第一話 落ちこぼれ
開いてくださりありがとうございます。
誤字脱字あったら報告お願いします。
この世界には魔法が存在する。魔法を使うには才能がいる。
その才能は血縁の関係も大きく影響することが長い期間をかけて知られた。
その様々な血縁すなわち家系の中で火・水・土・風・光・闇、各属性ごとに特化する存在がいくつかあった。
それらから5年に1度各属性ごとに能力が高い家系を1家づつ取った存在。
人々はそれらをまとめて『六家』と称した。
俺はその時『六家』の中の一つだった火に特化した家系『火神家』の長男として生まれた。
名前は哲也。
俺は生まれてからしばらく2つ年上の姉と同い年の双子の妹と過ごしていた……
俺が6歳の誕生日を迎える時、魔法の測定を行った。(この世界では6歳から12歳までの間毎年魔法の能力値を測るために様々な測定を行う)
俺の測定結果は普通の人たちと比べても低い結果だった。姉や妹はその測定で飛び出た結果をだしていたのにもかかわらず……
俺は自分が上手く魔法を使えてないのは前から知っていた。
両親や姉、妹からもよく教えてもらってたけど、成果はみられなかった。
でも、姉がいい成績を残していたから、俺にもいい結果が出てくれると少しだけ期待していた。
火神家の長男としていい結果がほしかった。
自分の劣等感から抜け出すためにも、縋りつく結果がほしかった。
この測定は現実が甘くない事を思い知らされた時だった……
そして測定結果が届いた夜の日の出来事⋯⋯
「哲也、食事が終わったら私の部屋に来なさい。大事な話をする」
俺が、「はい」と返事をした後父は食べ終えた自分の食器を片づけて自分の部屋へと戻っていた。
俺はなんだろう? と不思議に思いつつ待たせるのも悪いので残った飯をいっきに腹に入れ込み父の部屋へと向かった。
コンコンと2回ノックをして「入っていいぞ」という声を聞きドアを開く。
俺はそのまま父が座っていたソファーのテーブル越しの向かい側に座る。
それを確認した父は、喉を潤すようにテーブルにあったコーヒーを一口飲んで顔をこちらに向けてきた。
俺にはなんだかその顔に、いや雰囲気に怖さを感じて怖気ずいてしまった。これから言われる言葉が自分の身体にはわかっているのかのように……
「お前には……この家から、出て行ってもらう」
「え……? どういう、ことですか?」
身体とは違い俺の頭は唐突過ぎる言葉の意味が良く理解できていなかった。いや、理解したくなかったのかもしれない。
父はそんな俺に追い打ちをかけるかのように、
「お前にはこの家の名を名乗る資格がない。要するにこの家から出て行ってもらう。これからは自分の好きな苗字を付けるといい。ただ二度と『火神』とは名乗るなよ。これは餞別だ。話は以上。明日の早朝までに出ていけ」
伝えることを淡々と告げていく父からの言葉は、今までで一番冷たかった。俺は父の雰囲気に萎縮されて反抗することも抵抗することもできなかった。
そんな俺の姿を一瞥した後、父はそのまま俺にかまわず席から立ち上がり部屋を出て行った。バタンというドアの閉まる音が妙に寂しく部屋に響いた。
数時間後、俺は自分の意志も考えもないままに、ただ抜け殻のように何も考えることなく餞別としてもらったお金を鞄に入れ、その日のうちに夜遅く誰にも気づかれぬように家を出た。
その日の月の光は妙に冷たく感じた。
不思議と涙が頬を伝う事はなかった……
あの日から1ヶ月くらいだろうか……
父からもらったお金はすでに底をついていた。何もすることなく俺は一人で隅でうずくまっていた。
未だにあの日のショックから抜け出すことはできていない。
「おーい、そこの君」
一人女性と思われる声で誰かが話しかけてくる。
相手から話しかけてくるなんて久しぶりだ……そんな事を思いつつ俺はゆっくりと顔を上げる。
そこには一人の若い大人の女性がいた。黒目黒髪でこの世界では珍しい容姿だ。顔は見るからに美形。
背はそんなに高くないがプロポーションについては出るところはしっかりと強調されていて誰が見ても綺麗という感想を持つだろう。
「一人で泣いて……何があったの?」
女性は俺を心配するように言ってきた。言われてから自分の頬が濡れていることに気がついた。
「父に家を追い出されました」
特に感情を込めることなく俺は一言で事実を伝えた。
「どうして?」
女性はそれだけでは納得できないようで事情を詳しく聞こうとしてくる。
「……僕が弱いから……ただの落ちこぼれらしいから……」
俺は起こったことを思い出して言おうとしたら、涙が出そうになり振り絞るような声になってしまった。
「……ということはもうそこには戻れないのよね?」
「え、ええ。たぶん無理です……」
質問の内容の意図は分からないがそれに答える。
「なら私と来ない? もう戻れないんだったら問題ないでしょ」
「えっ……?」
言われたことが理解出来ずに小さく声を上げてしまう。
「私の所に来るかって聞いたの。君は弱くも落ちこぼれなんかでもない。私なら絶対君を強くすることができる! 君には強くなれる素質がある。そんな君の才能を見抜けないむかつく父を見返してやるために私が鍛えてあげるよ」
素質……? 才能……?
今はお金がないし、いる場所もない。これは俺にとってすごい好条件なんじゃないだろうか。
「付いて行っても、いいんですか?」
縋りつくような声で聞き返す形で聞いてみた。
「んー……やっぱりいやだ」
「ええっ!?」
予想外の答えが来たので、思いっきり声を上げて驚いてしまった。
「冗談だよ?」
「……ふざけないでくださいよ……」
悪態をつくような言葉だが心底ホッとする。
「ごめん、ごめん。ちなみに名前は楠木香織。呼び方は……姉さんって呼んで。むしろそう呼んじゃいなさい」
軽い謝罪を述べて女性――姉さんは自分の名前を紹介してくれた。
「はい、分かりました。よろしくお願いします、姉さん」
「素直でよろしい。それで君の名前はなんて言うの?」
姉さんは俺に自己紹介を求めてきたので俺は名前だけ名乗る。
「哲也です」
「苗字は?」
聞かれて当たり前のことだが今の俺には少し困る質問だったが、考えて……そして決めた。
「楠木です」
「そっか、んじゃ行こう、哲也」
姉さんは俺の答えを少しも不思議がることなく、むしろ納得したような様子を見せ促すように声をかけてきた。
「どこにですか?」
「もちろん強くなるための修行よ」
行き先を尋ねたつもりだったが、返ってきた答えは若干ずれたものだった。
「あの、今更なんですけど俺って強くなれるんですか?」
自分で言ってる通り今更ながらの疑問である。さっきも俺に素質だの才能だの言っていたけど、本当に俺にそんなものがあるのだろうか……
「当然よ! ただし、私の修行にきちんと耐えられれば、ね」
俺を試すような調子で姉さんは言ってきた。
「耐えてみせますよ。強くなれるなら、どんなに厳しくても」
俺はそれに応えるよう、出来るだけ見栄を張るように宣言した。
「その調子ならきっと大丈夫よ。それじゃ、行きましょ」
しかし俺の見栄は姉さんには見え見えだったようで、クスッと微笑んでみせた後俺にそう言って先に歩き出した。
「あの!」
「何かしら?」
俺が後ろから呼びかけると姉さんは黒い髪をなびかせながらクルッとこちらを振り向いた。
俺は大きな声で意気込むように頭を下げて、改めて姉さんに伝えた。
「これから、よろしくお願いします!」
「ええ」
姉さんはそんな俺に対して綺麗な笑顔を見せて再び歩き出す。俺もそれについていった。
俺はそこから歩き出す……
誰よりも、強くなるために……