第三十一話 紫水
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「ふぅ……うまかったな」
「だよな! しつこくなくて飽きない、そしてなにより素材の味を存分に活かした出汁の味は最高だった」
「ここまで美味しいなんて思わなかったよ。うち正直おでんなめてた……」
昼食を食べ終えた俺らは、店を出てた後、三者三様におでんへの感想を述べていく。
「こんなに美味しい店を紹介してくれた火神さんには感謝だな」
「確かにな」
「美佳、ありがとね」
「みんなに喜んでもらえた様で良かったわ」
美佳は俺らの感謝の言葉に、照れたように嬉しさを顔に表わしながら、謙虚に喜びの言葉を口にした。
「これからどうする? 集合にはまだ少し時間があるし……」
「そうだな……美佳は前にここに来たんだよな? 良い店があるなら、おでん屋みたいに紹介してくれよ。さすがに残り時間じゃあ、全部の店を回るのは無理だろうし」
「えっ?」
俺からのいきなり発案に美佳は不意をつかれたようですっとんきょうな声をあげる。
「お、それ良いアイディアだな!」
「確かにそれが一番良さそうね」
そんな美佳を置いて、トシと朱里は賛成してくれる。
「ってことなんだが、お願いできるか?」
「別に良いんだけど……」
俺が問いかけると、美佳は了承を出すがどこか歯切れが良くない。
「なにか問題があるの?」
朱里も俺と同じように思ったようで、そんな様子の美佳に問いかける。
「問題ってほどでもないんだけどね。確かにここ辺りに来て店のところには行ったんだけど、実際に店には入ったりしてないのよ。要するに私が行きたいなーって思う店はあるんだけど、それが良い店なのかは入ってないから分からないの」
「別にそれでも良いんじゃないか? 店の外見は、中身にも大きく影響することがあるだろうし。とりあえず行ってみようぜ」
美佳から聞いた情報に別に問題がありそうな要素がないので、俺はみんなにそう言葉をかけ、三人とも頷いたのを確認し、俺らはおでん屋に向かったときと同じように美佳が紹介する店へと向かった。
「さすがに店が多いな……」
「ほんとだね。これは美佳に決めてもらうのは正解だね」
「火神さんのセンスならきっと良さそうなところな気がするよな」
並んでいる店の数に俺が言葉をこぼすと、朱里が俺の言葉に反応して、トシもそれにのってくる。
「あんまり期待しないでよ?」
俺らの会話を聞いた美佳はそう言ってきたので、俺は「分かってるよ」とだけ答えた。
「おい。なんだ、あれ?」
トシがなにかを見つけたようで、突然声を出した。
俺は声を出したトシの方を向くと、トシはどこかを指差していたので、俺はその方向を向いてみる。
そこにあったのは人だかりができている店、と一瞬思ったが、よく見てみるとなにやら揉めているようだ。
「あそこ、私が紹介しようとしてたガラス製品のお店……」
「マジ? ……とりあえず近くに行ってみようぜ」
トシからの言葉にみんな頷いて、人混みを掻き分けながら、現場に向かう。
「だーかーら、僕じゃないってば」
「何言ってやがる! 俺は見てたんだぞ! お前が俺の店の商品を壊したのを」
「はぁ……だからこいつの付き添いは嫌だったんだ……」
店の前に来てみると、そこにいたのはその店の店主と思われる男と、王立魔法学園と思われる制服(王立魔法学園の制服は第一から第六までほとんど似たような作りらしい)を着ている二人の男子生徒だった。制服を着ている二人のうち、言い訳をしている方は、かわいらしい女の子みたいな中立的な顔つきに赤目青髪で、背も150くらい。向かいあいながら言い合ってる店主と身長差があるので、その光景はなんかシュールである。 その脇にいる面倒くさそうにしているもう一人の男子生徒は、身長は俺とトシと同じかちょっと低いかといった感じで、青紫色の髪と目で、周りからはかっこいいと言われるだろう容姿である。
「何回も言うけど本当に違うんですって。ただ壊れてるガラス商品があったから、魔法で元に戻そうとしたところにあなたが来ただけなんです!」
「冗談言うんじゃねえよ! 魔法で壊れたガラスを直せるわけがねえだろ!」
かわいらしい方の男子生徒が必死に弁解を訴えるが、店主は全く聞き入れる様子もなく怒鳴り散らすばかりである。
「葵。口で口論するよりも、こういう奴には実際に見せた方が早いんじゃないか?」
「それもそうだね! さすが洸太。ってことで店主さん、壊れた商品を貸してくれませんか?」
洸太と呼ばれた男子生徒が発案すると、葵と呼ばれた男子生徒がその発案に頷いて、店主さんに壊れた商品を持ってくるようにお願いする。
「ちっ、わかったよ。ちょっと待ってろ」
お願いされた店主は思いっきり舌打ちをした後、店の中に入ってその商品を取りにいった。
「なんか面倒そうなことになってるな」
俺は今の騒動を見て、大変そうだなーと思いそう呟く。
「確かにな。てか、魔法で物質の修復なんて可能なのか?」
「そうだよね……うちは見たこともなければ、聞いたことないよ」
トシと朱里の二人は、葵と呼ばれていた男子生徒の言葉を疑っているようだ。ちなみに俺もそんなことが可能だとは思っていない。
「可能よ。あいつならたぶん」
そんな中美佳がボソリと呟いた。口振りからすると知り合いのような気がするが……
「おら、持ってきてやったぞ。直せなかったら代金を支払ってもらうからな」
「別に構いませんよ」
聞いてみようと美佳に質問しようとしたところで、店主が壊れている透明のガラスを入れた桶を持って戻ってきた。葵はそれを受け取って地面に置き、自分は正座をした後、目を瞑って二回ほど深呼吸をする。
「それでは……いきます!」
葵は目を開いて気合を入れるようにそう言ってから、最後にもう一度深呼吸をして桶の前に両手をかざす。
目は一点を見つめたまま動かさず集中していることが手に取るようにわかる。
周りはその集中している葵の姿を無言で見つめている。
そんな沈黙の中、葵の両手に眩い青白の光が纏い始める。周りからは小さな感嘆の声が漏れる。
その光は少しずつ量を増やし、輝きも増していく。とても鮮やかで綺麗な光である。
そしてその葵の手に纏われた光は垂れ流されるように、桶を、つまりはガラスを照らし始める。
すると桶の中に入っているガラスが輝きを放ち始め、バラバラだったガラスの破片が一つにまとまっていく。そして型を形成していき、この作業で一番眩しい光が俺らの目を襲う。俺はとっさに眼を閉じてそれをかわす。
「……終わりましたよ」
葵からの終了の言葉がその場に静かに響く。
俺は目を開けて桶の中を確認すると、透明のコップがそこにはあった。
「すげぇ……」
トシがボソリとそう呟く。俺も全く同じ感想を持った。これはマジですごいと思う。
「本当に可能なんだね……」
朱里も驚きを隠せない様子である。俺ら(美佳は除く)以外もみんな同じような反応だ。
「店主さん、これで問題ないですよね?」
「……あ、ああ。問題ねぇよ。……疑って悪かったな」
みんなが驚きを露わにしている中、葵はごく自然な感じで桶を店主に差し出しながら確認を取る。店主は一瞬呆気にとられたようだったが、すぐに我を取り戻し疑ったことを謝ると、葵から差し出されている桶を受け取るとさっさと店の中へと戻って行った。
「なぁ、美佳。お前は知ってるっぽいな、あいつのこと」
「ええ、知ってるわよ」
俺は美佳に葵という奴のことを問いかけると、美佳は頷き、さらに言葉を紡ぐ。
「あの年にして治癒魔法に関してならトップの呼び声高い『六家』の水属性、『紫水家』の次男。紫水葵よ」