第三十五話 宿泊班
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俺、トシ、照沢先生の三人はハイデンベルクトの町に入ると、すぐに宿舎である旅館を探していた。
「確かこの辺に……」
照沢先生は手に俺らにも配られているパンフレットに目を落としながら呟いていた。
俺らのような学園生徒での大所帯でも大丈夫な旅館ならそれ相応に大きいはず。なのですぐに見つかると思ったのだが、これがなかなか見つからない。
というのも今までそこまで調べてなかったので詳しく知らなかったが、ハイデンべルクトは『自然が豊かにある』ということで観光スポットとしても有名らしく、そこら中に植物やら生き物やらの博物館や観光客用のお土産屋など大きな建物がたくさんあったのだ。どれもこれも大きくて変わった造りをしているわけではないので紛らわしいったらありゃしないのだ。
「あれらのどれかに私たちの泊まる旅館があるはずなんですけど……」
照沢先生はあちらこちらに建っている建物を見ながら俺らにそう言ってきた。
「お、あれじゃないか?」
照沢先生が示した辺りを見ながら探していると、トシが一つの建物を指しながらそう言ってきた。
「……あれだろうな」
「間違いないですね」
俺はそれを見て間違いないと思ったので頷いた。照沢先生も同じようにしているので確実だろう。入口の近くに建っている看板に『王立魔法学園専用旅館』と書かれているのだから。
俺らはその旅館に入り、受付をしている人に照沢先生は話しかけた。
「第六魔法学園の教師の照沢です」
「照沢……はい、確認いたしました。念のためですが証明書をお願いします」
「これでいいですか」
「拝見させていただきます……はい、間違いないです」
照沢先生は受付の人とのやり取りを終えると、受付の人に自分の部屋の場所を尋ねる。
「後ろの二人の生徒の部屋は何処ですか? 後、私の部屋の場所もお願いします」
照沢先生からの言葉を聞いた受付の人は丁寧に俺らがどこの部屋かを教えてくれた。
教えてもらった後、その場から離れて、少し奥の所で止まり、照沢先生は確認事項を俺らに話してくる。
「さて、とりあえず各自自分達の部屋にいきましょうか。そうそう、日程では三時頃から第五学園との交流を深めるためのレクリエーションがあるので、十分前には旅館の玄関前に集合してくださいね」
俺とトシは先生からの言葉に頷き、受付の人から言われた部屋へと向かった。
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「あの人はなんのために宿泊班を決めたんだ?」
トシはもはやあきれたような雰囲気でそう言っていた。あの人というのはおそらくうちらの担任である岡嶋先生のことだろう。
「確かにな……まぁ同じ班にはなっているわけだから、まだ決めた意味はあるんんじゃないか?」
「それもそうだな……」
俺はトシの言葉に賛同するような言葉を述べる。さすがにここまで適当だと呆れるしかない……
岡嶋先生は宿泊班の人数を限定もせずに適当に組ましていた。現に俺はトシとの二人で一つの班としていた。それなのに指定された部屋に行ってみて、ドアの隣に張ってあった紙を見てみると、俺とトシ以外の他に同じクラスの奴の名前が四人載っている、つまりは六人の班になっていたのだ。これでは班を作った意味はあまりないと思った。とはいってもクラスのメンバーと馴染めていない訳ではないので、別に怒るという感情が出ているわけではない。ただ港のときといい今回といい呆れているだけだ。
「……入るか」
俺はそんな感じで岡嶋先生のことを考えた後、部屋に入ろうとトシに促し、トシはそれに頷いたので、俺はドアノブに手をかけ、ガチャリと後ろに引きドアを開けた。
部屋の中に目をやってなかを拝見してみる。広さは敷布団が六つしいてあって所々に隙間がある程度。六人それぞれの荷物をおけば、それでほとんど埋まる程度のスペースだ。
そして、その中に紙に名前が書いてある当人である四人の男子生徒が居座っていた。
「お、やっと来たか」
「遅いぞ~」
「一体何してたんだ? 待ちくたびれたぜ」
「ふふふ、待っていたぞ」
俺とトシが入ってきたことに気付いた男子生徒達がこちらを向き話しかけてくる。
こいつらの紹介を簡潔にすると、最初に話しかけてきたのは新通陵。気さくで誰にでも好かれる良い奴。
次に話しかけてきたのは三浦優太。話し方からも見て取れるが、のほほんとしている優男。
その次は遠藤廉。見た目は怖そうで我が強いが、なんだかんだで憎めない奴。
最後に不気味な笑みを浮かべながら話しかけてきたのは、大塚朝翔。謎が多く、何を考えているか良く分からん奴。
こいつら四人は小さい頃からいつも一緒にいた、いわゆる幼なじみらしい。てかその四人が見事に同じクラスになるって相当の確率だよな……
閑話休題
トシは早速こいつら四人に話しかける。
「てかそれよりこの部屋割は一体どうなってるか聞きたいけど、やっぱり……」
「岡嶋が勝手に決めた」
「だろうな……」
トシの確認に陵は簡潔に答えを言い、俺は呆れながらにそう呟いた。
「全く、あそこまでいい加減だと殴りたくなってくるぜ」
「穏便にね~」
胸の前で手をパキパキと鳴らしながら言う廉に、止める気があるのか分からないような優しい声音で、優太はそれを咎める。
「ふふふ……だがいっそ、やってみたら面白そうだ」
「乗せるようなことを言うなって。廉はマジでやりそうで怖い」
せっかく優太が咎めの声をかけたというのに、朝翔が便乗させるような言葉を言うと、陵は真剣な表情を浮かべながら朝翔に対してそう言う。
「いや、やんねぇから。さすがに退学する気はない」
「退学は嫌だもんね~」
朝翔はその陵から言われた言葉を否定した。優太はその朝翔の言葉にうんうんと頷いている。
「ただ単にビビってるだけかもだけどなー」
しかし馬鹿にするように笑いながら言ったトシのこの言葉に、廉は黙っていられなかったようで、額に青筋を浮かべながら立ち上がりトシに近づいていく。
「トシ、今俺を馬鹿にしやがったな?」
「おい、冗談だからそんな怒りの形相でこっちくんな!」
「あ、てめぇ! 逃げんじゃねえよ!」
「何言ってやがる! 普通に逃げるわ!」
だが、その廉の行動はトシにとっては計算外だったようでビビったように部屋の中を逃げ回る。当然それを追いかける廉。
狭い部屋の中を逃げ回るトシはなかなかのものだったが、廉にすぐに捕まってしまい、ボコられ始めた(当たり前だがマジではなく、ふざけているのは見てとれる)。
「廉、そろそろ勘弁してやれって」
陵はそんな二人を見ながらやめさせるように声をかける。廉はそれに頷いてトシから離れて元いた場所に座りなおす。トシはボロ雑巾のようにヘタっとなって動けないでいた。
「トシー、無事かー?」
俺は動けないでいるトシに近づいて声をかける。
「心配するくらいだったら、途中で止めてくれ……」
「……悪かった」
トシの切実な願いがこもっていた言葉に、不思議と俺の口からは謝罪の言葉が漏れていた。
「よし、そろそろいい時間だし、外に行こうぜ」
陵は部屋にいるメンバーにそう声をかけ、全員それに頷き旅館の外へと向かった。