第三十二話 治癒魔法
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「あの年にして治癒魔法に関してならトップの呼び声高い『六家』の水属性『紫水家』の次男、紫水葵よ」
美佳から告げられた言葉に俺は驚きを隠せないでいた。トシと朱里も俺と同じ感じのようだ。まさかこんなところで出会えるとは……でも考えてみれば美佳もこうして学園に通っている訳だからそこまで意外ではないのかもしれない。
「あれ、美佳ちゃんじゃないか!」
そんな風に考えていると、葵が手を上げながら美佳に声をかける。美佳はそんな葵に応えるように微笑みながら控えめに手を振る。
葵は応答してくれたことが嬉しかったのか、笑顔でこちらに近づいてきた。葵と一緒にいる洸太という男はめんどくさそうに一度ため息をつき、葵に付いていく。
「久しぶりだね!」
「ええ、久しぶり。いつ以来かしら?」
「たぶん僕らが学園に入る前に集まった時以来じゃないかな」
葵と美佳はなんやかんやで会話を始めていく。
「それにしても、久しぶりに美佳ちゃんを見たけど、すごく可愛くなったね! 前々から可愛かったのにさらに磨きがかかってるよ!」
葵は興奮した様子で美佳に誉め言葉を述べる。
「ありがと。葵もより可愛くなってるわよ」
美佳は少し照れた様子を見せて、お返しというように誉め言葉? を返す。
「ホントに? 美佳ちゃんに誉められるとやっぱり嬉しいなあ」
いや、それって男としてどうなんだ!? とつっこみをいれたい反応をとったが、初対面のしかも『六家』の人物に、気軽につっこむことはやめといた方がいいと思い、なんとか喉のところで言葉を止める。
「あ、僕は葵って言うんだ~。紫水葵。一応『六家』、『紫水家』の次男だけどそんなことは気にせず仲良くしてね! ちなみに第五魔法学園所属だよー」
美佳からの誉め言葉? にさっきまで照れていた葵は、美佳と一緒にいる俺らに気付き、はっとしたように自分の自己紹介をして、右手を差し出してくる。
「俺は楠木哲也。第六魔法学園所属だ。よろしくな。葵、で良いか?」
「うん! それで良いよ~。よろしくね、哲也くん」
俺は自分の自己紹介をして、葵から差し出された手を握り握手した。朱里とトシも同じように自己紹介をして手を握り合う。
「それでこっちにいるのが、新谷洸太。基本的にめんどくさがりやで、無愛想だけど、いざという時には頼りになる良い奴なんだよ」
葵は自分の近くにはいるが、ある一定の距離からは全く近づこうとして来なかった新谷の紹介をする。
「……新谷だ。よろしく」
新谷は無表情のままこっちを見ようとはせずに短く自分の名前を言う。
「ごめんね? 仲良くなるまで洸太はこういう素っ気ない感じなんだ。まぁただの照れ隠しなんだけどね」
「照れてねーよ」
葵が苦笑いを浮かべながら新谷の態度についてフォローをいれると、新谷はそれに反応する。
「そうなの?」
「当たり前だ!」
確認でもするように葵が可愛らしく首を傾げながら尋ねると、新谷は少々むきになったようで大きな声を出してしまう。
そして大きな声を出したことによって集めてしまった視線で新谷は恥ずかし気にそっぽを向く。
「とりあえず一回ここを離れましょうか」
美佳の言葉に全員が頷きそこから離れるように歩き出した。
「それにしてもさっきのあの魔法すごかったよな! あれって一体どうやったんだ?」
「えへへ、ありがとう。あれは自分では治癒魔法だと思ってるよ」
葵はトシからの言葉に照れてみせた後、同時に言われた質問に対してなんだかはっきりしない感じで答える。
「思うって、なんじゃそりゃ。治癒魔法じゃないのか?」
トシは俺が思ったことを口にして葵に尋ねる。葵はそれに対して少し考える仕草を見せてからそれにこう言ってきた。
「……さっき言った通り僕はこれを治癒魔法だと思ってるんだ。だけどみんなも知っての通り、実際の治癒魔法は無機質の物を治すことはできるはずがないでしょ?」
ここで治癒魔法に関して少しばかり解説を入れるが、治癒魔法というのは本来人間や動物の持っている自然治癒力を高めることで傷を治したりするものであるのだ。つまり無機質の物にはそれがないので普通ならば治せるはずがないのである。ちなみに治癒魔法を使えるのは光属性と水属性を扱える一部の者だけである。
葵は俺らが頷いたのを見て話を続ける。
「だから一部の人はこの魔法を治癒魔法だと認めてくれないんだよね。『こんなことはありえない』とか言って異能の魔法だとか言ってくる人もいたね。まぁその認めてくれない連中の大半は僕の魔法能力に対して嫉妬してる連中ばかりなんだけどね」
そう言って葵は、あははと笑ってみせる。
「そんなふうに無理して笑って見せなくていいのよ?」
しかし、美佳はその葵の笑顔に複雑そうな顔をしてそう告げる。
「確かに昔はそういう風に言われて落ち込んじゃってた時期もあったけど、今では大丈夫だよ。自分自身も少しは強くなったし、そして何より仲間が出来たからね」
葵は力強くそう言って見せた。美佳はその様子を見て「それなら安心ね」とホッとしたような表情をしていた。
「そう言えば他の第五の奴らはどこにいるんだ?あんたら以外には見当らないけど……」
「すでに宿だ」
トシが話を変えるように尋ねると、新谷は短く端的にそれに答えた後、葵をジロッと睨みつける。葵はそれに気付いてはいるが特に気にする様子はない。
「じゃあ、なんでここに来てるの?」
「俺はこいつに無理矢理連れてこられただけだ」
新谷は親指で横にいる葵を指しながらそう言ってため息をつく。きっと今のため息もさっきの睨みつけも葵の起こした出来事に巻き込まれたことに対する不服の表れなのだろう。それが無理やり連れてこられた結果というのではそれをやりたくなるのも分かる気がする。
「そう怒らないでよ。先生が保護者として誰かを連れていけば、行ってもいいよって言ったんだもん」
「あんなに女子がついて行きたいって言ってたのに、どうしてその保護者役に俺を挙げたんだか。俺は宿で寝てたかったって言うのに……」
新谷はぶつぶつとそう言って葵を横目で見ながら無駄に大きなため息をつく。
「だってあんな女子なんかより洸太が良かったんだもん!」
「別に男子ならだれでもよかったんじゃねえのか?」
「そんなことないよ」
「どうだか」
葵は新谷の終始変わらない素っ気ない態度に段々と沈んでいくが、
「うぅ、もうそれを掘り返さないでよ! 僕だって悪かったって思って謝ったんじゃないか! そういう態度を取り続けると、泣かされたって担任に報告しちゃうよ?」
「げっ、そりゃ勘弁してくれ」
理由はよく分からないがさっきまでの態度が一変、葵の一言によって新谷はすぐに謝りだした。
「いいよ、許してあげる」
「ふぅ、助かったぜ……って立場が逆転してるじゃねえか!」
「わぁー洸太が怒った~。助けて哲也くん」
そう言いながら葵は俺の背後に行き、背中に捕まりながら顔だけひょっこり出して俺の顔を見上げつめる。
そんな葵たちの一連の行動を見て俺は苦笑いを浮かべていると、朱里が「ねえ」と声をかけてくる。
「どうした?」
朱里は小さくため息をついた後告げる。
「時間、やばいかも……」
「「「……あっ」」」
朱里の一言によって俺とトシと美佳は同じような反応を取り……慌てだす。
「こんなところでのんびりしてる暇なんてないじゃん!」
「気がついてたなら、なんで早く言わねえんだよ! この役立たず」
「今さっき気付いたのよ! それに気付いただけましじゃない! 何も気付かなかったあんたに役立たずと言われる筋合いはないわよ。あんたこそ役立たずじゃない!」
「うるせー!」
「そんな口喧嘩なんてしてないで、走るわよ!」
「りょうーかい。葵、新谷、また宿で」
俺ら四人は背後から聞こえる「また後でね~」という葵の言葉をBGMに集合場所へとダッシュで向かうのだった。