第百一話 契約(2)
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『誰じゃ、妾を起こしたのは』
剣を弄りながらあどけない表情を浮かべている少女。
そして眠たげに欠伸を一つ。……なんだか妙に人間味に溢れている感じがするな。
これが本当に姉さんが言っていたような大精霊、なのか?
『これが媒体か……なかなかの逸物じゃのう』
だけどわざわざ眼を強化しないと見えないほどの存在。
それに全体を纏うなんとも言えない雰囲気は、異常とも言えた。
怖いとも違えし恐ろしいとも思わない。
何もないように感じるのに、たとえ戦ったとしてもやられるビジョンしか見えてこない。
『そなたが妾を起こしたのか?』
そうしてようやく少女はこちらを認識するようにジッと視てきた。
その視線は何もかもを見透かされそうな感じだった。
俺はそんな視線に思わず一歩たじろいでしまうが、なんとか身を構える。
そんな俺の心情などお構いなしに、少女はフワフワとこちらに近づき、くるっと俺の周りを値踏みするように見ながら一周すると、最後に俺の顔に接触するんじゃないかというほど近づき、納得したように『ふむ』と一回頷くと、また先ほどの位置に戻っていく。
『なるほど……妾を起こすくらいの才能はちゃんとあるようじゃな。どれ?」
瞬間、凄まじい魔力が俺の方に襲いかかってくる。
俺は咄嗟に体氣を捻りだし空氣も一緒にコントロールして自分の周りに展開する。丁度自分を覆うような形だ。これは空氣調和の変形、そして改良にあたる。体氣を混ぜているのは、いろいろ試した結果、体氣を混ぜる量が多ければ多いほど、吸収の効率がよくなるのが分かったからだ。
俺の空氣調和の展開が終わるか終わらないかのタイミングで、魔力は氣の壁に接触した。
スポンジが水を吸収するかのごとく、俺の張った壁はどんどん魔力を吸収していく。
だが数秒で限界を超えたようで、氣の壁がボロボロと崩れ落ち始めた。
もうだめだと諦めかけたところで攻撃が止んだ。
『ふむふむ、十分な調和力じゃな』
どうやら試されたようで元々殺る気はなかったようだ。
その言われ方は少しイラッときたが、相手の力をちゃんと把握できていない以上下手な手は打てない。
『……それなりの力もあるし、育てられた恩もある。それに良い男じゃ……うむ、妾との契約を許そう』
ボソボソと何事か言って自分自身で納得し、かなりの上から目線でそうおっしゃられた。
契約ってこんな感じで許されるものなのかよ……てか契約するにもまだ分からないことが多すぎる。まぁ、契約する気ではいるんだけどね。
とりあえずは下手に出て、相手を上の者として扱いながら情報を得よう。
「少しよろしいでしょうか大精霊様」
『ん? なんじゃ?』
大精霊様と呼んだ瞬間すぐに反応してくれるが、頬の緩みがなんとも情けないような……なんというか目の前のやつは案外チョロいのかもしれない。怒らせると危ないのかもしれないが。
とりあえずこのままいろいろ聞いていこう。
「契約すると、どんな利点が私にあるのでしょうか?」
俺がそう尋ねると目の前の大精霊様は思案顔で『そうじゃの……』と考え込み、
『妾の力が利用できる、そんなところかの』
そんな答えが返ってきた。
確かにそうかもだが、聞きたいところはそこじゃないんだよな……
質問の仕方が悪かったかもしれない。
「大精霊様はどのような力を持っているんですか?」
『すべてを元に返す、中和、調和、そういったところじゃな。妾の使う魔法は少々特殊じゃ。スペシャルじゃ』
いや、そんな風にどやっとされても反応に困るんだが。
しかし中和に調和か……そして元に返す……
魔法としてはどんな属性になるのだろうか?
「魔法の属性としては何に当てはまるんでしょうか?」
『元じゃな』
「元? そんな魔法があるのですか? 私が知っているのは火、水、風、土、闇、光の六属性なのですが……」
『ん? そなた魔法の知識が不足しているのではないか?』
まるで無知の物を扱うように、馬鹿にするような顔で罵ってきた。
てかこっちではそれが常識だと思うんだけどな……この答えがダメならたぶんこの世界のほとんどの人が無知って事になる。
とりあえず説明を求めるように俺は大精霊様に視線を向けると、教えてほしいのか? しょうがないのう、とでも言いたげな顔で普通に教えてくれた。
『確かにその六属性は一番主流となる属性じゃ。というよりは人間が扱える属性はその六属性のみと言って過言ではないだろうな。だが、主流と言うだけでその六属性がすべてではない。その六属性に当てはまらないうちの一つが妾が扱う元じゃ』
「なるほど……」
つまり目の前の存在は本当に特別なようだな。
姉さんが言うには大精霊クラスらしいので、どんな属性であろうと特別なのかもしれないけど。
『他に何か聞きたいことはあるか?』
「では、大精霊様を使役するうえで払うこちらの代償は何なのでしょうか? 精霊、大精霊を使役するためにはその属性の魔力を与える必要があると聞いたことがあります。ですが私自身元という属性を初めて知りましたし、使うことは出来ないと思うのです」
『ふむ……そなたには少し教授が必要なようじゃな」
ここに来て教授か……一体何があるのだろうか?
『まず最初に言っておくが、妾がもらう代償はそなたが持っている、そなたなりに言えば体氣じゃな』
必要なのは魔力ではないのか?
『それとそなたが言っていた精霊は魔力が必要という部分は全くもって間違っていないぞ。ただ精霊がほしいのは属性が何もないただの魔力だということじゃ。妾たち精霊はその何にも染まったいないただの魔力をマナと呼んでいるのだがな。そのマナが妾たち精霊のエネルギーとなる。ちなみに言うとマナは身体の力を膨大に活性化させる働きがある』
つまり、この大精霊が言うマナというのはこちらで言う体氣ということか。
『マナは体内にある器官で属性をつけられ、そなたたちが言う色のついた魔力に変換される。そして魔力はそなたたちが魔法を使う際に行使する。そなたが膨大がマナを持つにもかかわらず強い魔法が使えなかった理由はその変換するための器官の性能が弱すぎて魔力に変換できていないせいじゃな』
あれ? 俺強い魔法が使えないなんて言ったっけ?
そんな俺の考えなど気に止まることなどなく、話は続いていく。
『逆を言えば性能が弱いおかげでそなたの膨大なマナのほとんどが魔力に変換されることがない。精霊側からしたら契約するには最高の条件じゃ。契約すればきっと妾の力は最高潮に発揮できることじゃろうな』
もう契約したことを考えているのか、大精霊は嬉しそうに笑みを浮かべながらそう締めくくった。
確かに契約するつもりではいるけどさ。
「では、契約したいと思うので、す……が?」
言いたいことがすぐに分かったのだろう。大精霊はすぐに行動を起こした。
空中に浮いていた大精霊は一瞬で俺の目の前にやってきて、肩を掴まれたと思うと、頬にキスされた。
『うむ、後はそなたから妾にキスをしてくれ』
「…………」
呆然としている俺にお構いなく、大精霊はそんな指示を送ってくる。
『ん? 聞いておるのか? 早くキスをするのじゃ。契約したくないのか?』
ほれ、ほれと言いながら頬を指さしながら催促してくる大精霊。
見た目かなり幼い少女にキス。
これはちょっといろんな意味で難易度が高くないか?
いや、変な邪念は捨てるんだ!
これは契約のため。やましいことは何もない。
これは姉さんに言われた通り、契約するための儀式だ。
落ちつけ、俺!
首をブルブル回しながら、当たりを確認する。
よし、誰もいない。
俺はさっと近づき、さっと肩に手を乗せ、さっと頬に唇をつけた。
『後はわが名を呼べ。思うがままに名を叫ぶのじゃ!』
「――元の大精霊、マクスウェル!」
俺が叫び終わるか否か。
俺の手の甲と姉さんの剣から眩い光が発していた。
なんとか眼を凝らして見てみると、幾何学的な模様が刻まれていた。
剣の方にも目を向ければ同じような刻印が赤い宝石に刻まれている。
そして大精霊を中心として地面に円形の陣が刻まれ、最後に先ほどと比べ物にならないくらいの閃光が弾けた。
その眩さに眼を閉じる。
『これで契約は完了じゃ』
光が収まり、ゆっくりと目を開けると、そこには剣以外何もなかった
俺はその剣を手に取り、じっくりと見つめてると、宝石は赤く輝きだす。その剣からはマクスウェルの意思みたいのが溢れている感じがした。
『妾とそなたは一心同体じゃ。媒体となる剣は肌身離さず持つようにするのじゃぞ?』
「わ、わかった」
『ならば良し。妾は少し眠るからしばらく反応はないかも知れんが、別にいなくなったわけじゃないから気にする出ないぞ』
その言葉を最後に、さっきまであったその存在感がかき消え、剣に付いている宝石の輝きも失われた。
これで一応は契約は成立したのか。
なんというか精神的疲労が大分来ている感じがするな……
とりあえず今日の鍛錬は終わりにして、自分の部屋に戻ろう。
設定の甘さがいろいろと出ている気がします。
もっとちゃんと考えておけばな……と思わされている今日この頃。