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Dropbehind  作者: ziure
第四章 学園祭編
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第百十九話 意識

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 ここは一体どこだ?

 何も見えないし、何も感じることもできない。

 暑くもないし、寒くもない。

 寝転がっているのか、立っているかも分からない。

 フワフワとしていて、不思議、というよりは奇妙。そんな感覚がする。

 でも、それこそ不思議なことに、無駄に心地が良い。

 何もかも放棄してこのまま眠ってしまいたい。




『お前、本当にそれでいいのか?』


 そんなとき、誰かの声が聞こえてきた。

 感覚的に、意識をそっちに向けると、そこには俺がいた。

 形も姿も何もないが、俺、ということだけは分かった。

 何とも不思議なものだが、解ってしまうのだから仕方がない。

 これまた不思議なものだが、変な感覚は全くしなかった。

 むしろすんなりと認めてしまっていた。


「いいのかって……どういうことだ?」


 そんなわけで、いきなり俺に尋ねられたはいいが、言葉通り何が言いたいのか全く分からなかった。


『捨てられたことが悔しくないのかっていうことだ』

「…………」


 俺から言われたその言葉に、俺の中の何かが引っかかり、何も言うことができなくなってしまった。


『それじゃあ憎くはないのか?』


 その言葉に俺は思わず顕著に反応してしまった。体はビクッとしてしまっていただろうし、腕からは鳥肌が生まれている感じがある。

 さっきまで心地よかったそれは、一気に気味の悪い感覚へと変わり、不快感が俺を満たしてく。

 そんな俺の様子などお構いなしに、追撃とばかりに、口の端をにやりと曲げ、まるでペテン師のごとく俺は語りだす。 


『お前は俺だ。だからよくわかる。お前は心の奥底では父親を死ぬほど憎んでいるんだろう? 捨てられた後の日々を思い出してみろ。地獄のように苦しくてつらかったんじゃないのか? お前をそんな状況に追いやったのはお前の父親だ。いや、父親だけじゃないな。お前を捨てた父親に対して、お前の母にしても姉にしても妹にしても、探しにすら来てくれなかったもんなぁ?』


 流暢に語り続ける俺は笑顔が歪みに歪み、段々と俺ではない何かに変わっていく。

 耳を塞ぐこともできずその話を聞き入れている俺の中に、段々と何かが生まれてくる。


 悲しみ、怒り、そして憎しみ。

 それらが生まれ、増幅し、俺を覆い尽くす様に溢れ、満たしていく。

 暗くて、闇に包まれたそれが、俺の形を模っていたそれが、俺の中に容赦なく注がれていく。

 

 いつしか俺のようなそれはいなくなり、俺はまた一人になった。



 先ほどまでの居心地の良い感覚はすでになくなっていた。

 心臓の鼓動が不規則に脈を打ち、俺を内側から狂わせ始めていく。

 何が正しくて、何が良いことなのか、全く判別がつかなくなっていく。

 何もかもが、グニャグニャと歪んでいき、その気持ち悪さに、その気味悪さに俺は叫んだ。

 叫んで、考えることを放棄して、その憎しみに身をゆだねることにした。

  

  

 

『哲也!』


 ふとした瞬間、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 先ほどまでどこかにあった意識が急激に戻される。

 その声はすごく柔らかくて、でも矛盾したように力強くて、さっきまで俺を支配していた邪念を一気に追いやってしまう力があった。


『起きて! 哲也!』


 今度は真っ暗だったその意識の世界に、一筋の光が差し込まれる。

 その光は一瞬のうちにその世界を白く染め上げていく。 


 だが、白く染め上げてしまうことで、照らしてしまうことで、見えてしまうものもあった。


 それは自分自身。

 消し飛ばしてもらったとはいえ、一瞬でもそれに身をゆだねた俺は汚れきっていた。

  

『この手を掴んで! 哲也!』


 そうして差し延ばされる手は、白光に負けず劣らず眩しかった。一片の曇りもない白だった。

 自分の血に染め上がった手で触れるには綺麗すぎた。

 俺は逃げるように、その手から思わず目を逸らしてしまった。

 俺にその手を掴む資格はないように感じた。 

 

『いい加減目覚めぬか! わが主!』


 そんな俺の勝手な解釈などお構いなしに、手がズイッと伸びてきた。

 そして汚れきっている俺の体を掴んでくる。


 俺の汚れなど気にしないとばかりに。

 俺がやってしまったことなどどうでもいいとばかりに。

 勝手に逃げるんじゃないと訴えるかのように。


 そうして俺は意識の外側へ抜け出した。




――――side 哲也――――



 体がダルい。

 まず最初に思ったことはそれだった。

 ずっと眠っていて、ようやく目を覚ましたような感覚。


「うぅ……」


 うめき声が漏れる。何とも情けない声だと思うが、今の現状上しょうがないと割り切る。それぐらい体が重かった。


「哲也!」


 優姉の声が聞こえたなぁとかボーっとした頭で呑気に考えていると、すさまじい勢いで体を抱きしめられた。

 あまりにギューッと抱きしめられるものだから、いろいろと拙い。

 優姉から感じる感触的にも、俺の命の危険的にも。


「ゆうねぇ……くる、しい……」

 

 俺の声にハッとしたように優姉は俺のことを一度離す。

 周りを見てみると、呆然としたように俺を見ている人たちがいる。


「哲也、今なんて言った?」

「いや、離してくれたから別にもう言う必要ないんだけど……? それよりさ、優姉――」


 一体何がどうなっているのか詳しく聞きたかったんだが、再び抱きしめられた。

 今度は優しく包み込むように。

 その温もりが懐かしくて、俺はじっと動かずに抱きしめられたままでいる。


「十年ぶりだね。哲也」

「……うん」


 優姉の言葉の意味することを理解した俺は、抱いていた疑問を一旦懐にしまい、その抱擁を受け入れた。

 



「それで今の現状はどうなってるんだ?」


 今のやり取りに対していろいろと聞きたそうな感じを出していたが、それらの質問に対しては「後で」と切って捨てて、俺は今の現状を問う。

 なんとなくは分かっているが、どうも記憶が抜けているため、ちゃんと聞いておきたいのだ。


「それはね――」


 俺の問いには、代表して優姉がかいつまんで教えてくれた。




「なるほどね……とりあえず、迷惑かけてごめん」


 どうやら俺はかなりの迷惑をかけてしまったようだ。

 誤って許されることではないが、まずは頭を下げるべきだろう。


「そんなことどうでもいいよ。今は次にどうするか、でしょ?」

「……そうだな」


 俺の謝罪は美佳によってバッサリと切り捨てられる。

 確かに今はそっちの方が重要だろう。勝手な謝罪に反省。


「戦力を分けるのが妥当だろうな」


 そういったのは俺の本当の父である火神家の頭首だった。

 俺はその考えに頭を縦に振る。


「問題はどうやって分けるかですね」


 悩みどころはそこだろう。

 だが、その疑問に対して、火神の頭首はすぐさま答えを返してきた。


「どちらか行きたい方へ行けばいい」


 さすがにその答えは予想外だった。

 唖然としている様子を余所に、彼はそのまま続ける。 

 

「下手に意識が別なところに行くくらいなら、最初からそっちに向かった方がいい。それに戦力はどちらも十分備わっているからな。無理に半分に分ける必要はない」


 その言い分はどうかと思うが、彼の言う通り、俺ら一年生組は特に友達である葵のところに行きたいと思っているだろう。

 ただそうしたいと思いつつも、それに納得していいのかと思ってしまう。

 そんな俺らに対して、彼はさらに風を流す。


「戦力を片寄らせるのも一つの戦術だといえば納得できるか?」


 そんな風に言われてしまえば、無理に逆らうこともないだろう。

 自分のしたいことができるのだから。


「こっちは何とか耐えてしてみせる。だから早めに決着、もとい葵を救ってやれ」


 彼のその言葉に、俺たち全員強く頷いた。





意識の内側の表現。

もっとうまくできるようになりたいです。


アドバイスあればぜひ。

純粋に感想をいただけるだけでも嬉しいです。


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