第十一話 興味
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歓迎会が終わって数日後のこと。あれから特に何事もなく、俺はいつも通り今日も早朝から鍛練をしている。
今日の鍛練の内容は、この世界で使われているもう一つの力――――『氣』のコントロールを行っている。
『氣』は魔法の力とは関係なく、努力をすれば使えるものと姉さんから聞いた。その言葉 通り魔法の力がそんなに強くない俺でもなんとか使えることができた。とは言っても使えるようになるまでの地獄の鍛錬は今でも忘れられないが……
使い方としては身体能力の強化が一般的だ。
魔法使いは当然かもしれないが『魔法』の力ばかりを頼ってしまうために身体能力が低い人が多い。そのためにつくられたのが『氣』だと姉さんが言っていた。
俺は森の中で『氣』の鍛練をずっと行ってきた。そのお陰で自分の力に少しながらも自信がついた。魔法の力はあれからそこまで成長していないけど。
ちなみに『氣』の種類は二つある。一つは外気、すなわち自然の力を利用した『空氣』。もう一つは自分自身の中にある潜在的な『体氣』。
空氣は環境によって異なるが量が膨大で、使いこなすのが難しいかわりに使えたときは自分に大きな力が備わる。体氣は空氣と比べると量がはるかに劣ってしまうが使いやすい。体氣は鍛えれば増えていくらしい。
ちなみに、今俺が行っている鍛練は空氣のコントロールだ。このリンディル広場は周りにぐるっと木で囲われている所だから、空氣を扱うところとして森ほどではないが、とてもいい環境なのだ。
俺はまず、自分の体全体に『氣』を纏わせることから始める。空氣は自分の身体能力を上げるだけではなく周りの気配を感じることにも優れることが特徴的である。そのおかげとでもいうのだろうか。俺のことを見ているひとつの気配に気付いた。
俺はとっさにそこに向かって短く呪文を唱えて風の下級魔法『ウィンド』を放つ。瞬間、少し強めの突風が放たれて、そこから気配が漏れだした。そして俺は体氣で足を強化してすぐさまそこに駆けつけた……
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私は今日も彼を見にきていた。
今日は何を魅せてくれるのだろうか……
私は彼に期待を寄せつつ、一つ一つの動作を見逃さないように彼に目を向け集中する。
当然ながら自分の姿と気配を消す隠蔽魔法を自分にかけ木の上で観察している。
前みたいに気付かれたら面倒だしね。
とはいってもあの時の紙にかけといた隠蔽魔法すら見破られているから、ばれることもあるかもしれないけど……
そうなったときの対処はそのときに考えよう。
自分で言うのもなんだけど私は楽観的に物事を考えます。
ほどなくして彼が何かを始めた。
強烈な、それでいて繊細さを感じる気配が彼の周りに段々と漂っていく。
まさかあれは『氣』なのではないだろうか?
あれをあの年で使える人など聞いたことがない。
少なくとも私は知らない。
それに使える人の名前を並べていったら歴史上でもこの世界でトップクラスの者ばかりだ。
私は彼が『氣』を使っていることに対する驚愕と、見たこともない力を使っている恐怖が生まれた。
そしてそれらを上回る彼に対する興味が私を支配していく。
――――本当におもしろい
私は顔から自然と笑みがこぼれてくる。
これからの日常は彼と一緒になるわけだし面白くなりそうだ……
しかしそんな思考も私に向かってくる突風に中断させられる。
その風をまともに受けたせいでバランスを崩し、そのまま木の上から落ちてしまった。
思わず顔をしかめる。
さらに衝撃で自分にかけていた魔法が解けてしまった。
ヤバイと感情に焦りが生まれながらも、その場を立ち去ろうとしたが、
「朝瀬川さん?」
すぐ目の前に彼は現れた……
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そこにいたのはこの前のゲームでグループが一緒だった女子生徒だった。
俺が名前を呼ぶと、おどけるように言ってきた。
「あはは……見つかっちゃったか」
「覗き見なんて、先輩も趣味が悪いですね」
俺はそう言って咎めるが「ごめんねー」と謝る気がない謝罪をしてきた朝瀬川さんを見るとあまり意味はないかもしれない。
「確かに私もいけないなことしたかもだけど、いきなり魔法を使うなんてひどいんじゃないの?」
「それはっ……いえ、すいませんでした」
言い返したいところだったけど、確かにもっともなことなので素直に謝まることにした。俺の謝罪に「まぁ、いいわよ」と言って(いつの間にあなたが許す立場になったのだろうか……)俺に質問をしてくる。
「楠木君がさっきやってたことって、もしかして『氣』の操作なの?」
「そうですよ。見てて分かりませんでしたか?」
「聞いたことはあるけど……見たのは初めてだったから確信できなかったの」
「へ? 初めて、ですか?」
俺はおかしいと思う。姉さんから聞いたことからすると、これくらいの『氣』の扱いはこの学園にいる人なら出来ると思っていた。姉さんとの最初の方の修行で俺がなかなかできずにいると、姉さんから「これくらいは誰でもできるわよ。哲也の実力はその程度なの?」と言われてたくらいだ。
つまりは俺がやっていたことは『空氣』の扱いの基礎なのだ。それを見たことないということは彼女は『氣』を使えないという可能性が高い。でもこの人ならできて当然なのではないのだろうか……
「そうよ。珍しいものを見させてもらってたわ」
「珍しいですか?俺が聞いた話だと努力すれば使えるらしいですよ」
なんか姉さんと言ってたこととずいぶん違う。
「努力も何も『氣』の存在は知ってても、使い方は知らない人が普通だと思うわよ。当然私も知らないわ」
「そうなんですか!?」
「え、ええ……」
俺は驚きのあまり少し声が大きくなってしまった。朝瀬川さんは俺がこんなに驚いていることに戸惑っているようだが……
「これってあまり使わない方がいいですかね?」
ついそんな疑問が浮かんで尋ねてしまう。
「使っても問題はないけど、使っているところを見られたら注目の的になるでしょうね」
俺はその答えによって今後の力の使い方が大きく変わった。人前で使えるのはきっと内側からなる『体氣』の身体強化だけになるだろう。当然使うのは控える。そしてさっきの朝瀬川さんの様子を見ると『空氣』はもちろん、その応用技を使うのはやめた方がいいということが分かった。変に目立ちたくないからね。
「分かりました、あまり使わないようにします。それと俺が『氣』を使えることは、内緒にしておいてください」
「別にいいわよ。その代わり一つお願いがあるんだけどいいかしら?」
「いいですよ。まぁ内容によりますけど……」
俺は無難に条件を付けて置く。
「大したことじゃないわよ。ただあなたの鍛錬の様子を毎日見させてほしいの」
「……分かりました。ちゃんと内緒にしておいてくださいね」
ちょっと考えたが他の人に言いふらされるよりはずっといいだろう。それにどっちにしろこの人は今日と同じように見に来ることだろう。
「分かってるわよ。『氣』のことについては黙っておくわよ」
「それだけじゃなくて、ここで鍛錬していることも黙っておいてください。美佳に教えたのも朝瀬川さんでしょ?」
俺はここで朝瀬川さんに釘を刺しておくことにした。
「あれ、知ってたんだ」
「美佳が友達から聞いたって言ってたので。今回の件で朝瀬川さんが教えたということが分かりました」
「あはは……わかったわよ。黙っておく」
「頼みますよ」
「はいはーい」
かなりいい加減な返事だが信用することにした。
「それではいったん帰ります。さよなら、朝瀬川さん」
「あ、そうだ。これからあなたのこと哲也君って呼ばしてもらうから。その代わりに私のことは美月って呼んでいいわよ。同じ仕事をする仲間になるわけだし」
俺は寮に戻ろうとしたが、朝瀬川さんに引き留められる。そして、意味がよく理解が出来ない言葉を言ってきた。
「同じ仕事? どういうことですか?」
いきなり言われた意味のわからない発言に少し混乱してしまう。一体何なのだろうか……
「あれ? まだ会長から聞いてなかったの?」
そして、これから繋げられる朝瀬川さんの言葉に混乱はさらに深まっていくことになる。
「あなたは生徒会の一員になることが決定しているのよ」