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Dropbehind  作者: ziure
第四章 学園祭編
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第百十一話 感情

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 僕は水の六家である紫水の家の次男として生まれた。

 兄弟は兄が一人と姉が一人、そして弟が一人。

 僕はこの家にいることがあまり好きじゃなかった。

 実力社会である六家の系列。

 実力があれば、崇められ、敬われる。実力がなければ、見下され、蔑まされる。

 例え親であっても情けなんてなく、同じように扱われる。というよりは親だからこそ、同じ六家に属しているからこそ、陥れられる。

 きっと実力があれば楽しく過ごせたのかもだけど、僕はその辺が周りにいた六家の人たちと比べるとどうにも劣っていた。

 同じ血を得ているはずなのに、僕と兄弟との差もひどいものだった。

 どこにいても見比べられる空間。比べられる相手は同じ六家の人間。


 だから家にいると辛いことが多かった。

 一時は出ていけたらどんなに楽だろうかなとか、そんな風に考えてしまうくらいには辛かった。

 いっそのこと出ていけばよかったと思う。


 そんな時、僕に一つの転機が訪れた。

 あの日のことは良く覚えている。

 どういう過程でそんなことをされたのかは良く分からないが、僕の部屋のものがいろいろとズタズタにされていたのだ。

 どうでもいいものから大切なものまで区別なく壊されていた。

 肉体的な暴力に慣れていたころのそれだったから、それはもう精神的に堪えた。

 仕方ないと頭で理解しつつも、心情的に一瞬だけ怒りで、憎しみで、悔しさで、フッと意識が飛ぶくらいには。

 きっとその時が僕の中で何かが芽生えた瞬間だと思う。

 その時のことは良く覚えているがその瞬間のことは覚えていない。

 気付いた時には部屋の中のものが元に戻っていたのだ。

 そうこの時にあの回復魔法が生まれたのだ。

 不思議なことに最初の発動以降は、最初から使い方を知っていたかのように、僕はその力を使いこなすことができた。 

 再び僕の持ち物が壊されても僕はそれを元に戻した。

 その光景をしっかりと視ていた家族の面々は『異常な奴』という目線で僕のことを見始めた。回復魔法の特徴を良く知っている分、僕のその力の異常さを良く理解できたせいだろう。

 その代わり、今までのように暴力や破壊行為を行うことは無くなった。異常な奴として認識した相手に下手なことをしたくないからかもしれないし、どんなことをしても元に戻されるということが分かったせいしれない。

 でも家にいる時の良心地の悪さが改善されることはなかった。

 

「僕、寮で生活したいんだけど」


 自宅通いが余裕でできるほどの距離に家があったために、今までは口にすることができなかったことだったが、その時は簡単に口にすることができた。

 逆にどうぞと言わんばかりに両親共々僕の寮の生活を勧めてくれた。


 まぁそんなことがあったわけでして、僕は両親に対して、家族に対して、そこまで良い感情を持っていなかったりする。

  



――――side 哲也――――

 


 とりあえず午前の仕事を終えて着替えていると、休憩をもらったのか仕事中のはずのトシが飲み物を二つ持ってやってきた。 


「ほい、お疲れさん」

「おう。サンキュー」


 二つのうちの一つを差し出してくれたので、それをお礼を言って受け取る。


「良いってことよ。哲也もこれからまだ仕事があんだろ。お互い頑張ろうぜってことさ」


 それだけ言うとトシはグイッとコップを傾けて飲み物を飲んでいく。

 俺も合わせるようにして同じような動作で飲み物を飲む。

 

 トシが言うように俺はこれから生徒会の仕事である見回りをし始めるのだ。

 自分の学園祭をじっくり回る時間はほとんどない。

 ちなみに『お互いに』と言っているところから分かるだろうが、トシは引き続きクラスでの仕事に精を出すことになっている。

 それもこれも岡嶋先生の権力が振るわれたせいだが……。


「おい、トシ、何勝手に休んでんだ!」

「やばっ、もうばれた。それじゃあな、哲也。仕事頑張れよ」

「ああ……そっちもな」


 どうやら休憩をもらったわけではなく、ただ単にサボってただけか……。

 どれもこれも岡嶋先生に勝手に決められたトシのことを考えると、少しくらい休みたい気持ちも分からんでもないが……。せめて一声かけてから休めばいいのに。トシが頑張ってるのはみんなが分かってるから、少しくらいなら休めると思うんだけどなぁ……岡嶋先生さえ現場にいなければ。


 まぁ、頑張れって言われたことだし、俺も仕事に精を出しにいくか。


 って言うわけで、とりあえず向かうは生徒会室。

 見回りをする前に、まずは見回り中という事を示す腕章を取りにいかないとね。

 



「クラスのお仕事お疲れい」


 生徒会室に入ると俺を出迎えたのは野田さんだった。

 野田さんがここで仕事をしているのは決して生徒会のメンバーから省かれているわけではなく、むしろ野田さんからこの仕事を引き受けていたりする。というのも「数少ない俺の魔法が役立つ機会だからな」だそうだ。確かに野田さんなら見回りをせずにこちらで仕事をこなしつつ、それなりの水準で見回りの仕事もすることが出来るだろう。とまぁ本人からの立候補もあってここでの仕事は野田さんに任せているわけである。


「野田さんこそお疲れ様です」

「はっはっは。もっと俺を敬っても良いんだぞ?」

「仕事をしているからってあまり調子に乗らないでください」

「ふ、言われると思ったぜ。それより、これ取りに来たんだろ」


 野田さんは「ほらよ」と言って俺が取りに来た腕章を投げ渡してきたので、それを受け取って腕に通す。


「おい、哲也」

 

 さっきまでのふざけたような態度から一変して、野田さんが真面目な表情で俺の名前を呼びかける。

 俺はその表情の変化の意味をちゃんと理解できたので、それに対して真剣な表情で頷いて見せる。


「早速お仕事……みたいですね」

「え、ああ。そうだ。頼んだぜ」 

「はい、行ってきます」


 なぜかよく分からないが、野田さんがあっけらかんとした表情を一瞬見せたが、すぐに頼もしそうな奴を見つめるような視線で俺を見て、送りだすように言葉をかけてくれる。

 俺はそれに応えて、すぐに生徒会室の外へに出る。


 ――場所は三階の廊下か……


 さっき探知した魔力の場所をもう一度確認し間違いないことを悟る。

 あまりな大きな魔力ではなかったので、ただのちょっとした魔法の暴発かとこの瞬間までは思っていた。が、それが大きな間違いだったことを次の瞬間に分からされる。


 まるで魔力が爆発したかのように、そこを中心として魔力の本流が広がるのを感じたからだ。

 たぶん俺や野田さんだけでなく、誰しもが感じてしまうような規模で。

 あまりの荒々しさのためか、俺に付きまとっていた六家の二人の視線も外れた。

 きっとこれが『始まり』だという風に捉えたのだろう。

 俺としては「やっぱり俺じゃなかっただろう?」と言ってやりたいが、本人たちもいない無人の場所でそんなことを言っても仕方がない。

 全くホントに傍迷惑な人たちだったな……


「全くホントにそのとおりよね~。まっ、こっちとしては好都合だけど!」


 ホントに迷惑な人だよ……


「あれ、驚かないのね」

「いきなり背後から近づいてくる気配は感じてたからね。姉さんだったって知って逆に納得したよ」

「ちぇー。つまんないの」


 口ではそんな風に言う姉さんだが、実際には本気で驚かすつもりなどなかったと思っている。

 それぐらい気配の隠し方が適当だったからだ。後は慣れたというのも大きいが。

 まぁ本当につまんないと思っている様子を見ると、演技でもいいから驚いてみせた方が良かったのかもしれない。

 

「それでどうしたの? 俺としては早く魔法から解放してもらって、魔力を感じた現場に向かいたいんだけど」

「それは気にしなくていいよ。私がやったことだから」

「……はい?」


 俺は姉さんからの言葉の意味を理解することができず、つい声を上げてしまう。

 

「いや、正しくは違うわね。けしかけたのは私だけど、あれは葵ちゃんがやったことだし」 

「え、ちょっと、姉さん? 一体何を言ってるの?」


 俺は姉さんに尋ねるが、姉さんから答えが返ってくることはない。


「哲也はさ、火神家のことどう思ってる」

「どうって?」

「そうね……じゃあ、いきなり捨てられちゃった感想とか」


 ドクンと心臓が鳴る音が聞こえた。


「別に、今となってはどうでも良いよ。姉さんに会えたきっかけってくらいにしか、捉えてない」

「それは私としては嬉しい答えね!」


 俺の答えに、言葉通り本当に嬉しそうな表情を見せる姉さん。しかしその表情は一瞬で陰りを見せる。


「でもね、哲也……」


 突然、目の前の光景がグニャリと歪み、自分の平衡感覚が変になり、足もとがふらつく。

 そして視界がはっきりしたころには、驚くべき光景が目に焼きつく。


 ――六家の一人である葵の父が、葵の目の前に倒れ伏し、その周りを他の六家の面々が警戒するように囲む光景を。


「憎しみとかそういった暗い感情って、意外に心の奥底に眠り続けているものなのよ?」

 

 俺はその姉さんの言葉を最後に、意識が欠き消えていった。



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