第百四話 仕事
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昼食時、俺とトシは学食で一緒に飯を食いながら、朝のホームルームの時に話された学園祭のことについて話していた。
「いきなり考えておけって言われても、ホント困るよな。しかもこの後すぐ発表とか、きついっての」
ランチのメニューの一つであるチキンサンドを口に次々と運びながら、トシがそんな感じで話を振ってきた。
というのも昼休憩の後、つまり今日の午後からいきなり学園祭のことについて話し合いが始まるのだ。
ちなみに、これからしばらくの間は午前中はいつも通り授業、そして午後からは学園祭の準備をしていく。期日が近づいてくると一日中、学園祭の準備に時間があてられるらしい。
「確かにな。でもそのあたりは前年度にやってたことの一つを挙げればいいんじゃないか? 無難に喫茶店的なものとかさ」
「そうかもしれないけどよ、どうせなら何か大きなことやりたいじゃん?」
「一年である俺らがそこまで気張っても仕方がない気がするんだが……それに岡島先生的にも準備に時間がかかるようなものはあまんまりやりたくないだろうしな」
「いやいや、岡島先生のことなんて知ったこっちゃないし。ていうか学園祭って結果によっては先生のほうも結構待遇変わるらしいから、意外にガチで望んでくるかもしれないぜ?」
「岡島先生がお金に目が眩んで、いつもと調子変わるなんて……」
ないとは言い切れませんでした。
俺の様子にトシは苦笑を浮かべる。
「やっほー、隣いいよね?」
そんな感じで二人で話してると、朱里が御盆を手に持ちながら声をかけてきた。
その背後にはいつの間に帰ってきていたのか、同じくお盆を手にしている美佳の姿がそこにはあった。
「帰ってきたんだな。ちょっとビックリしたわ」
「驚かすつもりはなかったのだけれど……ま、予想以上に時間がかかってね」
「ふーん……そうか」
そういってすぐに顔をそらすその様子は、あからさまに何があったのかを追及することを避けているように俺には見えた。
「で、どれくらいに来たんだ?」
「昼休みに入る前くらいね」
「じゃあ、来たばっかってとこか」
そんな感じの短いやり取りの間に、既にあちらさんでは口喧嘩が行われているから驚きだ。
「まだ座っていいなんて言ってないんだが?」
「別にいいでしょあいてるんだし」
「じゃあ、なんでわざわざ確認なんてとってくんだよ!」
「えー、社交辞令?」
「はぁ? こんな場面、しかも俺らにそんなのいらんし」
「何言ってんの? 親しき中にも礼儀ありって言葉知らないの?」
「そんくらい知ってるわ! 馬鹿にしてんのか?」
「逆にしてないと思ってんの?」
よくこんなしょうもないことで喧嘩が勃発するよなぁ……
見慣れてはいるが、久しぶりということもあるせいか、見れば美佳も呆れた様子で二人の様子を見ていた。
「とりあえず、隣座らせてもらうわね」
そんなこんなで俺とトシ、その隣に朱里と美佳がそれぞれ向かい合って座る形になった。
「それでさっきまで何の話してたの? 岡島先生っていう単語が聞こえてきたんだけど、もしかして愚痴でも言い合ってたの?」
妙な笑みを浮かべながら、愉快そうな感じで朱里がそういう風に言ってきた。
「あながち間違いではないな。ちょっとした愚痴は言ってたし。まぁ、話してたのは学園祭のことだな。今日の朝にクラスでやりたい企画を考えろって言われて、発表はこの後。そんなすぐに思いつくかよって感じでな」
「あー、学園祭ね。なるほどね。そういえば私たちのクラスも今日の朝に話を聞かされた。そっちと違ってクラスでやることを考えておいてね、みたいなことは何も言われなかったよ。ホントにさわりの部分だけって感じ」
俺が答えると朱里は納得したように頷き、自分たちのクラスがどのようだったかを教えてくれる。他のクラスの状況を聞いたトシは自分のクラスと比較して思わず苦笑が漏れていた。
「となると岡島先生が気合い入ってるってことなんかねぇ……まともに意見を考えないと怒られるかもな」
「喫茶店だって十分まともだから大丈夫だと思うんだけどな。それにもし駄目だったとしたら、岡島先生自身が何かしらの意見をぶち込んでくると思うから問題はない気がする」
「それは、ありえそうだな……」
「しかもその意見がとんでもないものの可能性も……」
そんな感じで学園祭を話題に会話を楽しみながら俺らの昼食の時間は過ぎていった。
――――――――
「ま、いいんじゃねえの?」
結果からいえば、昼の間に心配していた岡島先生からの意見ぶち込みは杞憂に終わった。
黒板に書かれている意見は、喫茶店、縁日、お化け屋敷など、学園祭でよくやる無難なものばかりだった。そして先ほど多数決を取り、喫茶店に決まったところで岡島先生が決定を下したのだ。
「なんか心配していた俺らがバカみたいだな」
「まったくだ」
ほんとにその通り過ぎて頷くのもばからしい。
「それじゃあ、喫茶店に決まりってことで、あとは役割分担を考えてくか。まずは学園祭中このクラスを仕切る係だな。とりあえず男女一人ずつ出せ。意見が出なかったら俺が独断で決めるからな。立候補者、誰かいないか?」
誰も手を挙げる気配はない。その様子に岡島先生は小さ――全然小さくない大げさでわざとらしい溜息を一つ。
「そうか、いないのか。それじゃあ仕方ないな、晒科、やれ」
「へ?」
指名されたトシは間抜けな声を漏らして、唖然として固まってしまった。
「『へ?』じゃねえよ、ハイ、だろ?」
「いや、そりゃおかしいでしょ。俺がやるくらいなら哲也がやったほうが絶対良いでしょ!?」
それこそおかしいだろ、おい。
「おい、何で他人を巻き込もうとしてんだよ」
「他人じゃない、友達だ。むしろ親友」
言われた内容は嬉しいが、今この状況ではただただうざい。
このままでは俺がやらなければなるかもしれない。
そう思って俺から何か言おうとしたとき、思わぬところからフォローが来た。
「残念だったな、晒科。生徒会はこの仕切る係にはなれない決まりがあるんだよ」
「なら――」
「ダダをこねるな。何かしらの形で成績のほうにおまけつけといてやるから。それにお前がやってくれると生徒会と連携が取りやすくなる。理由は言わんでもわかるな? なにせ生徒会役員の楠木とお前は『親友』なんだからな」
「うがっ」という声がトシの口から洩れる。まさかさっきの発言が自分の首を絞めるような発言になるとは思いもしなかったのだろう。
「ということで男子のほうは晒科に決定だ」
隣で「ぐぬぬ……」とうなっているトシを内心でざまあみろと思ったのは内緒だ。親友を無理やり巻き込もうとするからこういうことになるんだ。
この後もトシに限らず岡島先生の権力が次々と振るわれていった。
――――――――
放課後。
今朝に夏目さんから言われたように、生徒会の仕事をしに来ていた。
「みんな集まったことだし、二学期一回目の生徒会、始めましょうか」
いつも通り優姉が中心となって話し合いが始まる。
見慣れている光景ではあるが、久しぶりということもあってなんか変な感じがする。
「それじゃあ、まずは私たち生徒会の学園祭の仕事ね。涼華、よろしく」
優姉に呼ばれた夏目さんはその場に立ち上がって、手にした資料を見ながら説明を始める。
「私たち生徒会が当日やることは、風紀委員と連携をとって警備、そして見回りをすることです。既に話を受けているクラスもあると思いますが、今回の学園祭はギルドの精鋭、それにプラスして六家の者たちも一緒に警備に当たります」
「しっかしおかしなもんだよな……クラスの担任から何かが起こるかもしれないからとは言われたけどよ。ギルドのほうは依頼を出せばありえるからまだわかるけど、なんで六家までやってくるんだ? それだけの脅威が起こる可能性があんのか?」
夏目さんからの説明の途中で、野田さんが全体に疑問をぶつけるように問う。
実際には六家である優姉、もしくは美佳に向かって言っているのはこの部屋にいる誰もが理解できていると思う。なにせ六家の集まりがこの前までの夏休みの期間に行われていて、生徒会のメンバーは全員それを知っているのだから。
もちろん受けたその本人がわかっていないはずもなく、小さくため息をついていた。
「六家の中の秘密の情報に当てはまるから詳しくは言えないけど、二十年程前に起きた事件と似たようなことが起きるかもしれないから、らしいわ」
二十年前の事件?
それはいったい何なんだろうか。
誰かがそれについて追及する前に優姉は話を進める。
「一緒に警備をやるとはいっても、私たち生徒会と風紀委員のほうは学園内の、ギルドと六家の人たちのほうは学園外の警備に当たることになっているからそこまで大きな関わり合いが起きることはたぶんないと思うわ。それにあっちはあっちで話し合いを進めているみたいだったし」
優姉はここで一旦確認するように周りを見て、誰も質問がないことを認識すると、次の議題を求めるように夏目さんのほうに視線を向ける。夏目さんはコホンと咳払いを一つした後、続きを話し始める。
「警備の他にも当然仕事はあります。これは学園祭の仕切る係となっているクラスの代表と連携をとってやることになるのですが、学園単位で何かをやる際の生徒の誘導をやることになります。ちなみに何をやるのか、またどういうタイミングでやるのかについてはこれから順次決めていくことになります。当日やることは他にも出てくるとは思いますが、大まかな内容はこんな感じになりますね」
この後も解散の時間になるまで、学園祭の話し合いが行われ続けた。