第百六話 会議
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学園祭の当日の早朝。
生徒会のメンバーは他の学園の人よりも早い朝を迎えることになる。
というのも準備の最終調整や細かいところの確認など、そういったことをみんなが学園にやってくる前に終わらせてしまうためだ。
「静かだな……」
いつもよりも明らかに早いため、学園祭当日だというのにすごく静かだった。
だから普段なら聞こえてこないだろう足音も耳によく響く。
「おはようっ、哲也」
「おはよう」
そのためいきなり後ろから肩を叩かれて挨拶をされても、特に驚くこともなく挨拶を返すことができた。
俺の反応があまりに普通で何もなかったことが不満なのか、美佳は少しだけ頬を膨らませていた。
「つまんないわね。せっかく忍び寄って驚かそうと思ったのに」
「足音、結構響いてたよ」
美佳にそう返すと、余計につまらなそうな表情で俺のことを見てくる。がすぐにそうすることに飽きたのか、切り替えるように一回息をついた。
それを切りとして静寂が訪れた。
二人分の足音だけが響いていく。
俺にしろ美佳にしろどちらも向かう場所は生徒会室なので、一緒に並んで歩く。
「いよいよ学園祭か……」
不意に美佳がそう呟いた。
話題が出ない気まずさから出た言葉ではなく、ついぽつりと零れてしまったように俺には感じた。その横顔を見れば、まるでどこか架空の空間を見つめるように前を見ていたから。
「でも、まだ半年会ってくらいなんだよね……」
「ん?」
「え?」
再びぼそりと呟く美佳に俺はうっかりと反応してしまった。いや昔は一緒だったのに会って半年っておかしくね? って思ったためだ。
美佳は隣に俺がいるというのに聞かれたことが予想外だったような反応をして、恥ずかし気に少しだけ頬に赤みが差す。
「私、今、声に出てた?」
「え、あ、ああ」
俺が曖昧な返事で返すと、美佳の顔がみるみると赤さが増していき、今度は羞恥と怒りが混じっている感じの顔で俺の方に迫ってくる。……いや怒りが混じるのはおかしいでしょ? と思わないでもないが本人に言っても仕方がないことだと思うのでとりあえずは黙っておく。
「……どこまで聞いた?」
「どこまでって、別に大したことは聞いてないけど――」
「――何を聞いたの?」
ずい、ずいと迫ってくる美佳。顔がマジでやばい感じになってる。まじ怖いって。
「いや、ホントに大したことじゃないから、気にすんな」
「なら言ってくれてもいいでしょ」
「別に気にすることない程度のことだぞ?」
「いいから!」
「えっと、最初にいよいよ学園祭ねって呟いてて、少し経った後に半年くらいなんだよねって言ってた」
数センチほどの距離に美佳の顔がある状態。
誰かに見られてたら、何か勘違いを起こされそうな、それくらいの距離。
って冷静に判断してる場合じゃないよね、俺!
「って、近い、近いから!」
「ホントにそれだけ?」
「ホントだし、嘘ついてないし、嘘つく必要もないし!」
俺の必死さが伝わったのか美佳はたっぷり数秒間俺の顔を見つめてきた後、「まぁ良いわ」と言ってようやく距離を取ってくれた。
今のシーンを誰かに見られでもしたら、変な誤解を与えて面倒くさいことになりそうだ。
「へぇ~、面白いことしてるね」
ビクッと肩を震わせて、声が聞こえたところを見てみると、ニヤニヤよ嫌な笑みを浮かべる美月さんと顔を赤くしながら顔をそむけ、ときどきチラッとこちらを見てくる鷹已さんがそこにはいた。
「面白いことってなんですか?」
こういう時は堂々と受け答えをする方がいいと思い、俺はそう言って今だニヤニヤしている美月さんに言葉を返す。
「面白いことは面白いことよ。せっかくのところを邪魔してごめんね~。私たちは先に生徒会室に入っているから」
美月さんはそれだけ言い残すと、鷹已さんの手を取って俺たちを追い越して先に進んでいった。
あの人のことだから、もっとからかってくると思っていたんだけど……ちょっと予想外だ。
「…………」
「…………」
一瞬で台風が去って、訪れるのは静寂の時間。
見つけ合うでもなくただ美月さんのあるいていった方向を見てポカーンとしてしまっている俺と美佳。
しかしそんな時間も一瞬で崩れ去る。
「二人ともそんなところで固まって何してるの?」
ハッとした後ろを振り向けばそこにはニコニコと笑みを浮かべている優姉がいた。
なるほど、美月さんが一瞬で立ち去ったのはこれが理由か……なんて今更思い至る。
「何してるって、べ、別に何もないけどっ? なぁ、美佳」
「ええ、当たり前でしょ」
我ながら動揺しすぎである。
美佳も呆れたように「ばかっ、何動揺してるのよ」と小声で言って肘鉄を入れてくる。
いや、でも、優姉のこの笑顔って結構怖いんですよ?
「そう、何もないなら別にいいんだけどね。『近くから邪魔しちゃってごめんねー』なんて聞こえてきたから何かやってたのかと思ったんだけど、何もないんだね。ふーん、そう」
納得したように頷くがその表情は変わらず笑顔で逆に怖い。
「それじゃ、行きましょ?」
どこに? と尋ねることもなく連行されるかの如く、俺と美佳は優姉の後ろを恐る恐るついていくようにして生徒会室に向かっていった。
――――――――
いま現在、俺達は六家の人たちとギルドの精鋭たちと一緒にいる。というのも警備についての話を簡単にしておくためだ。
そしてその部屋の空気は重かった。重くて、居心地が非常に悪い。
理由はいろいろあるがまず第一に六家の人たちが集まること自体が空気を重くしている。お互いをお互いに牽制し合っている感じといえばいいだろうか……なんでそんなに喧嘩腰なんだよと思わないでもない。
それとあちらはさり気なくのつもりなのか、それともあからさまに分かるようにやっているのか闇の六家の『黒淵』と光の六家の『光磨』のそれぞれの頭首がこちらを睨むかのような視線でときどき俺の方をギロリと視てくるのだ。
特に何かをやらかした覚えなんてないんですがね……何か悪い事でもしたのかな……
まぁそのお二方はまだいい。
一番俺的に困っているのは火の六家の『火神』の頭首があえて無視するかのように、入ってきたときに一度俺の姿を確認して一瞬だけ目を見開いてきた以外は俺の方を一度も見てこないこと。とみせかけて自分の父親のその対応にピキピキと青筋を浮かべながら、今にも爆発しそうだがなんとか我慢して冷静な表情を作っている優姉の様子だ。いつ爆発するのかとハラハラしてしまう。
「それじゃあ、始めましょうか」
本当は優姉が言うべき話し合いの開始の合図を、夏目さんが小さくため息をついた後に告げる。
その一言を夏目さんが言った後、さすがに自粛したのかすぐにハッとしてこの場の代表としての立場をわきまえて、話し合いを進め始める優姉。
みんなの視線が優姉に集まっていく中で、先にあげた二つの頭首は相変わらず俺の方を警戒するように視てくるのは居心地が悪いというよりは正直言ってうんざりしてしまう。
「なにか疑問点、言いたいことはありますか?」
警備についての話を一通り終え優姉が確認するように声をかける。
スッと手を上げる人物が一人いた。
「一ついいか?」
「何でしょうか? 土御門さん」
「暴動が起きた場合の対応の仕方についてだが、どんなやり方でも構わないな?」
「具体的には……とは、聞かない方が良さそうですね」
土御門さんのその表情が話を聞いていた時よりずっと真剣で少しだけ殺気が漏れるくらいに本気になっているのを見て、優姉は聞くのは無粋だと思ったようで空気を和らげるような物言いで聞くのをやめていた。その答えを聞いた土御門さんは漏れていた殺気をしまうためか、ふぅと小さく息を吐き「先に外に出させてもらう」とだけ言って席を立ち部屋の外へと出ていった。後は流れの如くそれに続いて次々と警備に当たる人たちが外に出ていった。
「それじゃ、私たちも自分たちの仕事に戻りましょうか。みんなよろしくね」
優姉からの指示に俺たちは頷き、ここで仕事をする優姉と夏目さんを残して部屋を後にした。