第百十二話 目的
開いてくださりありがとうございます。
今回は第三者視点で話を書きました。
誤字脱字あったら報告お願いします。
――――side others――――
「一体何をしている?」
葵のことを取り囲んでいる六家のうちの一人、ギルドの頭首でもある土御門隆次が怒気を含んだ調子で、そう問いかける。
葵はそれに応えることも反応することもなく、普段の彼なら考えられない冷酷な表情を浮かべながら、ただ目の前にうつ伏せで倒れている彼の父に当たる男――潮を見続けている。
時間は少し遡る。
哲也の姉と称する香織と葵は接触し、そして彼女の手によって葵は魔力の暴走を起こした。
魔力の異常を感じた六家の面々、学園の先生らはすぐに行動に移る。
学園側は魔力の異常を感じた時点で、すぐに避難するように全体に伝えた。ただのちょっとした魔力の暴走ならここまで大げさにはしなかっただろうが、それだけ溢れ出てくる魔力が異常だったのだ。
六家の面々はすぐに現場へと向かう。哲也の監視をしていた光磨と黒淵も同様に、一旦哲也の監視をやめて現場に向かう。その間に香織が哲也に接触したところを見ると、正直判断ミスと言わざるを得ないだろう。
そのことを光磨と黒淵が知る由もないが、それはさて置き。
行動を移した六家の中でたまたま一番近くにいた潮は最初に現場に辿り着き、魔力の異常を感じさせた張本人が自分の息子だと分かるとすぐに取り押さえにかかる。
葵を取り押さえる潮には絶対の自信があった。
彼の息子である葵は確かに一般の人と比べれば、十分な実力を持っている。回復魔法において少し異常なまでの力を持っているが、所詮はその程度であり、六家としては劣等扱いされる程度の実力だ。
実際息子を鍛えるために行った模擬戦で、葵が潮に傷をつけたことなどない。
潮の姿を捉え、攻撃してくるのを察した葵。だが葵自身すぐに動かなかった。
相手の様子に疑問を持たないでもなかったが、潮は先手必勝とばかりに自分が最も早く使える初級魔法、水球を相手に向かって放つアクアボール行使する。初級魔法と言えど、その使い手が六家ともなれば、威力や速度も相当なものとなる。
潮の計画ではこれを避けるために水球に意識が集中している葵の隙をつき、さっきよりも強力な広範囲に渡る魔法を放つ予定だった。
単純な戦略と思われるが、力の差が大きければそれで十分なのだ。今まではそれで十分だった。
葵が潮によって放たれたアクアボールに向かって手を伸ばす。
潮はその行動に嘲笑するかのような表情を浮かべた。
(この短時間で、俺が放ったアクアボールに匹敵するものが、お前に放てるわけがないだろう?)
そんな嘲笑はどこえやら。
気がついた時には潮はうつ伏せに倒れていた。
潮は何がどうなったか全く理解することが出来なかった。
分かるのは自分の体が倒れているという事実だけ。
そして葵が手をかざし、次の魔法を放とうとすると、次々に六家の面々が登場する。
さすがにそこに現れた面子が面子だったせいか、葵は潮に向けてすぐに魔法を撃つことはしなかった。
周りの六家の面々も父と子がいつもと逆の立場に立っていることに驚きを隠せず、また何かをやったことを悟り、その何かを警戒して手を出せずにいる。
そして冒頭の場面に戻る。
「一体何をしている?」
隆次がそう問いかけるも、葵は潮から目を放さない。
いつまでたっても答えない葵に痺れを切らしたようで、隆次が率先して葵を捕えるために行動を起こそうとしたが、それが行動として起こることはなかった。
葵の目の前に、六家の目の前に、一組の男女の影がふわりと現れたからだ。
全く気配もなく現れた二人に、六家の面々はこれまた警戒心を抱く。
男の方は彼らにとって見覚えがあるどころか、実際会って会話をしたり、先ほどまで警戒の対象として見ていたり、さらには息子である人物だった。そう、哲也だ。
その人物を知っているものとしては、彼の目が異常であることに気づき、息をのむ。何かに憑りつかれた様に目の奥には光がなく、まるで邪悪な闇にのまれているようだった。
「はい、どうもこんにちわ~。六家のみなさん」
そしてもう一人の声を聴いたとき、彼らの表情には動揺が現れ、一層警戒心を強める。
それも仕方のないことだろう。なにせその声は、彼らの会議中に突然現れ、宣戦布告のようなものを残していった声と全く一緒だったのだからだ。
「久しぶりって言った方がいいのかしら? でも私としてはともかく、あなたたちとしては実際に会ったわけではないから、やっぱり初めましてかしら?」
そして、この場に会ってない飄々とした雰囲気。まるで前回全く気付かなかったことをバカにするかのような発言、挑発。
「貴様、いったい何がしたい?」
重々しく、だがこれまた怒気を込めて口を開いたのは隆次だった。
『貴様』と香織一人に向かって尋ねたのは、どうせそこにいる葵、哲也はどちらも答えるようには見えなかったからだ。
「ん~、教えてほしい?」
香織の答えになってない応じ方に、一気に殺気立つ空気。
「そんなに殺気立たなくても教えるわよ」
そんな殺気などお構いなし、クスクスと彼らの行動を嘲笑う香織。
その彼女の行動にさらなる殺気をぶつける六家。
「私の目的、それはね。……六家を潰すことよ」
彼女の答えを聞いたとき、六家の誰しもが彼女自身に攻撃を仕掛けようとした。
だがそれに反発するかのように、彼らから発せられた殺気を超えた濃密な殺気が、彼女一人から生まれる。そのさっきの濃さといえば、六家である彼らが、思わず冷や汗を掻いてしまうほどだった。
「でもただ潰すだけじゃ面白くないし、ゲーム形式みたいなものにしましょう」
突然の発言に、意味が解らないとばかりに困惑が広がる。
そんなものはお構いなしとばかりに、香織は続ける。
「ルールは敵味方に分かれて、それぞれの将軍、将軍は私たちとここにいるあなたたちね? それを全員を殺したら勝ちってことで。範囲はこの学園全体。私たち側の陣営は私たち三人でいいわ。あなたたち側の陣営はここにいるあなたたちは強制参加として、他のメンバーについては今現在この学園にいる人たちなら募ってもいいわよ。まぁ敵として集まった人については、当然命の保証はしないけど。ああ、逃げれるとは思わないことね。この学園の周りに、結界を張ってもらってるから。ちなみにここにいる生徒たちは人質として扱わせてもらうから、それも悪しからず」
スラスラとルールを述べる香織に何も言えず呆然とする。
「それを受けると思うのか?」
「受けた方がいいと分かってると思うけど? 最強と謳われている六家が襲撃者を目の前にして、生徒を見殺しにして逃げるなんて……信用も信頼も何もかも落ちていくわよ?」
隆次からの言葉も、全く意に介した様子もなく、香織は淡々と応える。
その応対に六家全員が反発することができず、沈黙を選ぶしかなかった。
香織はその様子を見て笑みを浮かべ、沈黙は肯定とばかりに次の段階に進める。
「それじゃあ、参加者を募りましょう。集め方は任せるわ。逆にあなたたちだけで勝てると思うのなら、誰も募らなくてもいいけどね。後、開始の合図はあなたたちが私たちに対して攻撃、もしくは干渉するような魔法を放った瞬間。それまで私たちは手を出さないから、安心して集めるといいわ」
最後に「それじゃあ、待ってるわね」とだけ言い残し、香織、哲也、葵の三人はその場から立ち去った。
主人公の意識が復活するまでのしばらくの間、第三者視点で書いていきたいと思っています。
この小説では初の第三者視点での執筆ですので、変な感じ、というよりは本当に変な部分が多々あるかもしれません。
そんな部分があったら、誤字脱字とともに報告していただけたらと思います。