考える。
広いスペースならどこでもいいかとなり、その結果として山のふもと辺りに行こうと決定する。
遠くもないしスペースもあるわけだから文句はないと自分では思う。ということで鍛練のアップがてら、足を『体氣』で強化してのランニングで向かった。
数分走るとすぐに山のふもとに着いたので足の強化を一旦消す。ずっと『氣』を使ったいるのは疲れるからだ。
今日は『空氣』の扱いのトレーニングをしようかなと思っている。
ここハイデンベルクトは学園のところよりも自然が多いので、『空氣』を扱う環境としてはより良いところなのだ。
ということなので『空氣』と『体氣』を利用したあれをやろう。
俺はそう決めて意識をまず周りの『空氣』を感じ取るために集中していった。
開始して数十分。俺の額にはすでに汗がびっしりと浮かんでいて、着ている服もすでにびしょびしょになっていた。
俺は疲れたことにより切れていた息を整える。思えば一人で鍛練するのも久しぶりだった気がする。最近は美月さんと模擬戦ばかりしていたので気だけではなく事実そうなのだろう。たまにはこういう風に一人で汗をかくのも良いかもしれない。
そんなことを頭の中で考えていると、山の中から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。そっちの方に目を向けると、照沢先生と岡嶋先生が山の中から出てくるところだった。
俺は先生二人に向かっておはようございますと挨拶をした。照沢先生は丁寧にお辞儀をして、岡嶋先生は軽く手を上げて俺の挨拶に応えた。
岡嶋先生と照沢先生はそのまま俺に近づいてきて話しかけてくる。
「どうしたんだ楠木? こんな朝早くから」
「トレーニングの一環ですよ。先生達はどうしたんですか?」
俺は先生達の質問に答えてから、逆に先生達が何をしていたのかを尋ねる。
「昨日あんなことがありましたからね。一応点検をしておこうってことで少し早起きをして調べていたんですよ」
「この時間帯でちょっとの早起きなのかよ……ちなみに俺は付き添いだ。半強制的の」
「今まで適当にやっていた罰と思えば軽いものですよ」
岡嶋先生は皮肉混じりに言葉を照沢先生に向けて言うが、照沢先生は特に気に介した様子もなく言葉を返す。
「罰って何だよ?」
「自分の行動を振り返って考えてみてください」
照沢先生から返ってきた答えに岡嶋先生はわざとらしく腕を組んで考え出していた。
「普通考えなくても分かるもんでしょう……」
照沢先生はそんな岡嶋先生の様子を見てため息をつく。
「こんな面倒くさいことをさせられるなんて、どんだけ罰重いんだよ……」
「罰とかそういうのを無しとしたとしても、生徒の安全ためにこれくらいやるのは当然だと思いますよ」
「さすが照沢先生。これぞ先生の鏡!」
「茶化さないでください」
なんだかんだ言ったりしていたが、この二人は結構仲が良いように思える。思うだけで、間違っても口に出したりはしないが。
「それで調べた結果どうだったんですか?」
その代わりにその調査の結果を聞く。先生二人(主に照沢先生)は俺の言葉を聞くまで存在を忘れていたようで、ハッとして少し顔を赤くしながら俺の質問に答える。
「特にこれといって大きな問題はなかったんだけど……」
「何か気になることでもあったんですか?」
照沢先生は俺の言葉に頷く。
「この山が広いから見つけられなかっただけかも知れないのだけれど、私たちが殺したフェンリルの死体が見当たらなかったのよ」
俺はその言葉にもしかしてと思った。それが顔に出ていたのか照沢先生は再び頷いて見せる。
「もしかしたら、フェンリルの親がどこかに隠れているのかもしれないわ」
俺は予想通りの答えだったのでゴクリと唾を飲んだ。そんな俺の様子を見て緊張しているのを悟ったのか、照沢先生はすまなそうな顔をする。
「ごめんなさいね。ホントはこういうの生徒にする話じゃないんだけど、貴方みたいな人には一応伝えておこうと思ったのよ。もしもの時のためにね」
照沢先生からのその言葉は、自分が生徒の中では信用されている存在であることを示しているような気がしてちょっと嬉しかった。
その嬉しさが顔に出ないように引き締めながら、聞きたいことがあったので聞いてみる。
「あの、そんな危険がある中、計画通りに今日の日程を行うんですか?」
「危険がありそうな所には各々先生を配備するから、普通に予定通り行う。残念ながら今日やることから逃げるのは無理だぞ?」
俺は自分の想いが岡嶋先生にばれたことを悔しく思う。このような事情があればやらずに済むと思ったのだが甘かったようだ。
「そんな嫌そうにするなよ。やればやったできっと楽しいぞ?」
どうやら顔に出ていたようだ。なんか今日の朝は妙に表情から自分の考えを読み取られる。気を付けないと……
「とにかくやらないということはあり得ないから、どうやって楽しむのかを考えた方が良い思い出になるんじゃないか?」
岡嶋先生はアドバイス? を言い残してから、じゃあなと言って帰っていった。
「あのルールで楽しめるもんなのかね……」
「うまくいけばきっと楽しくなります。何事も前向きに考えるのが一番ですよ。もし楽しめなかったら私も協力しますから岡嶋先生を一緒にぶっとばしましょう!」
照沢先生は俺の呟きが聞こえたようで、俺にそう言った後岡嶋先生の後を付いていった。俺は照沢先生からの協力要請に苦笑いを浮かべてしまった。
先生たちと話した時間がちょうどよく休憩の時間になったので、俺はもう少し鍛練を行ってから宿の方へと戻った。