第百十三話 集い
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生徒たちが避難をし、集まっている広場。
六家の面々は自分たちの中で話し合った後、参加者を募るためにそこに向かった。
「――というわけなのだが、お前たちの中で我々に協力してくれる者はいるか?」
六家を代表として隆次が簡単に概要を話す。
この学園が襲撃されただの、学園祭は一旦中止だのと、いきなりの話に訳が分からないとばかりに悲鳴を上げたり、不満を爆発させたりしていた。
だが、目の前にいるのは学生たちにとって憧れとなる六家の主たち。そんな存在の人たちが、自分たちに対して頭を下げてまで、参加者を募っているのだ。
その光景に胸を打たれない参加者はほとんどいなかった。。
「俺、やりますよ!」
「わ、私も! 力になりたいです!」
「俺たちの学園祭を滅茶苦茶ににしたやつらなんだろ? 殴らなきゃ気が済まないぜ!」
「そうですね、こんなのはさっさと片付けて、学園祭の続き、しなくっちゃね!」
そんな感じで意気揚々と勢いづき、我先にとばかりに参加の声を上げる生徒たち。
だがそんな生徒たちの勢いは一瞬で消え去る。
原因は、六家の全員から突然発せられた殺気のせいだ。
「参加してくれるという気持ちはありがたいがここでちゃんと言っておくがこれは遊びではない。こんな程度の殺気でそんな風になっていたらおそらく何もせず殺される。また遊びでない故に情けもない。足手まといになるようなら、すぐさま切り捨てさせてもらう。そういう風にされる覚悟を持つものを我々は望む。それを踏まえたうえでもう一度参加者を問う。我々に協力してくれる奴はいるか?」
六家は相手の実力はかなりのものだと解っている。
手紙を届けられた時も然り、先ほどの時もそうだが、全く相手の気配に気づかず接近を許してしまっているのだ。それだけでも大分相手がやばいことがわかる。
おそらくこちらが切り捨てるどころか、きっとそんなことになる前にあちら側が切り捨ててしまうだろう。そんな予測さえ立っていた。
「今程度の殺気でビビらなければ、普通に参加してもいいのよね?」
あんな風に問われて、全体が沈み込んでいく中。
そう言って最初に威風堂々とばかりに六家の前に歩み出てきたのは、同じく六家でありこの学園の生徒会長でもある優奈だった。
優奈は聞かされた話の内容の中に、哲也や葵の名前が出てきた時点で、弟が! 友人が! という思いが渦巻いて、内心穏やかではなくなっていた。これは私もやるしかないとばかりに。
元々から戦力として見られていたこともあったが、優奈から向けられる眼差しの強さに、一も二もなく六家側は頷いて見せた。
「私も、参加するわ」
自分の姉が弟を心配したがために参加して、自分が参加しないわけにはいかない。そんな気持ちを携えながら、美佳も同じようにズイッと前に出てみせた。
そして美佳に引き続いて、トシや美月といった生徒会のメンバーであったり、哲也の友人であったりするメンバーが、また先生である照沢や岡嶋も参加を志願していった。
脅しを効かせすぎたせいか、結局生徒からの参加者は総勢で十人にも満たず、先生を合わせてようやく十に届くくらいであった。
「よし。それじゃあ、協力してくれる奴はついてこい」
隆次は短くそれだけ告げるとその場を去る。
六家と協力者たちは、彼の背中についていった。
――――――――
広場から去り、標的となる香織たちのところに向かって走り始めていた一行。
「ちょっと上空から様子を見てくる」
そう言ったのは風切家の主である風切貞治だった。
「少し待っててくれ」と言って、貞治は小さく魔法名を告げると、風に乗り空に向かって飛び出す。
その速度はまさしく風であり、すさまじい速度を誇っていた。
競技会のレースで息子である雅人が使っていたものとほぼ同じで原理ではあったが、それと同じというのは酷と思われるほどの差がそこにはあった。
「斜め右に紫水、斜め左に赤いの、真ん中に敵将だ。それぞれ目立つ位置を選んでんのか、それぞれ広いところにポツンと立ってるぜ」
偵察という名の状況把握をすぐに終わらせて、貞治は全体に報告を済ませる。
その報告通り、彼らから見て、斜め右に葵が、斜め左に哲也が、前には香織がいた。
またポツンという言葉を使ってるところから分かるかもだが、連携などいらないとばかりに三人の距離感はお互いを視認できないくらい離れている。
「そういうことならこちらも戦力を分担して戦おう。とりあえず三つのグループに分かれるとして、それぞれのグループの中心は俺と悠、潮と貞治、志郎と千華とする。また潮のグループは葵を、志郎のグループは楠木を、俺は女の奴をターゲットとする」
そういう提案を出したのは隆次であった。
ちなみに悠というのは黒淵のことであり、千華は光磨、志郎は火神のことである。
「他の奴らの分担だが――」
「――ちょっと提案させてもらってもいいかしら?」
隆次が考えを述べていく途中、そういって口を挟んだのは優奈だった。
一瞬ピクリと眉を動かした隆次だったが、何も言わせずに否定するわけにもいかないと思案し、何だと視線で語りかけた。
「戦力を分担するのはいいわ。でも哲也は私たち学園側の人たちに任せてもらえないかしら? というよりはもう少しあの女のところに戦力を集めた方がいいと思うのだけど」
優奈の提案に思案顔になる隆次。
確かに彼女が提案した通り、戦力をそのまま平等に三等分しなければならないという束縛はない。おそらく、ではなく確実にあの女が一番やばいだろうと隆次は思っている。
「優奈、何勝手に口を出してるんだ? 隆次もうちの娘の話に聞く耳を持つ必要なんてないぞ?」
「思ったことがあれば提案していかなきゃ最善の策なんて出てこないわ。ま、言いたいことを言った後だから何言われようとももういいけどね。後は土御門さん次第だし」
近くで親子の喧嘩が勃発しそうになるが、そんなことこそ耳には入れず、隆次は短くもしっかりと脳を働かせて、決断する。
「……わかった。分担の仕方を変えよう。千華お前は俺のグループには入れ」
「了解よ」
「そして、楠木は学園側のメンバーに任せよう。だが何かあっては敵わない。志郎もつれていくことがそれをのむ条件だ」
「わかったわ」
「おい、隆次!?」
「志郎。娘も含めて、ここにいる奴らを殺させるんじゃないぞ? 優奈、大丈夫だとは思うが、志郎が暴走しないように頼む」
志郎は娘の話を聞いた隆次の最終決断に不満が少し残ったが、案自体がおかしいというわけではなかったので、唇をかみながらも分かったと短く答える。優奈は当然のように、まかせてとばかりに胸を張って頷いて見せた。また学園側から募ったメンバーは全員ではないが哲也のところに行くという意思を見せた。
「ここからは分かれて行動する。それぞれ標的を倒したら他のメンバーと合流すること。それでは、健闘を祈る」
隆次がそう告げると、全員が一様に頷き、そしてリーダーを先頭にそれぞれの方向に駆け出して行った。