第百二十七話 エピローグ
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――――side others――――
「美佳ちゃん、早く早く! 学園祭の一大イベントだよ!」
朱里は駆け足で前に行ったかと思うと、自分に対して足取りの遅い美佳の方を振り返っては、早く行こうと促している。
「……そうね」
美佳はそんな朱里に対しても特に気にする様子もなく、むしろ心ここに在らずと言ったように別の場所に意識がいっているようだった。
その証拠にきょろきょろとさっきから忙しなく首を振ってはため息をついている。
(ホントにどこに行ったのかな……)
彼女が捜しているのは一人の少年だった。
昼までの仕事は一緒にこなしていた。
そういうこともあり一緒にご飯も食べようと誘ってみたのだが、ちょっと用事があるからと言ってどこかへ行ってしまったのだ。
結局どこに行ったのか聞くこともせず、ただただ彼の背中を見送ってしまった自分が今となっては憎い。
振り返ってみても、一日目の夜から様子が変だったように思う。
一応声をかけてみても、様子を伺っても、「平気だ」「大丈夫だ」の一点張りで、頑なに自身の本音を語るようなことはなかった。
目に見えるミスはないし、傍から見れば特に変わったようには思えないが、親しみのある仲間内では元気がないことが手に取るように感じられた。
彼女の姉である優奈にしてみても、彼女と同じ意見を持っていたところから考えて、彼女の独りよがりな妄想ではないと考えられるだろう。
それに二日目の余裕ができた時の合間。
彼から「昨日変なこととか起きなかったか?」などと聞かれたことも、今となっては怪しく感じてしまう要因となっている。
美佳が「特にないけど、何か問題でもあったの?」と聞くと妙にほっとした様子で「別に何でもないよ」と返していた。
彼と親しい友達であるトシや、生徒会の仲間である美月にも似たり寄ったりのことを訪ねていたようだった。
彼の様子が変になったのが一日目の夜ということを考えてみても怪しい、と美佳は思わざる負えなかった。
だが、それを追求しても躱されることは火を見るよりも明らかだったので、結局のところ強いて突っ込むようなことをしなかった美佳だった。
――――side 哲也――――
「本当にそれでよかったの?」
俺の隣にいる葵は、ちょこんと首を傾げながら上目づかい気味に俺のことを見ながら、そんな疑問をぶつけてきた。
「俺としては、葵の方が心配なんだが」
俺は言葉通り葵の方が心配だった。
俺の方は既に決意は固めてあるし、別に今更何かを望んでいるわけでもない。
でも、葵はあの時の記憶が残ってしまっているし、さらに言えば俺の計画を手伝う義理は特にないのだ。むしろ、姉さんに操られてしまった記憶がある以上、姉さんの意思を継いでいる俺に対して少なくない悪感情を抱いていてもおかしくないはずだ。
「別に僕の方も問題ないよ。哲也くんのしようとしていることにも協力したいと思っているくらいだし。それに僕としては、家族よりも哲也君側の方が居心地がいいしね。僕としてはむしろ良いこと尽くめだから、哲也くんが何かを気にすることはないよ」
本当にそう思っているようで、屈託のない笑みを浮かべる葵。
そんな笑顔を見せられたら何にも言えなくなる。
ずるいよなと密かに思いつつ、溜息を一つ。
「俺も別に問題はない。問題があるとしたら美佳とか優姉とかそっちの方だ。きっと黙って出て行った俺をまた怒るだろうな」
「それ、哲也くんにも問題があるってことになるからね」
「……だよな」
そういわれても、こればかりは仕方がない。
黙って出ていくのは悪いとは思うが、しばらくは独立して動かさせてもらった方が楽だし、下手についてくると言われても困る。それに魔法の効果を完全に受けている美佳たちに、今回のことの情報を抜きにして事情を説明するのは骨が折れるどころか、たぶん俺じゃ無理だ。
そんな状況の中で、曖昧な理由をつけて出ていくなんて言ったらそれこそやばいことになりそうだ。
そんな事情を分かってくれているのか今度は葵が溜息をつく。
「時間がそれなりに経ってこっちが落ち着いたら手紙くらいは渡してあげなよ」
「それくらいは……しなきゃ、だよな」
「さすがにこれで一生の別れなんてなったらそれは可哀想すぎるよ」
「俺としてもそんな風にするつもりはないさ。ここの人たちには、本当にお世話になったからな」
背に向けていた学園を一度振り返り、目に収める。
目に焼き付けるように見つめ、そして踵を返す。
「行くか」
「うん」
背後に映る学園は、クライマックスを迎えた学園祭の花火で彩られていた。
それを最後に俺はお世話になった学園から出ていった。
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