第三十七話 魔物
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生徒達が山で食料集めに行ってから数十分後。私こと照沢光子は山の方を見つめていた。
「みんな大丈夫かしら……」
ついという感じでこぼれてしまう生徒たちを心配する呟き。
「さぁどうでしょうね」
「岡嶋先生……」
タイミングを計ったかのように、私の後ろから岡嶋先生が声をかけてくる。
「もしもの時には飯分ければいいわけだから、そこまで心配することないだろ?」
「はい……」
あっけらかんとした口調で話す岡嶋先生とは対照的に私は力未だ不安を拭えていないような様子で力弱く頷く。
「一応全生徒にあそこ辺りには魔物が出てくる可能性があるということは伝えてあるんだ。魔法学園の生徒ならたぶん注意は怠らないはずだし、危ないと思ったら逃げれる対応力も少なからずあるはずだ。それに監視役の先生もしっかりと出ているんだ。きっと大丈夫さ。気にしすぎても体に悪いだけだと思うぞ?」
「そう、ですよね……」
私を心配して声をかけてくれる岡嶋先生からの言葉がもっともだと分かっているのだが、どうしても不安が取りきれない。
その理由としては今日ハイデンべルクトに向かう道中での魔物だ。
あそこ辺りは魔物が出てこないなんてことはないのだが、問題はその数だ。
実際に魔物と戦闘した回数は一回だけだが、それは私が魔法をかけていたからだ。もしも、私が魔法をかけていなかったらもっと戦う機会が多くあっただろう。
あの平原には確かに魔物が出てくるが普段はあんなに出てくることはないはずなのだ。
それに魔物たちは何かに怯えているような、恐怖を抱いているような、そんな雰囲気が伝わってきた。
もし私の予想があっていたとすると……
「岡嶋先生、ちょっと私様子を見てきます」
「おい! ちょっ、まて――」
こんな独断的な行動を取るのは教師としてはどうかと思うが、しょうがないと決めつける。
走りだした私の背中から岡嶋先生の声が聞こえたが、私は気にすることなく山の方へと走り出していった。
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「ふぅ……結構採れたな」
葵の言葉で班全員でタケノコ探しを始めてから数十分ほどが経ち、俺の背中に背負っているかごの中も大分いっぱいになってきていた。
「この辺りのもほとんど採っちまったみたいだな……タケノコはもちろんだけど、他の山菜とかもなかなか見当たらないぜ」
トシの持っているかごも俺と同じくらいたまっていて、自分のかごの入っている量が多いことが嬉しいのか、トシの口調は心なし自慢げだ。
「なんであんたが『自分がたくさん採りました』みたいにしてんのよ。あんたはほとんど何もしてないじゃない。あんたが採ったのはその中の一割程度でしょ?」
そんな調子にのっている様子のトシに、朱里は呆れたような口調でそう言うと、本当のことを言われたトシは何も言い返すことができないようだ。
「そうだよー。その中身のほとんどは私と朱里ちゃんの手柄だよ! 残念だったね、トシくん」
「ぐぐっ……」
そして、美波からの追撃にさらに言葉をつまらせるトシ。
「トシ、あんたはかご持ちの仕事だけで十分なのよ。山菜採りの方は無理せずうちらに任せなさいって」
「大丈夫。心配は要らない。トシくんのようなことにはならないから」
「…………」
さらにさらにと続く二人が述べる言葉にトシはついに何も言えなくなり固まっていた。
「二人とも、それくらいにしてあげたら?」
「そうだよ~。さすがにかわいそうだよ~」
そこに美佳と葵からの咎めの声が二人にかかった。そんな二人の優しい言葉にトシの頬には一筋の涙が流れだした。
「ふっ、惨めだな……」
「んだと、こら!」
かと思えば新谷からのバカにするような一言により、一変してキレだした。トシもいろいろと忙しいな……
「う、うわあぁぁーー!」
なんてしていると、突然叫び声が聞こえてきた。
「まさか、魔物!?」
「ええ!?」
朱里は怯えたような声音でそう言うと、美波が驚いたような声をあげる。
聞こえてきた声の大きさからするとそこまで遠くない距離のはず。
「とりあえず、声が聞こえた方向に行こう」
「そうね。でももしあっちに魔物がいるのなら、これを背負いながら行くのは得策じゃないわ。役割を分けましょう。あっちに行って助けに行く係と、ここで私たちの荷物を管理する係ね」
俺の言葉に便乗するように、美佳が頷き案を出す。
「俺は魔物の方に行く、他に後……三人頼む」
「私は行くわ」
「僕も行くよ。後、洸太も」
「はい? ……まあいいか」
「それじゃあ、私、葵、哲也、新谷の四人であっちに行くってことで決定ね。トシくん、朱里、美波の三人は荷物を頼むわね」
美佳からの言葉に全員頷き、俺ら四人は声がした方向へと向かった。
――――――――――
駆けつけてみると、そこにいたのは声をあげただろう生徒。そしてその生徒たちの目の前にいるのは――
「あれは、『フェンリル』!?」
体長がおよそ二メートルほどあり白い毛を身体中に生やした大きな狼――フェンリルがそこにはいた。確か危険度は結構高い方に属する魔物である。でもなんでフェンリルがこんなところに来ているんだ!?
「グルルルル……」
そんな疑問を持つが、口から唾液を垂らし唸り声をあげるフェンリルの声で現実に戻される。その唸り声をあげる様子は、どこかお腹が減っているように見える。事実フェンリルの視線の先は、声をあげた生徒たちが持っているかごの方に向いていた。
「あなたたち、そのかごを置いて離れなさい!」
美佳もフェンリルが狙っているだろうものが分かったようで生徒たちにそう指示をする。
「そんなことできるかよ! これは俺らの飯だぞ? とにかく助けろ!」
だが、その生徒たちはその美佳の指示を鵜呑みにする様子はなく、ただ助けろと要求してくる。
「そんなこと言わないで! フェンリルは君たちのかごの中身を狙ってるんだよ?」
「そんなこと言って、俺らがこれを置いた後にお前らはこれを盗るきだろ?」
葵はそんな生徒たちを見兼ねてフェンリルが狙っているものを教えるが、嘘だと一蹴され、結局聞く耳すら持つ様子はない。
さすがに俺はこの一言に呆れてものも言えなくなった。
「あんなやつらどうでもいいんじゃね? 置いてどっか行こうぜ」
だが、この新谷の意見にも俺は呆れてしまった。
「洸太!? 何言ってんの!?」
葵もこの新谷が言った言葉に怒ったように反応する。美佳は何も言わないが冷たい視線を新谷にぶつけている。
「何言ってんのって、そのままの意味だけど? ああいうやつらは助ける意味もないさ」
新谷は葵の言葉や美佳の視線も特に気にすることなく、ただ淡々と自分の言葉を述べていく。
「俺は戦争でああいう風に助けを乞うやつらをかなり見てきた。大体ああいうのは自分達だけ助かろうとするんだ。人の言葉には目もくれずただ自分が助かればそれでいい。そんな風に思ってやがるんだ。そんなやつら助ける必要ないだろ?」
「屁理屈なんてこいてないで、さっさと助けるぞ!」
俺は新谷にそう言って身体を『体氣』で強化して地面を蹴り、フェンリルがいる方に向かう。そしてその勢いのままフェンリルの顔に蹴りを叩き込み注意をこちらに向けさせる。
「葵、私たちも加勢するわよ」
「う、うん」
美佳の言葉に葵は新谷の方を気にしながらも頷き、フェンリルがいる方へと向かう。
「ちっ……このまま逃げればお前らには被害が来なかったかも知れないのに……」
新谷は舌打ちをして、ぼそぼそと何かを言った後に、葵たちの後ろについていく。
「ガオオオオッ!」
そんな風にしている間に、俺の蹴りを食らったフェンリルはすぐに立て直し、怒りの咆哮をぶつけてくる。
俺らはその咆哮に一瞬ひるみを見せるがすぐに持ち直す。
「俺が前衛でなんとかこいつを撹乱させて時間を作るから、その間に魔法を放ってくれ!」
みんなは俺の言葉を受け取り理解したようで、冷静に頷いてくれる。
「即死の攻撃じゃなきゃ僕が治すから無理のしすぎには気を付けてね!」
葵からのありがたい言葉を受けた後、俺は再び地面を蹴り、フェンリルの間合いに入る。
フェンリルは俺の動きを今度はちゃんと捉えているようで、俺に向かって前足を地面にそって振ってくる。俺はそれを飛んで避ける。
だが、その回避方法は間違っていた。
すぐさま逆の前足を振ってきたフェンリルの攻撃は、空中にいる俺には避けようがない。
「ぐっ」
「哲也!?」「哲也くん!?」「楠木!?」
口からそう声が漏れて、身体は吹き飛ばされ地面を転がる。それと同時に必死に俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺は無駄な心配をかけさせないためにもすぐに立ち上がる。
確かに今の攻撃は避けきれなかったが、まともに食らった訳ではない。腕に『空氣』を多量にまとわせ、そこでフェンリルの攻撃を防御したのだ。
とはいっても攻撃は受けたわけで、無傷と言うわけにはいかず、腕には血が少し流れ、赤くなっていた。
「癒しの光よ今ここに『ヒール』」
そこに葵からの治癒魔法がかかり腕が光に包まれる。すると腕から痛みがすぐにとれる。俺は葵に目でお礼の意を伝えて、再びフェンリルと向かい合う。
「炎よ、弓矢のごとく我が敵に降り注げ『フレイムアロー』」
美佳は詠唱を終え魔法を発動させる。七つの赤い玉が美佳の頭上に出現し、弓矢へと形を変え、それらがフェンリル向かって一気に降り注がれる。
フェンリルは何本かは持ち前の俊敏さを生かして避けるが、結局は何本か火の矢が体に突き刺さり、怯みを見せる。
「大気の刃よ、巻き上がり、敵を切り刻め『タービュランス』」
怯むことによって生まれた隙を新谷は逃すことなく、詠唱を完了させる。
するとフェンリルの足元に乱気流が生まれ始める。それはすぐに三メートルほどの円を形成し、フェンリルが気づいた頃には、すでに打ち上がり、フェンリルを包む。
フェンリルはそこから逃れることが出来ないようで、風によって刻まれるようにいろんなところから血が吹き出てくる。それと平行するようにフェンリルから苦し気な鳴き声が上がる。
「魔を取り抜く清水よ、流れ落ちよ『スプラッシュ』」
葵が詠唱を終えると、水がフェンリルの頭上から落とされる。血が流れている傷口に染み渡るのか、痛みによってフェンリルは叫ぶような声をあげる。
三人がそれぞれの魔法で攻撃している時間を使って、俺は『空氣』を掌に集め圧縮していき、風の魔力をそこに混ぜ合わせていた。それを完成させた後、地面を蹴り、フェンリルの頭に一直線にこれをぶつけにかかる。
「食らえ!」
様々な魔法を食らい傷ついていたフェンリルは、逃げることもできず、俺の魔空技『戦吼弾・風』をもろにヒットした。と同時に俺の攻撃の勢いで後方へとぶっ飛んで近くにあった木にぶつかり、フェンリルは力尽きたようでドサッとその場に倒れこんだ。