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Dropbehind  作者: ziure
第四章 学園祭編
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第百十八話 解放

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

「それでは、仕掛けるぞ」


 志郎の言葉を合図として、全員が身構える。


『娘よ、気張れ!』

「ええ、頼むわよ。フェニックス!」

『勝手に倒れるなよ』

「誰にもの言ってるの。イフリート!」


 お互いに短いやり取りをした後、精霊たち自身を纏っている炎が、輝きが、一層大きくなる。 


『おおおおお!』


 そうして、大きな雄たけびを上げ、最初に仕掛けたのはイフリートだった。

 先ほどと同じように、だが明らかに威力が大きいことが分かる火炎が、というよりは獄炎が、哲也を包みこもうとする。


「…………」


 一瞬その炎の凄まじさに眉をひそめた哲也だったが、それに巻き込まれようとする前に、そこを抜けようとする。

 さっきの出来事で魔法を打ち消すことが分かったためか、腰にある剣を盾にして、出来るだけ早いスピードで炎を抜けようとする。


 そこにフェニックスの綺麗なさえずりが響き渡る。と同時に、哲也の目の前にさらなる炎が襲いかかる。

 押し寄せる炎の壁。

 哲也はその炎を前にしてもとどまらず、剣を盾にしたまま駆け抜けようとする。


『無駄だ!』


 その炎は普通の炎とは違い、触ることができる、つまりは物理的にも進路をふさぐ炎だった。もちろん炎ということもあり、熱量は存在する。 


『なっ!?』


 しかし、それは哲也の剣の効力により、いとも簡単に破られてしまう。

 破られること自体はあまり問題ではなかった。

 ただ、あまりにも早く破られてしまったことが問題だったのだ。 

 稼ぐべき時間を稼げなかった。

 つまり、当初立てた計画はすでに崩れかけていることになる。


「お願いします!」


 そこに、朱里からの支援魔法が志郎にかけられる。

 志郎は舌打ちしたい気持ちを抑えながらも、その魔法を受け取り、哲也の進路を塞ぎにかかる。  

 足止めには失敗したものの、その動きは直線的で、炎から抜け出そうとするために最短の道を取っている。

 動きを読むのは容易かった。

 

 だが、先読みしていても、それが分かっていても、目でちゃんと捉えていたとしても、どこに向かっているか分かっていたとしても。


 哲也のスピードは速すぎた。


「優奈!! 逃げろー!!」 


 志郎の存在など無視してその横をあっさりと通り過ぎ、トシの放った壁もあっさりと突き破る。

 自分自身の叫び声も、その動きも、すべて意味をなさない。


 


 その時優奈は、不思議な感覚に陥っていた。

 自分に向かってくる哲也の動きがはっきりと分かり、その思考に反して自身の身体は全く動かない、そんな感覚。

 この思考スピードに身体が追いついたらどんな攻撃も避けれるんだろうなとか、考えてしまう。

 哲也が自分自身に拳を突き出してくるのが見える。  

 鋭く速いはずの拳を、優奈はしっかりと捉えていた。

 怖い、とは思っていた。

 でも、避けたい、とは感じていなかった。

 

 ただ、純粋に止めなきゃという意思があった。 


 優奈は抵抗することもなく、ただ一つの目標に手を伸ばし、哲也の拳をそのまま受け入れた。 

 



 カラン、カランという音が広場に響き渡る。

 見れば哲也の剣の鞘が、地面に転がっていた。 


「これ……で、いい、の、よね……」 


 優奈は哲也に抱き付き、乾いた声を零しながらも、フッとした笑みを浮かべていた。これで私の役目は終わったとばかりに。


 イフリートが消える。


 やがて、吊り上がっていたその口の端から、赤い血液がツーッと垂れる。

 見れば優奈の腹部は、何もない状態で、完璧に貫通していた。

 

「姉さん!!」


 美佳の絶叫ともいえる叫び声が響き渡る。

 優奈はそこにそのまま膝をつき、倒れて――


『解放、感謝するぞ?』


 ――幼い容姿をした少女に、受け止められた。


 ――その隣で哲也はバタリと倒れた。



――――side 火神美佳――――




 突如現れた存在によって姉さんは受け止められた。

 と同時に哲也が倒れてしまっていた。

 今さっきの瞬間に何があったのかは、私には全くわからなかった。


「あ、あなたは?」

『ん? 妾か? 妾はマクスウェルじゃ。いうなれば、この小僧の契約精霊じゃな』


 私の疑問に目の前の少女――精霊マクスウェルは姉さんを哲也の隣にそっと置きながら、あっさりとした答えを返した。

 他にもいろいろと聞きたいことはあったが、その雰囲気からそれ以上尋ねることはできなかった。


『そんなことより……ちょいと力を貸せい』

「えっ?」


 マクスウェルは姉さんと哲也を一瞥したかと思うと、睨んでいるかのような鋭い視線で私を見てそう言ってきた。

 突然の依頼とその視線の強さに私はすぐに答えることができなかった。


『力を貸せと言ったんじゃ。まぁ、そこに倒れている娘を救いたくないんだったら、別に貸さんでもいいがの』

「か、貸します! 貸しますから、助けてあげてください!」 


 私は一瞬の迷いもなく、助けを請う。

 

「それで、私は何を?」

『いや、許可をくれさえすればいいんじゃ。とりあえず助けるなら何でも貸してくれんじゃろ?』


 私の疑問にちゃんと答えることもなく、マクスウェルは私から視線を逸らすと、私の契約精霊であるフェニックスの方に向かう。


『マナをやる。後はなんとかできるじゃろ』

『もちろんです』 


 短い対話の後、マクスウェルはフェニックスに手を伸ばす。

 その瞬間、思わず目を逸らしてしまうような眩い炎が、フェニックスを包む。

 何をしたのかは詳しくわからないが、マクスウェルがフェニックスに何かを与えたことだけは分かった。


 その後、フェニックスの綺麗なさえずりが耳に響きわたる。


 すると、姉さんの身体は炎によって包まれ、みるみると姉さんの身体を修復してしまった。

 修復の力を使ったにもかかわらず、フェニックスが力を使ったにもかかわらず、私の身体に疲労感はやってこなかった。

 

「一体、どういうことなの……?」

「……今は、細かいことはいいんじゃない。助かったっていう事実があれば」

「姉さん……そうね、そうよね」


 私は姉さんの言葉で一旦納得することにして、今は気絶している哲也の方に目を向けた。

 そこにはこれまたいつの間に移動したのか、マクスウェルは哲也の頭を自らの膝に置きながら、哲也のおでこに手を添えて、集中するように目を閉じていた。


 私はすぐに哲也のすぐ傍に移動して、目を覚ますのをじっと待つ。

  

 そうしていると、マクスウェルからふぅっと息を漏らす声が聞こえた。


『後は目を覚ますのを待つだけじゃ。とりあえず、洗脳の魔法は完全に解いたぞ?』


 先ほどまで沈黙で固まっていた空気は、その言葉によって弛緩した。

 誰もがほっと息をつき、胸を撫で下ろしていた。

 みんなが面白いくらいに同じ動作を取っていたので、私たちはお互いにクスクスと笑いあった。


「うぅ……」 

 

 哲也の口から洩れでた言葉に、これまた一斉に視線が哲也の方へと向く。 


「哲也!!」


 姉さんは哲也が目を開けるとほぼ同時に、哲也の身体を抱きしめた。

 こういう時の姉さんの行動の速さは本当に呆れるくらいすごいなぁ。嫉妬という感覚ではないと思うけど、なんというか、そういう風にできる姉さんがちょっとだけうらやましかった。



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