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Dropbehind  作者: ziure
第四章 学園祭編
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第百二十六話 終幕

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

「うぅ……うっ……」


 俺は姉さんがいなくなるという悲しみに、零れ落ちる涙を堪えることもできなかった。

 せめてもの行動として手を合わせて祈る。そんなことしかできない。 

 自分の無力感に悔しさが溢れだし、腕で涙をぬぐっても止め処なく流れ落ちてくる。


 そんな時だった。


「うわっ!?」

 

 突然、俺の腰に携えてある剣が輝きだす。

 そしてまるで同調するかのように姉さんの身体も輝き始める。

 その輝きは、心臓の鼓動のように一定のリズムで発光したり収束したりいている。


『妾が宿った剣を彼女に突き刺せ』

 

 次いで聞こえてきたのは、俺の精霊であるマクスウェルからの声だった。

 一瞬感情に任せてふざけるなと罵倒しそうになったが、葵の時もそんな感じなことをして救ってくれたことを思い出し、ここはぐっと我慢する。

 それに目の前の光景を考えてみても、何かあるのは明らかだ。


「何か考えがあるんだよな?」

『そうじゃ』

「……わかった」


 短く力強い同意の言葉。

 この精霊とはまだ短い付き合いしかしていないが、それは不思議と信頼できた。 


 俺は姉さんの脇に立ち、ゆっくりと剣を鞘から引き抜く。

 その剣の輝きは、鞘に収まっていた時とは比べ物にならず、思わず目を逸らしてしまいそうなほどだった。

 だが、その眩さに目を逸らすことはせず、ただ淡々と剣を両手で持ち、倒れている姉さんの腹の部分に剣先を持ってくる。


「うおおおおおお!!」


 決意を固くし、声を張り上げながら、俺は思い切り剣を突き立てた。

 肉体に向かって突き入れるその感触は、俺の手にかすかな抵抗を与えてくる。

 それに構わず、できるだけ気にしないようにして、俺は一気に姉さんの身体を貫いた。


 瞬間、目の前が真っ白になった。

 気絶したわけではなく、ただ視界に映っているすべてが白色の輝きに染まってしまったのだ。


 それも数瞬のことで、光に飲み込まれたと思ったときには、剣に吸収されていったようで、光はほとんどなくなっていた。

 ただ突然の眩さだったがために、うまく防ぐことができなかったせいで目はチカチカする。


『もう引き抜いていいぞ』


 俺はマクスウェルから言われた通り、ゆっくりと突き刺した剣をずるりと引き抜いた。


『……うむ。どうやらうまくいったようじゃな』


 ひとりでに納得しているマクスウェル。

 ただこっちとしては何をやったのか全くわからないし、勝手に納得されるのは釈然としない。

 そんな風に思っていると不意にマクスウェルが媒体である剣から現れる。


「一体何をしたんだ」

『その身体の中にいた奴の一部とでもいえばいいものをこの媒体に取り込んだ。さすがに生き返らせることはできんが……遺品としては悪くないと思うんじゃが?』


 そういう風に言われて、改めて剣の柄を握りなおすと、どこか姉さんの手の温かさに似たものを感じ取れたような気がした。


「……ありがとう」

『お礼などわざわざ言わんでよいわ。主にはしゃんとしてもらわんと困るからな。それに妾にも少なくない益がある』

「それでも感謝せずにはいられないよ」

『そうしたいなら勝手にそうしているがよい』


 俺がそう言って頭を下げると、マクスウェルはプイッと顔を背けて小さくため息をつく。

 精霊にとってお礼を直接言われるというのは、なかなかないことで、慣れていないのかもしれない。


 そんなやり取りを二人でしていると、足音が近づいてくることに気付く。

 その方向に眼を向けると、学園長である舞さんだった。


「……そっか。こういう結果になっちゃったか」


 舞さんは姉さんの遺体に近づくと、それを見ながら残念とも哀しみとも取れる溜息を一つ吐いていた。それは舞さんが複雑な心境になっていると感じとるには十分なものだった。

 が、そんな表情もすぐに掻き消え、舞さんは真剣な眼差しで俺のことを捕える。

 

「哲ちゃん、お願いがあります。哲ちゃんとマクスウェルの力を貸してください」


 今この現状での突然の提案。

 俺は頭の中でぐるぐると思考の回路が渦巻く。

 舞さんはどれくらい広く、どれくらい深くこの状況について知り、姉さんのことについて知っているのか。

 別に舞さんに協力するのは構わないと思っているが、安易に力を貸していいものかとも思う。


『いいじゃろう』


 そんな風に悩んでいる俺に変わって答えたのはマクスウェルだった。

 まさか答えると思ってもみなかったので俺は驚きを隠せずにマクスウェルの方を見る。


「良いのか?」

『良いも何も、この答えは妾ではなく、奴の意思じゃ。それにそこの彼女が求めているのも奴の力じゃろう。もちろん今の状況的に考えると妾の力も含まれているじゃろうがな。何がともあれ、妾は力を貸す』

「分かった。マクスウェルがそういうなら、そしてそれが姉さんの意思っていうなら、俺は否定するつもりはない」

 

 俺はマクスウェルから聞きたいことは聞けたので、次いで舞さんの方に向き直る。


「一つだけ聞かせてください」

「なに?」

「力を使ってどうするつもりですか?」


 俺の質問に舞さんは一言で答えてみせた。


「あったことをなかったことにしたい」


 あったことをなかったことに。

 言われたことを反芻するように元の魔力の利用を考えるが、舞さんの言ったことがあまりに抽象的すぎて、どうすればいいのかよくわからない。

 

「具体的にどうするつもりですか?」

「……この学園祭であった騒動をほとんどなかったことにしたいの。楠木香織が起こした騒動をなかったことに、ね。そしてこの騒動にかかわった全員の記憶を改ざんするの。たぶん今のマクスウェルの力なら上手くできるはずよ」


 姉さんが命を賭してした行為。それをなかったことにする。

 そしてそれは姉さんの意思でもある。

 そう考えてしまうと俺は戸惑わずにはいられない。 


「……本当に姉さんはそれでいいんですか……?」

『大丈夫、問題ないと訴えている。すべては哲也に託した、とな』


 ……そうか。

 そういうことなら、俺から言うことはもう、何もない。 

 

「マクスウェル。力を貸してくれ」

『了解じゃ』


 そして姉さんも力を貸してくれ。

 そう想い、柄を握る手に力を入れ、全身の氣を、マナを、気力を、すべて込める。


 そうして生まれた光は、球体上に広がり始め、一瞬にして学園のすべてを覆い尽くした。


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