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Dropbehind  作者: ziure
第四章 学園祭編
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第百二十話 変貌

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 とりあえず二手に分かれた俺たちは葵がいる場所に向かって走り出していた。


 全員が、無事だといい。


 無言で走り続け、重い空気が漂う中、俺はそんな風に祈っていた。きっと俺だけではなくここにいる全員が持っている願望だろうけど。

 だが、願望というだけあって、それは恐らくありえないだろうとみんなが感じているはずだ。

 さっきまで戦っていた俺たちも、フェニックスの力がなければ、ほとんどが死んでしまっていたはずだ。自分を責めるように言えば、俺が殺めてしまっていたはずだ。

 本当にフェニックスと、それを召喚して力を引き出していた美佳には感謝の言葉しか出てこない。

 美佳だけに限らず、俺を救ってくれたみんなには感謝しかないんだけどな。


「……みんな、本当にありがとう」


 そこまで思い、何も言ってなかったことに気がつき、俺は今更感があるが、お礼を言った。 

 俺のお礼の言葉に、周りにいる全員きょとんとした顔になり、次いで呆れるような表情を浮かべる。

 そんな周りの表情の変化に、俺は思わず変なことを言ってしまったのかと思ってしまう。

 確かに考えてみれば、重い空気の中でいう言葉ではなかったのかもしれないし、普通は助けてもらってすぐに言う言葉だった。


「……お前ってホントにバカだな」


 みんなが言いたいことを代表するかのように、トシが俺に向かってやれやれといった感じでそう言ってきた。と思ったのも束の間、


「全くその通りね」

「これだから後輩は」

「哲也くん、今更それを言うんだね」

「まぁ、ある意味哲也らしいとも言うけどね」


 トシはただ単に代表者的に最初に言っただけで、優姉がそれに乗ると、それを皮切りとして、みんなして言いたい放題だった。言われても仕方ないのかもしれないけど、ちょっと誰か慰めてくれてもいいんじゃないの?


「助けるのなんて当たり前だろ? だって俺たちは――」


 そんな俺の気持ちに気づいたのか、気付いてないのか。

 トシは未だに呆れた雰囲気を取り去らないまま、俺に向かって言葉をつづける。

 そして、まるで示し合わせたかのように、みんなが一斉に俺の方を向き、


「姉弟でしょ!」

「兄妹でしょ!」

「親友だからな!」

「友達だもん!」

「仲間なんだから!」


 同時にそう言ってきた。

 みんな言ってることはちょっとずつ違って。それが可笑しくて少しだけ笑いがこぼれて。なにより嬉しくて、涙が自然と溢れてきた。

 俺のために命を懸けてくれる人がいる。俺のために行動を起こしてくれる人がいる。

 そういうことを身に染みて感じて、心の奥底にまで浸透し、体中が温かい何かで満たされる。


「ま、そういうわけだから、あんま深く考えるなよ?」


 トシはそう言って照れくさそうに顔を逸らす。

 涙を袖で拭いつつ、俺はその言葉に対して小さく頷いた。   

 

「……葵もきっと、俺と同じで助けてほしいって思ってるはずだ。負の感情に囚われて……いや、そんなことに関係なく、誰かを傷つけることを葵が望んでるわけがないんだ。だから俺は、絶対に葵を助けてやりたい……葵は俺の友達だから!」

「少なくともここにいる全員はみんな同じ気持ちよ、哲也」


 俺の強い想いに美佳は優しく微笑みながら応えてくれる。その言葉通り、周りを見れば頷いたりして、それぞれの意思の表示を示してくれる。

 葵も良い仲間が、友達がいるんだ。

 それが分かれば、きっと戻ってきてくれる。


「そうだな……それじゃ、行こう!」


 俺たちは改めて決意を固め、葵の元へと駆け出した。




――――――――



「これはっ……!」


 目の前に映る光景。

 それは俺たちを絶句させるには十分な光景だった。

 周りにいる全員が倒れ、動けずにいた。見る限り、意識があるのはすでに六家の二人だけだった。

 恐らく六家の頭首である二人が召喚したであろう大精霊たちは、倒れてはいないが、膝をつき動けずにいる。


「あれが、葵なの……?」


 ぼそりとそう呟いたのは美佳だった。

 同年代で、俺よりも長い年月葵と一緒にいた美佳から、信じられないという思いがひしひしと伝わってくる。

 葵の服は血で染まり、顔は恐怖を体現するかのように歪んでいた。美佳がそう思うのも無理はない。

 また、そんな葵の背後に大精霊のような存在が、先端に鈴をつけた杖を携え、控えていた。

 そんな時だった。

 葵は周りで倒れていた人物たちを見渡す視線を自分の親である潮さんに向け固定すると、まるで心の底からでた悦びを表すかのように、口を三日月状にゆがめる。

 それはもう俺の知っている葵ができる表情ではなかった。

 それを見て怖いと思い、やばいと感じた。

 倒れている貞治さんは、葵を見て目を見開き叫んでいた。


「やめろ! お前、親を、殺す気か!?」


 ――しゃらん


 そんな時、鈴の音が聞こえた。

 こんな場面に似合わず、安らぎすら感じてしまうような、全部を包み込んでしまいそうな音色。

 

 だが、その音色とは背反の如く、映し出す光景はあまりにも残虐で残忍だった。


「っ――――!?」


 いつやったのか、それどころか、いつ動いたのかさえ分からなかった。

 ただ目に映ったのは、四肢を切り裂かれ、血まみれで絶命している潮と、それをさっきまでと変わらない表情で見つめ、返り血を受けた葵の姿だった。


「くそぉっ!」


 貞治は悔しそうに叫ぶ。が、それだけに終わらず、倒れながらも自身の大精霊に魔力を送り、魔法を放たせる。

 すると瀕死の状態から放たれたとは思えない暴風が生まれ、いくつもの巨大な風の牙となり葵に襲いかかる。


 ――しゃらん


 再び鈴の音が聞こえた。


 訳が分からなかった。

 何をどうしたのか、葵に向かっていたはずの風の牙が、放った側の貞治の方へと向かっているのだから。


「ちっくしょお!!」


 抵抗する術を持っていないのか、貞治さんは叫ぶことしか出来ないようだった。

 

『剣を抜け、主よ』


 俺はその言葉にハッとして、従うがままに剣を抜いた。

 そして貞治さんの方に向かって地面を蹴り、魔法に向かって数度振りぬく。


 鳴り渡る轟音。

 濃密な風の塊が分解されていくせいか、辺りに怪我をするほどではないが、暴風が吹き抜ける。 


 なんとか分解――マナへと戻しきること――に成功したようだ。

 自分自身を含め怪我をしたものはいない。

 その事実にホッとしている俺を他所に、マクスウェルは辺りに散っているマナを吸収しながら、俺の横に立ち、視線を葵の横にいる大精霊に向けている。


『やはりお主だったか……クロノス』

『…………』


 クロノスと呼ばれた大精霊は、マクスウェルからの言葉に何も答えない。

 ただ持っている杖をゆっくりと振りかざし、


――しゃらん


 鈴の音をならす。

 呑みこまれそうになる意識の中、


『起きんか!』


 一つの叱咤により目を覚ます。

 意識が戻った時、水で形成された刀を貞治さんの目の前で振りかぶる葵の姿が見えた。

 上段から縦に振られるそれを、俺はギリギリのところで間に入り葵と対面すると、刀を上に向かって横に振り、葵の水の刀を分解する。


 そのまま追撃を仕掛け、葵の洗脳を解こうとマクスウェルの力を使おうとするが、再び鈴を鳴らされ、叱咤されて起こされた時には、すでに距離をとられていた。


「なんで? なんで邪魔するの? 哲也くん」


 そう声をかけられた時、俺は唖然として、なぜだと思ってしまった。

 なんで邪魔するのという言葉の意味に対してではない。

 確かにそれもおかしいと感じてしまうが、それ以上になぜだと思ってしまう。


 その声音からは感情が伝わってきた。

 葵にはしっかりとした自我がある。

 そして……葵の洗脳は解けている。 


 つまり、葵は自分の意識下のもとで父親を殺し、貞治さんも殺めようとしたということだ。



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