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Dropbehind  作者: ziure
第四章 学園祭編
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第百二話 申請

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 自分の部屋に戻った俺は、シャワーを浴びて汗を流したり、着替えたり、飯を食ったりと学園へ行く準備をしながら学園に行く時間まで時間を潰した。

 夏休み明けだからと言って特別なものに用意するものはない。いつもの荷物にプラスして契約の際に使用した姉さんの愛剣を腰に差す。

 ちなみにこの剣を腰に差すためのベルトが、旅立つ時にもらった剣とかその他諸々が入っていた袋の中にあったので、それを利用していたりする。

 見た目的には変ではないのかもしれないが、腰にかかるその重さはちょっとした異和感を俺に与えてくる。

 肌身離さず持つようにとの指示だったし、これは慣れるまで我慢するしかないんだろうな。

 と、そんな感じの感想を持ちながら、夏休み明け初めての学園へと赴くことになった。




――――――――



 登校途中。

 後ろから駆け足で近付いてきて、横に並んでくる奴が一人。


「やっぱ、哲也か」


 そして覗くように俺の顔を見てホッとしていた。


「トシか、おはよ」

「おう」

「それにしてもなんだよ、いきなり人の顔を見て来るなんて」


 簡単な挨拶だけ済ました後、今の行動の理由を聞いてみることにする。 


「いやな、後ろ姿のシルエットだけ見て哲也かなと思ったんだけど、見慣れないもん身につけてるじゃん? だから一応誰か確認しようと思ってな」


 トシは俺の腰にある剣を指さしながらそんな風に言ってきた。

 まぁ確かに俺ですら違和感を感じるからな。仕方ない行動の範疇といったところか。


「それで一体どうしたんだ? そんなもんいきなり身につけ始めるなんて。オシャレとか趣味ってわけじゃないだろ?」

「そりゃあな。簡単に言えば、育ての親からの指示ってところか」


 実際は姉さんの指示であり、最終的な指示の出所はマクスウェルからだが、わざわざそこまで言う必要もないだろう。

 俺の答えにトシは「ふーん」と言うだけだった。

 納得している感じではなかったが、俺がこれ以上は言及するつもりがないのを悟ったという感じかな。

 申し訳ない気持ちもあるが、やはりこういったことをつっこまないでくれるトシの性格はありがたい。


「二人とも、おっはよー!」


 微妙な空気が流れそうになったところで、後ろから爽快な挨拶が飛んできた。 

 聞き覚えのあるその声音はずいぶん久しぶりな感じがする。


「朝から朱里かよ……」

「おはよう、朱里」

「なに、文句あるの?」

「べっつに〜」

「あっそ」


 簡単に挨拶を交わし、恒例的な会話の後は、すぐに適当な話題へと移行する。


「それにしても久しぶりだよね~」

「確かにそうだな。やっぱり競技大会があったせいかもしれないな」

「それもあるけど、あたし自身が家に戻ってたのも大きいかな。ホントは競技大会の方に行って応援したかったんだけどね。時間の都合がつかなかったんだ。結局こっち戻ってこれたのは昨日だし」

「へぇー、お前帰ってたのか」

「そうよ。学園での出来事の報告とか家のお手伝いとか、いろいろとするためにね。ついでにあんたの母親から、いろいろ伝言預かってるから後で聞かせたげるね」

「……お前一体俺の母親に何を吹き込んだんだ!?」

「さぁね~」


 うふふと笑って見せる朱里は明らかに悪いことを考えているだろう人の顔つきだった。

 トシが不憫な気がしなくもないが、こいつら二人のやり取りとしてはいつものことなので気にしないことにした。


「そういえば、今日は美佳と一緒じゃないんだな」

「うん、一緒に行こうと思って美佳ちゃんの部屋に行ったんだけどもういなかった」

「そうか……まだ戻ってきてないのか……」

「え? まだ戻ってきてないって……どういうこと?」


 俺の呟きに、朱里はすぐさま反応する。

 別に知っている人は知っていることだし、何か朱里が深刻なことを考えているような感じにも見えたので、特に隠すことなく俺は言うことにした。


「詳しくは知らんけど六家で集まりがあるとかで、一旦家に戻ってるらしいぞ。要は朱里と同じようなもんだな」

「六家で集まりって……一体何があるんだろうね……?」

「さぁな。まぁ六家のことを俺らが今疑問に思ったところで、知れることなんてほとんどないだろうからな。戻ってき次第、話してくれるようなら聞いてみることにしたらどうだ?」

「それもそうだね」


 朱里はこれで納得してくれたようだ。

 美佳がいないこと以外はいつもの感じで、学校に入っていく。

 歩きながら会話する間にも、トシとあったときと同じように、その剣は一体何なの? って朱里にも聞かれました。

 なんかこの調子だと誰かと会うたびに、同じような応答が繰り返されそうだな……



――――――――



 俺は一旦二人と別れて、学園長室に来ていた。

 というのも武器の持ち込みの許可をもらうためだ。

 この学園は剣とか弓とかそういった武器を持ち込むことは可能だが、そのためには学園長に申請して許可をもらわなければならないのだ。

 舞さんとの仲も良いのかもしれないが、一応舞さんは学園長なのだ。

 さすがにいきなり入るわけにもいかないので、ちゃんとノックをする。

 

「どうぞー、入っていーよー」


 返事はいつもの通りで明るくて軽やかだ。

 とりあえず入室の許可も出たので「失礼します」と一言かけてから扉を開く。

 

「いらっしゃい、哲ちゃん。ここに来たってことは用事があるんでしょ? そこに座って」

 

 舞さんは仕事をするための机ではなく、対談用のテーブルに設置されているソファーに腰をおろしながら、向かい側の席を俺に勧めてきた。

 驚いたことに、まるで誰かがここに来ることを予知していたかのように、テーブルにはお茶が二つ用意してあった。

 俺は言われるがままに舞さんの向かい側のソファーに座らせてもらう。 


「その姿を見るに武器の持ち込みの申請だよね?」


 俺が頷く間もないうちに必要な用紙と書くための道具を、目の前に置いていく。

 どこから出したとか、なんですでに準備ができているのかとか、そういうところは聞いた方がいいのだろうか? いや、俺の顔を見ながらニコニコと笑み浮かべている舞さんのことだ。どうせ「だって哲ちゃんのことだもん」とかなんとか言うに違いない。結論として、問うだけ無駄ってことだ。

 そんな俺の心理を知ってか知らずか、舞さんはすぐにこの用紙の書くべきところの説明を簡単にしてくれた。


「それにしても似合ってるね、それ」


 舞さんは俺の腰に付いている剣を指さしながらそんなことを言ってきた。

 俺としては違和感しか感じていないので、そう言われてもちょっと困る。


「そうですか?」

「うん、すごい似合ってると思うよ。その剣と哲ちゃんの相性(・・)抜群(・・)」 


 気のせいかもしれないが、一瞬舞さんの目が細められたような気がした、がすぐにまたいつものニコニコ顔に戻る。そんな風に思ったのは今言った言葉に少し含みがあるような印象を受けたせいかもしれない。


「ていうよりは哲ちゃんなら何を身につけても様になると思うけどね。剣でも槍でも弓でも」


 褒められるというのは素直に嬉しいが、ここまで来ると背中がむず痒くなってくる。


「何せ哲ちゃんだしね」


 やはり最後にはこの言葉が来るんだなぁ……

 それにしてもこの言葉の奥には一体何が詰まっているのだろうか。

 舞さんが言うとホント汎用性があるよな。俺のことならすべてその一言で解決されてしまいそうだ。


「これで大丈夫ですか?」

「ちょっと見せてもらうね~」


 雑談も程々に、とりあえず書き終えたので紙を渡してチェックしてもらう。

 舞さんはひとりでに頷きながら、書きもらしや間違いがないか確認をしていく。

 そして最後には大きく頷いて、俺に顔を向けてきた。


「うん、問題ないよ。これは預からせてもらうね。それとこれは許可証になるから哲ちゃんが持ってて」


 もらった小さな紙には『武器所持許可』という文字と学園の象徴となるシンボルマークの判子が押されていた。 

 やることもやったので俺は置かれていたお茶を飲み干した後、ソファーから腰を上げる。


「どうもありがとうございます」

「いえいえ。用事があっても無くてもいつでもここに来ていいからね?」


 言葉ではそう言いつつも、目では『絶対に来てね!』と訴えている感じがあり、舞さんの容姿と相まって、なんだか微笑ましいし、それに嬉しいんだけど、ちょっとだけ困る。


「それでは失礼しました」

「――哲ちゃん!」


 扉の前で一旦振り返ってから一礼し、部屋の外に出ようとしたところで、舞さんから突然声をかけられた。

 扉にかけていた手を下ろし、舞さんの方に向き直る。


「学園の生活は、その……楽しい?」


 俯き加減に、上目遣いで、戸惑ったような雰囲気を出しながら、舞さんはそんなことを尋ねてきた。いきなり呼びとめられたから、もっととんでもない質問が来るかと思ったよ。

 ていうかその程度のことならそんなに遠慮がちに聞かなくてもいいのに。


「はい、楽しいですよ。本当にここに来れてよかったと思います」


 だから俺は堂々と単純な言葉だけど心を込めてそう返した。

 舞さんは「そっか」と頷くが、その表情は何故か哀愁が漂っているように見えた。

 

「あら、俺なんか変なこと言いました?」

「そんなことないよ!? そんな風に言ってくれることは学園長としても個人としてもすごく嬉しいしね。わざわざ呼び止めてごめんね」

「いえ、気にしないでください」


 何かとてつもなく取り繕っていた感じだが、問うたところで無駄なんだろうな。


「それじゃ改めて、失礼しました」


 俺はそう言ってすぐに部屋を出た。


「ほんとに、ごめんね……」


 扉を閉める瞬間、何か呟く声が聞こえた気がするが、よく聞こえなかった。


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