第百十話 開始
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始まる前に個人的に少々問題も起こったりしたが、学園祭自体は特に何事もなく進行していた。
「はい、次これ運んで!」
「はいよー!」
「オーダー入ったよ!」
「入りたい人はここに並んで~」
ただ思ったよりも盛況しているおかげで、仕事が忙しい。
どれくらいと言われれば教室内の席は満席となり、教室の脇に列が出来ているといった感じだ。
まぁ、他のクラスも似たようなものだったので、特別に俺らのところに人気があるというわけではない。
つまり、この学園祭自体が人気というわけだ。
とは言っても手がつけられないほど忙しいというわけでもないし、ある意味これくらい忙しい方が学園祭をしているという感じがして良いのかもしれない。
「哲也くん、これお願い」
「りょーかい」
そんなこんなで自分も仕事に従事する。
俺の仕事は、頼まれた料理を運び、そこにもっていくという簡易的な仕事だ。
実際はいろいろと気を使わないといけないのだろうが、所詮は学園生ということで、ひどい有様じゃない限りは大体は許される。自分なりに気を使っていればとりあえずは大丈夫というわけだ。
そういうわけで、料理を受け取り指定されたテーブルにもっていく。
「お待ちどうさま」
「ありがと~」
その座席には見知った顔がいた。
「早速こっちに来てくれたんだな、葵」
「うん! 美佳ちゃんのところに最初に行って、次にここに来たんだ!」
「そうか。新谷も一緒にきてくれたんだな」
「まぁな」
相変わらず仲がよろしいようで。
簡単に言葉を交わしながら、料理を置いていく。
「それにしても、哲也くん似合ってるね、その服。かっこいいよ」
「そうか? 俺としてはそう思わないんだが……」
「そんなことないよ。着こなしてる感じがするし……僕だったら絶対似合わないもん」
「いや、葵の場合はなんと言うか。そう、趣向が違うせいだ」
「うん……」
思い出すのは葵のメイド服姿。あれは似合いすぎてたな……
「ま、ここだけに限らず、うちらの学園祭を楽しんでいってくれ」
「もちろんだよ!」
それだけ言い残して葵たちのいたテーブルから離れた。
――――side 葵――――
時間というのは早く過ぎるもので、気付けばあっという間に昼を過ぎていた。
「ねぇねぇ、洸太。次はどこに行こうか?」
「俺はどこでもいい」
洸太に希望を聞くと素っ気なくそう答えてきた。まあ素っ気ないのはいつものことなので特に気にすることはないんだけどね。
「じゃあ、また僕が行きたいところに行くよ!」
「……好きにしろ」
「好きにするよ~」
洸太の許可も頂いたことだし、僕は階上に向けてズンズンと歩き出す。
溜息をつきながらも洸太は僕の後ろについてきてくれる。
どうでもいいことかもだけど洸太ってなぜか僕の横を歩こうとしないんだよね。
どんな立ち位置にいようがちゃんと会話はしてくれるから、別にいいんだけどさ。
「それで、どこに行くつもりなんだ? また、知り合いがいるところなのか?」
「もう知っている人はいないよから、今度は適当に食べ物売ってるところにでも行こうかなって思ってるよ。さっき、ちょっと動いたからおなか減っちゃった」
ちなみにさっき行ったのは優姉さんのところだ。
場所は体育館を利用していて、縁日のようなものを催していた。
食べ物を出していたり、魔法を利用した射撃など、僕たちが利用する側で出来るものから、あちらが踊りを見せたりしているところもあった。
さすがは三年生と言うべきかそれなりの規模をこなしていた。ちなみに一クラスではなく、いくつかのクラスが合同で出していると言っていた。
「……そうか。まぁどこでも好きなとこに行けばいいさ。俺はついていくだけだし」
洸太からちゃんとした許可も得たことだし、どこに行ってみようかな~?
お店がいっぱいあるのは嬉しいけど、どこにいくかホントに迷っちゃうよ。もらった広告を見てると余計にね。
まぁ、こういう風にして迷いながら見て回るだけでも楽しいんだけどね。
でも残念なことに、楽しい時間はすぐに終わっちゃうものだ。
「……? あれ?」
上の階につながる最後の階段を踏み込んだ時、ひどい違和感を感じた。
今僕がいる階に人が見当たらないのだ。
「洸太?」
その違和感の正体を突き止めるために後ろにいたはずの洸太に向かって呼びかける、が反応は全くない。実際に振り返ってみれば、そこには洸太どころか誰ひとりとして姿を見ることができない。僕の視界に一人として人間が映らない。まるでどこか別の次元に飛ばされた気分だ。
「だーれだ?」
「わっ!」
これまた突然のことで、後ろから手で目隠しをされる。前が視えない。背中に感じる柔らかい感触とその声音から相手が女性ということだけは分かる。というか聞いたことがある声だった。
「て、哲也くんのお姉さん?」
「おー、すごい! 良く分かったね」
目から手を外してもらい視界が戻り、哲也くんのお姉さんが眩しいばかりの笑顔で僕の目の前に現れる。相変わらず綺麗だなって思う。
「久しぶりだねー」
「そうですね。って僕らってこんな間柄でしたっけ?」
僕の記憶に間違えがなければ、哲也くんのお姉さんと初めて会ったのは競技大会の時だったはずなんだけど……
「別にいいじゃない。仲の良さに時間なんて関係ないよ」
ちょっと良いことを言ったのかもしれないが、なんかいろいろと間違っている気がする。
というかその前にいろいろと流されている気がする!
「……なんかおかしくないですか?」
「別に何もおかしくないよ」
「えっ?」
僕が恐る恐るといった感じでそう聞いてみるが、何を言ってるのとばかりに言葉を返された。
「だって私の魔法で創った空間だもの」
唖然としている僕にいい笑顔を向けてそう付け加えてくる。だが付け加えられた言葉の意味も怖いが、その笑顔と言う表情が怖くて仕方がなかった。
「えっ、それって、」
「良い夢を見れるといいね」
僕が何かを聞く前に、何かが僕の中で生まれ、そして壊れたのを仄かに感じ、僕の意識はそこで消えていった。
「それじゃ……始めよっか」