第四十三話 風呂上がり
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「ふー、気持ち良かったー」
タオルを肩に垂れ掛けさせながら、全身オープン状態のトシは風呂場から上がって開口一番そう言ってきた。
「大勢で入るってのもなかなか気持ちが良いもんだな」
「極楽だった~」
陵と優太はトシのようにオープンはせず、腰にタオルを巻いた状態で出てきて、同意するように言葉を重ね、自分の着替えが入っている棚に向かう。
俺は一足先に風呂場から上がっていたので、早々にタオルで体を拭き終えて、パンツをはき、寝巻用のTシャツを着る。
「それにしても哲也の肉体は凄まじかったな。どうやったらそんな風に筋肉がつくんだ?」
「どうやってって言われてもな……これくらい当たり前だと思ってたし。鍛錬を重ねていくうちに、いつの間にかこんな風になってた」
「鍛錬か……だがただの鍛錬ではここまでなるはずがない……だとすると……やっぱり興味深いな……」
俺は陵からの質問にどう答えるべきか悩みながらも答える。すると俺と同じタイミングで風呂から上がっていた朝翔は、興味深そうな視線を俺に向けてボソボソと呟いていた。その呟きは俺には良く聞こえなかった。まぁその呟きの内容があまり聞いてはいけないようなものに感じた、という理由で耳を傾けていなかったという理由があるのだが。
「それっていつの間にかなるレベルじゃないだろ、それ……」
「じゃあ、日々の鍛錬のたまものって事で」
廉は感心の色は持っているが呆れたような目線を俺に向けてそう言ってきたので、俺はそう言い返す。
「日々の鍛錬ね……きっと相当なものなんだろうな」
陵の言葉にみんなは大きく頷いていた。
――――――――――
風呂場から出て部屋に戻ると、二人の男子生徒が俺らの部屋の前に立っていた。
「誰だあれ?しかも第五の奴らだし」
陵は訝しげに首を傾げる。訝しげになったのは、なんかしらの理由がない限りは、就寝前に他のクラスや学校の人たちの所に行ってはいけないという制約があるからだろう。後、女子部屋に行くのも禁止。この制約には当然のように反発があったりはしたが『クラスの人との仲もしっかりと深めましょう』ということらしい。まぁほとんどの生徒がその制約を破って他のクラスの所に行ったりしているが。
俺は見知った顔だったので、小走りで二人に近づき、ここに来た理由があるだろうからそれを聞いてみる。
「どうしたんだ? 二人とも」
「照沢だったっけか? あの先生から招集かけられたから呼びに来た」
「……ああ、事情説明か」
新谷の答えに俺は少し考えてから、思いだしたように頷いた。そういえばあの時、就寝前に事情を聴くとか言っていた気がする。
「とりあえず先生の部屋に行けばいいのか?」
「うん『あの現場にいた四人を連れて私の部屋にきて頂戴』って」
俺が確認するために聞いてみると、葵は先生の言葉を借りて答えてくれる。
「あの場にいた四人ってことは俺は行かなくていいわけだな」
「四人って言ってたし、たぶんそうだと思う」
「それじゃ、俺は部屋でのんびりさせてもらうかな。明日も朝早いし」
トシは新谷と葵の二人に「また明日な」と声をかけて、部屋の中へと入っていった。
「……行こっか」
トシを見送った後、葵がそういってきたので、俺はその言葉に頷いた。
――――――――――
「あれ? そういえば美佳は?」
照沢先生の部屋の前に来たのはいいものの、美佳を呼んでいないことに疑問を持ち、俺はそう尋ねた。
最初から女子の部屋には向かわずに、一直線にここに向かっていた時点でちょっと疑問に思っていたことだ。
「さすがに俺らだけで女子の部屋の方に行くのはきついからな。火神は美波に呼んでもらうように頼んである。風呂から上がり次第すぐに来るはずだ。とりあえず火神が来るまでは部屋に入らないでここで待機――」
「ごめーん、待った?」
新谷が俺の質問に対して丁寧に応答してくれている最中に、美佳は息を切らしながら駆け足でやって来た。
「大丈夫だよ~。僕らも今さっき来たばっかりだし」
「そう? ならよかったわ」
美佳は葵の言葉に安堵したように息をついた。
「それにしても……」
「どうしたの洸太?」
「わるい、やっぱりなんでもない」
言葉を途中で濁した後、さすがに風呂上がりの女の子は妙に色っぽいな、なんて目の前で言えねえよ……という新谷のぼやきは俺以外には聞こえていなかったようだ。
確かに新谷のその呟きに俺は深く同意する。風呂上がり特有のほてったようなほんのりと赤みを帯びた肌に、洗いたての髪のシャンプーの香り。その他もろもろの要素により、普段から美少女と言われるような可愛さを得ている美佳が、更にも増して可愛く見える。新谷でなくともこの美佳を見れば、ああ言いたくなるだろう。
「とにかく、揃ったことだし部屋に入ろうぜ」
新谷はさっきのぼやきのせいか、何か誤魔化すような感じで部屋に入るように促した。
「入っていいわよ」
俺ら四人の代表として美佳がドアをノックすると、照沢先生の声が中から聞こえてきた。
照沢先生の声を聞いて、それぞれ失礼しますと声をかけ、ドアの中へと入る。
「適当に座ってもらっていいかしら」
先生の部屋ということで少し戸惑いもあり、何をするでもなく立っていると、照沢先生はお茶を汲みながら、そう声をかけてきたので、その言葉に頷き、敷布団がないところに四人並んで腰を下ろした。
「はい、どうぞ」
先生はそう言いながら、今さっき汲んでいた熱いお茶を、俺らに配り出す。俺はそれをお礼を言って受け取った。
先生は一人一人に配り終えた後、自分の分を手に持ちながら俺らの前に座った。
「それではあのときのことを覚えている限りでいいですから、出来るだけ詳しく話してください」