第三十四話 道中
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「あれがハイデンベルクト……?」
「ええ、そうよ。全員無事に着けてよかった……」
町が見えてきて俺が確認の意味を込めて照沢先生に尋ねてみると、照沢先生は頷き、言葉通り無事着けたことをほっとしているよだった。
ガルーダ達を倒してから歩いておよそ二十分、俺らはようやくハイデンベルクトに着いた。
向かっている途中に、ちらほら魔物の姿が見れることはあったが、襲われるということはなかった。
襲われなかったのも……
「それじゃあ、魔法を解くわね」
そう、照沢先生の魔法のおかげだ。
――――――――――――――
ガルーダ達に襲われた後、照沢先生の言葉で歩き出そうとした俺とトシに声をかけてきた。
「あ、ちょっと待って」
俺とトシはそれに反応して照沢先生の方へ振り向く。俺らが話を聞く態勢になったのを確認してから、照沢先生は話し始める。
「ここの治安は思った以上に悪いようですね……このまま普通に歩いていたら魔物ともう何回か戦闘になるかもしれない」
「確かに……」
俺はさっきのガルーダのことを思い出してみて、そこら辺にいたら確実に戦闘になると思ったので、先生の言葉に肯定した。
「でも魔物に見つかったら戦闘になるのはしょうがないと思いますけど……」
トシはやや遠慮気味に先生に尋ねるように自分の思った言葉を口にする。
「ええ、見つかったらそれは戦闘になるでしょうね」
先生はトシの言葉に頷き肯定し、そのまま言葉を続ける。
「要するに見つからないようにすればいいのよ」
「それはそうでしょうけど……」
「一体どうするんですか?」
俺は照沢先生の言ったことは理解できるのだが、どうやって見つからないようにするのかが分からなかったので首を傾げていると、トシも俺と同じでよく分かっていなかったようで、照沢先生に尋ねていた。
「端的に言うと魔法を利用するわ」
トシの疑問に照沢先生は答えた。
「使うのは闇の隠蔽魔法よ」
「なるほど……」
俺は美月さんがよく使っているため、隠蔽魔法の効力を知っているので、先生の言葉に納得した。それと同時に驚きを抱いていた。
闇と光は相対的な属性関係にある。対極と言ってもいいだろう。そのため両方とも習得している人はそういない。しかも照沢先生は光の上級魔法である結界魔法を使っていた。それにプラスして闇魔法が使えると言っているのだ。自分ではあまり強くないと言っていたけど、さすがは先生と言うのだろうか、その力量はすごいもののようだ。
「それじゃあ、さっそく……」
照沢先生はそう言ってから俺の方を向き、ぶつぶつと呪文を唱え出し、魔法を完成させる。
すると俺の体に黒い何かが体に纏わりつき、気付いたころにはそれは消えていた。
照沢先生はそのままトシと自分にも魔法をかけていった。
「……一応私含めて全員に魔法をかけました。これで大体の魔物に見つかることは無いと思います。ただ、においに敏感な狼や犬のような魔物には見つかる可能性はあるかもしれないから、油断はせずに用心をしておいてください」
俺とトシは照沢先生からの注意に頷いた。
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まぁ、こういう成り行きで、照沢先生に魔法を使ってもらった。
「よし、終わった……それでは行きましょう」
なんて少し前のことを考えているうちに魔法を解き終えたようだ。
「先生、ちょっと質問があるんですけど……」
「何でしょうか?」
照沢先生からの促しの言葉で歩き出してすぐに、トシが歩みを止めることなく照沢先生に疑問を口にする。
「あの、なんでこの魔法を解く必要があったんですか?魔物には見つからないし、こうして人同士なら問題なくコミュニケーションもとれますし……」
「確かに私たちはコミュニケーションをとれています。けれどそれは私たちが私たちにこの魔法がかけられているということを知っているからです。それと私がかけた魔法がそこまで影響力が強くないということもあります。影響力が強い場合はかけた瞬間姿が見えなくなりますからね」
確かに隠蔽魔法を使っていることを知っているだけで、その姿が見えるのなら、鍛錬の時美月さんの姿はすぐに見つかったことだろう。
「今回私がかけた魔法は、相手に私たちの姿を捉えにくくする程度の物です。その効力は魔物にはもちろん、人にも影響があります。なのでこれは解く必要があります」
最後に、こんな感じで良かったですか? と綺麗な笑顔で首を傾げて尋ねると、トシは少しばかり顔を赤くしながら、ありがとうございますとお礼を言った。
「トシはこういう大人の女性が好みなのか?」
「はぁ!?」
俺はからかいを含んだ言葉をトシに投げかける。当然前を歩いている照沢先生には聞こえない大きさの声で。するとトシは何を言ってるんだと言いたげに声をあげる。
「どうしたんですか?」
照沢先生はトシがあげた声が大きかったせいか、それに反応してこちらに振り向く。
「実はトシがですね――」
「な、何でもないんで気にしなくて大丈夫です!」
「……でも顔が少し赤いですよ?」
そう言って照沢先生は心配した様子でトシに顔を近づける。それがトシにとってはやめてほしいだろう行動だとは知らずに。
「ほんとーに大丈夫なので、マジで気にしないでください!」
トシは懸命に自分が大丈夫ということを伝えようとする。
「分かりました。何かあったら言ってくださいね?」
照沢先生はそう言葉を残して再び俺らの前を歩き始めた。トシは照沢先生が前に行ったことを確認した後、一つ安心したように息をつき、怒ったような表情で俺に詰め寄ってくる。
「てーつーやー」
「わりい。さっきのトシの顔を見ていたら、ついからかいたくなってしまったんだ……」
俺は申し訳なさそうな雰囲気をつくり、全く理由になっていない言い訳を口にする。
「そうか……確かにそれはしょうがない……わけねぇよ!」
トシは俺の言い訳に納得したように頷きかけたが、結局はダメだった。俺はそんなトシに隠す気もない舌打ちをした。
「てか今舌打ちしやがったな? くそっ、覚えてやがれ!」
トシは俺が舌打ちしたことにしっかりと反応する。
「そんな怒るなよ。悪かったって」
俺は怒っている様子のトシに謝罪の言葉を述べるが、怒らしたばかりなので、当然のように無視られる。
「俺が悪かった。許してくれ」
俺はそんなトシの無視攻撃に負けずに、今度は拝むように手を合わせて謝る。がそれでもトシは反応してくれない。どうせこれくらいのことなら時間が経てばすぐに元に戻るのだが、俺はここでトシが確実に反応するようなことを言ってみる。
「そうか……こんなに謝っても許してくれないのか……ならトシが照沢先生をいやらしい目で見て興奮のあまり顔を赤くしていた、と朱里に伝えようかな~」
「ごめんなさい許しますから勘弁してください」
俺の言葉にトシは見事に反応して見せる。やっぱりトシのこういう反応はホントに面白いと思った。
そんなこんなで楽しく話をしながら、俺ら三人はハイデンベルクトの町に入っていった。