第二十一話 生徒会
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舞さんから解散の言葉が掛けられて闘技場から出た後、鞄を取りにいくために、俺はトシと一緒に教室へと向うことにした。
美佳と朱里は、同じクラスの友達とさっきの模擬戦のことについて話しながら先に教室へと戻っていった。
「それにしてもすごいな!」
二人で並びながら歩いているとトシがそんなことを言い出した。俺はそのトシのすごいという言葉でさっきの模擬戦の美佳のことだろうと思い、
「美佳のことか? 確かにすごかったけど『火神家』の一人ならあれくらい当たり前なんじゃないか?」
言葉通り当たり前だろう、とばかりに俺はそう答えた。
「火神さんは確かにすごかったさ」
トシは俺の答えに同調するが、言いたかったことは違ったらしく、さらに言葉を続ける。
「でも俺が本当にすごいと思ったのはお前だぜ、哲也」
「俺?」
トシの口から続けられた言葉に、俺は自分のことを指で指して、疑問を示す。
「そう、お前だよ」
「どこが?」
すごかったんだ? という言葉を省略してトシに尋ねる。
「身体能力。何であんなスピード出せるんだ?普通、生身の身体じゃ考えらんねぇぜ」
トシは簡潔に一言で答え、続けて疑問をぶつけてきた。
「朱里の補助魔法のお陰だよ」
俺は元々この事について聞かれる可能性はあると思ってたので特に動揺することなどせずに答えた。しかし俺の答えにトシは納得がいかないようだった。
「俺が知ってる限り、朱里の補助魔法じゃあんな風にはならない。少なくとも俺には無理だ。ちなみに朱里自身が一番驚いてたぞ『うちの補助魔法ってあんなにすごかったっけ?』ってね」
探偵が犯人を追い詰めるがごとく、証拠を突きつけるように俺に言ってくる。
「そうなのか? すごく身体が軽くなって、走ったらあんなに速く動けたんだよ。身体能力には元々自信があったけど、あんなに速く動けるなんて自分でもビックリしたくらいだ」
トシに隠し事をするのは、というよりは友人に隠し事をするのはあまり気持ちのいいものではないが、俺にも秘密にしておきたいこともあるのでここはしょうがないと割り切ることにした。
「……そういえば『俺には補助魔法をかけてくれって』作戦のときに朱里に頼んだのは哲也だもんな。身体能力に自信がないとそうは言えないよな。担任を倒した実力は伊達じゃないわけだな」
トシが自分の中で納得をしてくれたようで助かった。
「この話はもういっか。そういえばさこの前――――」
トシはそこで話を一度区切りをつけ、いつも通りの面白おかしい会話をしながら一緒に教室へと戻った。
教室に着き、鞄に必要な荷物を積めてトシと共に教室を出る。
そしてそのまま玄関に向かうために階段を降りようとしたところで後ろから声がかかった。
「哲也」
後ろを振り向くとそこには美佳が立っていた。
「なに帰ろうとしてるのよ。早く行くわよ」
その言葉を聞いてそういえばと思い出す。さっきまで完全に忘れていた……
「そうだった!悪いな、トシ。用事思い出したから行くわ」
「お、おい。ちょ―――」
とりあえずトシに謝罪の言葉を述べておく。トシがなにかを言いかけたところで美佳が、
「ごめんねトシくん。ちょっとこいつ借りていくから」
「はい、分かりました」
そう言ったので、トシは反抗することなく頷いて追求することなくすぐに黙った。
「それじゃ行くわよ、哲也」
美佳に腕を捕まれ後方へと引っ張られる。
「ああ、って引っ張るなよ! トシ、また明日な」
俺は美佳に腕を引っ張られながら、置いてけぼりとなったトシにそう伝えた。
「着いたわよ」
引っ張られること数分、生徒会室に着いたらしい。見かけは学園長室に良く似ている。きっと中も同じような作りなのだろう。
それは置いておくとして……
「そろそろ離してもらっていいか」
俺が言ったことが理解できないのか首をかしげている。
「手」
美佳は恐る恐る視線を自分の手へと、その手で掴んでいる俺の腕へと向けていく。そしてすぐさまその手を離した。その顔は少し赤くなっていた。俺はそんな美佳の顔を見て、きっとここまで来るまでの間の視線の数だけを教えたら、真っ赤になるんだろうな、とどうでもいいことを考えた。視線は男子の嫉みの視線がほとんどだったんだけど。
「なんで私の手が哲也の腕を掴んでるのよ!?」
いきなり怒鳴られた。しかしその答えを俺に求められても困るだけなんだが……どうやら美佳は理由は知らんが混乱しているようだ。
「……引っ張るためじゃないのか?」
とりあえずは行われていた事実を言ってみた。
「なんで私があんたのことを引っ張らなきゃいけないのよ!?」
「……ここに連れてくるためじゃないのか?」
それ以外に理由はないだろう。
「なんであんたをここに連れてくる必要があるのよ!?」
「……ここに用があるからだろ」
なんでなんで言いすぎだろ……少しは自分の心に問いかけてみてから発言してくれ!!
「なんであんたがここに用があるのよ!?」
「私が呼んだからよ」
俺の心の叫びなど聞こえるはずもなく、美佳からの理不尽な疑問のオンパレードが延々と続くと思われたその時、扉の向こうから美佳の言葉に答える声が聞こえてきた。声がかかった瞬間少し美佳の肩が震えた。
そして扉がギィと音を立てて開き、目の前に一人の女子生徒とその後ろ、生徒会室の中には生徒会の役員と思われる人が四人見えた。全員見知った顔であったことに俺は少し驚いた。
「ようこそ生徒会室へ。とりあえず入ってね」
目の前にいる赤い髪をポニーテールにまとめている女子生徒――――優姉が俺と美佳を中に入るように促した。
言われるがままに俺と美佳は生徒会室へと入室した。
部屋に入りまずは中を見回してみた。まず目に入ったのは中央に置いてあるテーブル。周りには座り心地が良さそうなソファーがいくつも置いてある。扉の逆側には窓が付いている。無駄な道具はほとんどなくテーブルとソファー以外にあるものは、必要資料を整理できそうな棚とここにいる人のものと思われる鞄ぐらいだった。
「それじゃ、みんな座って。美佳はどこでもいいから空いてる席について」
優姉の指示に生徒会のメンバーと美佳はそれに従うようにソファーに座っていく。
「あの、俺はどこに?」
俺は自分には指示が来てないことに気付き優姉に尋ねる。
「楠木くんは私の膝の上よ」
「えっ?」
「聞こえなかったの? 私の膝の上」
その答えはいかにもふざけているだろうと思われる答え。しかしもし俺のことを『火神哲也』だと思っているのなら普通にあり得る返答であり行動である。勉学、魔法、容姿。どれをとってもほとんど完璧な優姉だが、それを台無しにしてしまうくらいの、究極のブラコンなのだから。この扱われ方は俺のことを『火神哲也』と確信しているのだろう。俺がこの扱われ方に違和感を感じるのは『楠木くん』と呼ばれているせいだろう。しかしなんで『楠木くん』と呼ぶのだろうか? そんなことを考えて黙っていると、優姉がボソボソと自虐を漏らす。
「やっぱり嫌よね……私みたいな気持ちの悪い人の膝の上に座るなんて……」
その優姉のボヤキでようやく現実に戻る。
「そんなことはないです。会長は可愛いと思いますよ」
「じゃあ早く座ってよ。」
俺の言葉を待っていたかのように、笑顔でそう言ってポンポンと自分の膝を叩いて俺を招いてくる。
「ほら優奈。楠木くんが困っていますよ。いい加減からかうのはやめたらどう?」
「からかってなんかいないよ。私は大真面目!」
「どこからそんな言葉が出てくるのよ……」
優姉の発言に夏目さんは少し呆れた顔を見せて呟いた。俺はその呟きに「あれは本当に真面目に言ってるんですよ」と心の中で答えておいた。
「兎に角始めましょう。楠木くんは美佳の隣の席に座ってください」
夏目さんは呟いた後、話が進まない原因の一部である俺を席に座らせ、優姉に話を進めるように促した。
俺の席を優姉から一番遠ざけてくれたのは俺的には救いだった。優姉にとっては残念でしかないだろうけど。てかあからさまにがっかり……としていたのもつかの間ですぐに表情が引き締まる。
「それじゃあ、自己紹介からしていきます。ここの人の顔と名前はほとんど知っているだろうけど、まぁ改めてって事でね。私は会長の火神優奈。私の向かい側にいるのが書記の夏目涼香よ」
言われた夏目さんは立ち上がり綺麗な姿勢で礼をして座った。
「副会長は二人で私の隣にいるのが朝瀬川美月、そしてその向かい側にいるのが野田信二よ」
美月さんと野田さんは同時に立ちあがり礼して座る。
「最後に涼香の隣にいるのが会計の鷹已百花よ」
鷹已さんはおどおどしながら立ち上がり礼をしてすぐさま座った。
「それじゃあ新しく生徒会に加入する二人。自己紹介をして頂戴。まずは美佳から」
その言葉に美佳は立ち上がり自己紹介をする。
「火神美佳です。名字で分かる通り会長の妹です。これからよろしくお願いします」
最後にぺこりとお辞儀をして座った。
「楠木くん、お願い」
俺は言われたままに立ち上がる。みんなからの注目が俺に集まる。それを出来るだけ意識することなく自己紹介をした。
「楠木哲也です。よろしくお願いします」
俺はそれだけ言って座ろうとするが、
「意気込みをどうぞ!」
優姉からの言葉のせいで終わらせることができない。
「生徒会の一員としての自覚を持って頑張りたいと思います」
「趣味は何ですか?」
続けざまに優姉から質問が飛んで来る。
「特にありません」
「好みの女性は?」
悪乗りしたように美月さんが質問してくる。
「優しい人です」
無難にそんな答えを返して、次の追撃が来る前に俺はすぐさま座った。軽いブーイングのようなものが聞こえた気がしなくもない。
「最初のうちは二人とも役職ではなく手伝いという形で仕事をしてもらいます。慣れてきた頃にどの役職が向いているかを判断して私が指名したいと思います」
俺と美佳は納得の意を示すために頷いた。
「今日は解散です。楠木くん以外は帰っていいですよ」
その言葉を聞いた瞬間俺の背筋が凍った。何かを感じとったのだ。思うが早いか今までで一番の速度が出せたんじゃないかと思うほどの速さで立ち上がりドアへ向かった。しかし俺は冷静さを失っていた。ドアに向かっていった筈だったのに、逆側の窓に辿り着いていた。そう、魔法にかかっていたのに気付かなかったのだ。闇魔法の幻術魔法だ。この魔法を使っただろう人物の名を俺は叫んだ。
「美月さん!?」
「ごめんね哲也くん。こうでもしないと私が殺されちゃうの……」
深刻そうな顔で美月さんはそう告げて出ていった。ここにいる人が一人、また一人と、美月さんに続いて出ていった。
俺は焦り始めていた。助けを求めることができる可能性がほぼゼロとなってしまったのだ。冷や汗が止まらない……
「ねぇ、楠木くん。私と……いいこと……しましょ?」
妖艶に微笑みながら近づいてくる優姉。俺にはその姿が天使なのか悪魔なのか判断することなど出来なかった。
この出来事の後、学園七不思議として『放課後の生徒会室から聞こえる叫び』というなんともホラーのような一説ががこの学園に語り継がれていった……