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Dropbehind  作者: ziure
第四章 学園祭編
123/128

第百二十三話 語り

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

(――――)


 眩い光に包まれる中、何かの声が聴こえた気がした。それをきっかけとして、葵の陰に立っていたモノはそのまま光に飲み込まれるように消滅した。

 聴こえたのは、クロノスの最期の言葉だったかもしれない。何を言っているかは分からなかったが、きっと恨み言か何かに違いない。


(もう、引き抜いてよいぞ)


 マクスウェルの声を聴いて、俺はゆっくりと剣を引き抜いた。不思議なことに、突き刺さっていたはずの部位には傷跡は何も見られない。


 葵は気を失っていたので、剣という支えを失ったことで、ぐらりと俺に向かって倒れてくる。さすがに地面にそのまま倒れさせるわけにもいかないので、俺は剣を一旦手放し、両腕で葵を受け止める。

 その身体は本当に軽くて、でも言葉にできない重さを感じた。その身体(なか)にある重みは友達であろうと本人以外の他の人には計り知れない。こうして手に触れていても決してわかるものではない。


(とりあえず、小僧の中に棲みついていた精霊(モノ)は何とかした。後は主らがどれだけ小僧の心を癒せるかじゃ)


 マクスウェルの説明を聞く限り、何とかなったみたいだ。

 そんな風に一時の安心感を抱いたせいか、身体中にドッと疲れが襲い掛かってくる。

 どうやら、自分の思っていたよりも気を張っていたようで、肉体的にも疲れを感じるが、どちらかというと精神的にやられているように感じる。


 そんな風に自分の疲労を省みているうちに、俺たちを包んでいた光が段々と収束していく。

 そして最後には、地面に置いてある俺の剣に吸い込まれていった。それを視認した後、ゆっくりと葵を地面に横たえる。その表情はさっきまでとは打って変わって、葵らしい穏やかで可愛げなものだった。

 

「哲也! 葵!」


 俺と葵の名前を呼びながら駆け寄ってくる美佳。その美佳を先頭として、全員が葵を囲むようにして集まる。


「……どういうこと? 傷が、どこにもない」


 ペタペタと葵の胸のあたりを触りながら、美佳はおかしいとばかりに呟く。

 それは全員が思っていることのようで、視線が自然と俺の方に集まる。 


「マクスウェルに力を借りた」


 詳しい説明は俺にもできないので、使用した剣に視線を逸らしながら、俺は簡潔にそう答えた。実際俺が言えるのはそれだけだ。

 それで理解してくれたかは分からないが、誰これ何も言うことなく、感謝するようにマクスウェルが宿っている剣に目を向け、小さくぺこりと頭を下げた。


「……ぅ、ん」


 そんな風なことをやっていると、葵から小さなうめき声が聞こえてくる。そして、その声に反応して、葵の方に視線が移る。


「起きたか! 葵」

「葵ちゃん、大丈夫?」


 次々と葵に向かって声がかけられる。

 当然のことながらみんな心底心配していたようで、必死な様子で声をかけている。


 葵は葵で、目をゆっくりと開くと、きょろきょろと周りを見渡す。

 もしかしたら状況がよくわかっていないのかもしれない。


「みんな……ごめん……」


 開口一番、葵が口にしたのは謝罪の言葉だった。

 一言の短い言葉だったが、その言葉には異様なほど重みを感じた。


「僕は、とんでもないことをやっちゃった。許されないことをやっちゃった。親を殺して、哲也くんたちも殺めようとした。しかも、そのとき僕にはしっかりと意識があった」


葵の省みるような言葉から、葵はその時の記憶がしっかりと残っていることが分かる。洗脳されたように動きつつ、自分の記憶にはしっかりと残る。それはかなり辛いものがあるだろう。


「まるで自分が自分じゃないみたいだった。でもそれは確かに自分で、殺したときの感触も感情も全く消えない」


自信の手を見つめながら語り、その手は胸へと移り心臓を掴むように動く。


「なによりも問題なのは――親を殺したって言うのに、その行為に対して後悔がほとんど感じられないんだ。逆にやってやったみたいな感情が僕みを満たしてくるんだよ。おかしいよね? 僕が望んでいたことを達成した、そんな感覚だよ?」

「…………」

「全然おかしくないわよ」


それに対して応えることは俺にはできなかった。

それに対して応えたのは、全く別の人物だった。


「それは人間としては当然よ。だって心の奥で憎んでいた相手を殺すことができたんだから」


 気配を感じることすらできず、気付いたら彼女は近くにいた。

 その声音や姿形は見間違えることなどない。  


「姉さん……」

「哲也。こんな私をまだ姉さんと呼んでくれるなんて嬉しいわ」


 こんな時だというのに、本当に嬉しそうに微笑んでくる姉さん。


「でも、もうそれも終わり」


 そして、言葉通りこれで終わりとばかりにさっきまでの表情が掻き消える。そこから感じるのは凄まじい闘気。

 一瞬その凄まじさのあまり逃げ腰になりそうになるが、すぐに自身を叱咤し姉さんと向き合う。

 ただ、言いたいことがいろいろとありすぎる。ありすぎて混乱する


「どうしてこんなことをしたの? なんでそこまで六家を敵視しているの? 俺を育ててくれたのはただこの時のために利用していただけなの? どうしてなの、姉さん!」

「そうよ」


 簡単な三文字による肯定。

 優しくて、強くて、時に怖くて、時に可愛くて、そしてなにより俺に甘い。そんな姉さんが幻想だと思うと、今の状況にもかかわらず涙が出そうだった。


「私はあなたを最初から利用するつもりだったわ。あなたには彼女と同じような才能、もしくはそれ以上のものを感じたし、育てれば確実に使えると思ったからね。要は丁度良かったのよ、憎い六家を潰すには」

「どうしてそんなに……それにいくら利用するためとはいっても俺だって六家だったんだよ?」

「そこは私からすればプラスポイントね。だって彼女と同じような境遇だったんだから。それによって同情の心が生まれたのも大きいわね」


 姉さんが言う彼女、それは一体誰のことなのだろうか? もしかしてそれが姉さんの憎悪の原因なのだろうか?

 そんな風な様々な疑問が頭の中を渦巻いていく中、何を思ったのか、姉さんから感じていた闘気が一瞬にして霧散した。

 そして一度ため息をつくと、何も感じない瞳で俺をじっと見つめてくる。

 その瞳から逃れることは俺にはできなかった。 

 

「少し昔の話をしてあげるわ」

「昔の話?」

「ええ。実際にあった、一人の女のお話よ」

 

 姉さんの穏やかな語り口調で、その話は始まった。





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