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Dropbehind  作者: ziure
第二章 合宿編
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第三十八話 油断

開いてくださりありがとうございます。

 俺の技をくらい吹っ飛んだフェンリルは木にぶつかり力尽きたように倒れる。少しの時間が経っても動かない様子を見て、もう大丈夫だろうと思い、みんなの方を振り返ると、


「フェンリルを素手であんなに吹っ飛ばすなんてすごすぎだろ……」

「普通はできないよね……」

「哲也、一体あれは何なの?」


 驚きの面持ちで俺の方を見ていた。その顔を見て、そういえば見せたことがなかったと思った。

 道中で使ったけど、それを見てたトシと照沢先生が対して反応してなかったから忘れてたけど、無駄に目立たないようするために、できるだけ使わないようにしてたんだっけ?

 そう思い至った俺は、こいつらに正直に話して無駄に広げないようにしておこうと思った。『フェンリルを素手で倒す奴』なんて感じで語られたらめんどくさいしな。


「ああ、今のは――」

「今のは?」


 葵がノリが良い感じで首を傾げて聞いてくる。


「――『魔空技』だ」

「「「魔空技?」」」


 俺がそれに答えると、三人全員がきれいにそろって首を傾げてみせる。俺はそんな三人の様子を見て苦笑いを浮かべるが、確かにこれだけ言っても分かるわけがないのでこの反応は仕方がないものだろう。


「何なのそれ?」


 美佳が三人を代表するように俺にそう尋ねてくる。俺は分かるだろうと思われるところから三人に説明をしていくことにした。


「『氣』は分かるよな?」

「まぁ、人並みには知ってると思うわよ」

「聞いたことはあるかな」

「知らん!」


 新谷の答えによって、早速説明の山場となってしまった……


「じゃあまずはそこから説明するわ。『氣』は魔法に匹敵する力なんだ。そして『氣』には種類が二つある。一つは自分自身の潜在的な『体氣』。もう一つが自然の力の『空氣』」

「『氣』に種類なんてあったのね……」


 美佳のこの発言に俺が逆に首を傾げることになった。


「あれ? 今さっき人並みに知ってるって言わなかったか?」

「私が知ってるのは、『氣』を使えれば身体的な強化ができることくらいよ」


 俺はそれくらいの知識で人並みなのかと一人で納得しながら、説明を続けることにする。


「それは『体氣』のことだな。『体氣』は自身の潜在的な力で、内側から体を強化することができる。移動する際に足を強化させれば爆発的な瞬発力が得られるし、目を強化すれば動体視力の向上や遠くをより良く見ることができる。『体氣』は何回か言ってるけど自身の潜在的な力だから使いすぎるとすぐに体力が削られちゃって限界が来る。まぁ調節が大事になるんだ」

「……ということは哲也くんのあの速い動きは『体氣』によるものだったんだね」

「そういうことになるな」


 一旦話を区切ると、納得したような呟きが聞こえてきた。俺はそれに頷いた後、説明を続ける。


「次に『空氣』。これは植物自身の『体氣』を自然と空気中に放出されたものだ。それを利用して身体を外側から強化できる」

「え、『氣』って植物も持ってるものなの?」


 葵がそう質問してきたので、俺はそれに対して首を縦に振り頷く。


「ああ。植物に限らず生き物全部に『氣』は存在する。だから『空氣』はその場の環境によって量や質が変わる。まぁ少ないときでも『体氣』より普通に多い量なんだけどね。使いこなせれば大きな武器になるんだけど、量が多い分『体氣』よりも扱いが難しい」

「……ここまで何となくは分かった。それで結局『魔空技』ってなんなんだ?」

「落ち着け。ちゃんと話すから」


 新谷は急かすように俺に尋ねて来たので俺はそれを一回なだめる。見れば新谷だけじゃなく、葵と美佳の二人も目で早く話してと訴えていた。


「『魔空技』は『空氣』と『魔力』を混ぜ合わせて使う体技のことだ。威力はさっきのフェンリルを見れば分かってくれると思う」


 俺がそういうと三人ともなんとも言えない苦笑いを浮かべる。


「どうやって混ぜ合わせるの?」

「言葉で言うのもなんだし一回見せる。ってことで葵、危ないかもしれないから一旦離れてくれ」


 興味津津に目を輝かせながら俺に近づいてきて尋ねる葵の姿に俺は内心動じてしまうが、それを表には出さず離れるように言う。葵はそれに頷いて俺から距離を取ってくれる。


「まずは『空氣』を周りから収縮するように集める」


 俺はそう言ってから手に意識を集中させて、掌の上に『空氣』を集める。イメージは小さなボールで。


「……特に何も起きてないぞ?」

「なんというか……力がそこに集まってる感じする」

「すごいわね……」


 新谷の言葉に一瞬ビビってしまったが、他の二人はちゃんと感じ取ってくれているようだ。俺も最初姉さんに見せられた時、良く分からなかったから、新谷のことは無下に馬鹿にはできないけど。


「そして、これに『魔力』を練りこむように混ぜる」


 俺はそう言ってから掌に集まっている『空氣』に風の魔力を混ぜ合わせていく。するとさっきまで無色だった『空氣』のボールに薄緑色がついていく。三人ともこの光景をジッと見つめていた。


「綺麗……」

「ちなみにこれはさっきより少しだけ小さいけどフェンリルをぶっ飛ばしたのと同じ物だからな」


 感嘆の言葉を漏らして未だに見つめる美佳は、俺の言葉で即座にそれから離れる。


「そういうことは最初に言ってよ! ビックリするじゃない!」

「いや、いきなりそんなこと言われて困るんだが……」


 俺はいきなりの美佳の言葉に軽く呆れながら、完成していた『戦吼弾・風』を空気中に霧散させる。


「それにしても、それにあんな威力が秘められてるなんて想像しずらいよ」

「だよな。信じられないと言いたいところだが、実際にその光景を見ちまってるからなんとも言えん」


 葵と新谷の二人はうんうんと二人で頷き合っている。

「『魔空技』の説明はこんなもんでいいよな? そうそう、俺が『氣』を使えることは出来るだけ、じゃなくて普通に話さないでくれよ。後々めんどくさそうだから」

「分かったわ」「おう」「はーい」


 俺はきちんと三人にそう口止めしておく。三人とも頷いてくれたのでたぶん大丈夫だろう。


「それじゃあ、戻ろっか」


 葵の言葉にみんな反応してトシ達の所、荷物番をしてくれている人たちの所に向かって歩き出した。


「ガァッ!」


 その瞬間だった。声が聞こえて振り向いた時には、さっきまで気絶していたフェンリルがいつの間にか復活していて、飛びかかってくるところだった。

 距離的にかわしようがない。

 俺は忘れていた。相手はただの生き物ではなく、『魔物』だということを。俺はどこかで甘く見ていたのだろう。『魔物』という存在を。あそこで完全に息の根を止めるべきだったのだ。

 ここにいる全員がフェンリルの攻撃に対応することができないということがわかる。

 フェンリルが持つ鋭利な爪が身に襲いかかることを想像して俺は目を閉じた。



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