第57話 魔王降臨
「お邪魔しまーす」
カナタは探索協会会長の部屋を訪れた。
中にいたのは、二人。
カナタはその片方である会長に声をかけた。
「お疲れ様です。“手続き”は終わりましたか?」
「ええ。とりあえず普通に生活を送れるようにはしておいたわ」
「助かります」
二人は軽く会話をすると、部屋の奥へ目を向ける。
そこにいるのは一人の少女。
会長の大きな椅子に偉そうに座っている、銀髪の少女だ。
「手続きとやらは長すぎであろう! どれだけわらわの時間を使うつもりじゃ!」
「帰ってもやることないくせに……」
魔王軍決戦から数日。
カナタは深淵ダンジョンで見つけた少女を引き取っていた。
会長には便宜を図ってもらい、少女の住民登録などをしてもらっていたのだ。
ちなみに、少女の名は──。
「ほら帰るぞ、“ムオウ”」
「うむ!」
ムオウだ。
カナタは裾を掴んでくるムオウに手を添えながら、決戦の後を思い出す。
────
「わらわは何者じゃ?」
カナタ達は魔王の魂を浄化した。
だが、その場所から謎の少女が現れる。
これにはカナタも戸惑う。
「…………え?」
しかし、戸惑っているのは少女についてだけじゃない。
『面倒を見たら?』というコメントが溢れていたからだ。
カナタは迷いながらも、後方の従魔に助けを求めた。
「み、みんなはどう思う?」
「「「……」」」
ただし、従魔はじーっとカナタを見つめるばかり。
カナタに判断を委ねるようだ。
すると、少女が口を開いた。
「む。わらわの名を思い出したぞ!」
「お?」
「わらわの名は──ムオウじゃ!」
「…………」
対して、カナタを含めた全員が確信する。
(((絶対魔王だ……)))
ムオウは記憶が曖昧のようだ。
なんとか元の名前に近いものをひねり出したのだろう。
つまり、少女の正体は“魔王”である。
それでも、カナタは救いたくなった。
(悪さする気配はないしなあ)
最終奥義【魔魂浄滅】によって、魔王の負の力は完全に払われた。
ムオウは、魔王から邪悪な側面が排除された存在だ。
邪念も無ければ、人を害する力も無い。
かつて戦った忌々しい姿ともまるで違っていた。
そんなムオウを、ここに放置すれば待つのは死のみ。
幼気な少女にその仕打ちは、あまりに残酷に思えた。
すると、カナタはムオウに手を差し伸べる。
「俺はカナタ。とりあえず一緒に来るか? ここは危ないから」
「しょうがないのう。ではカナタよ、わらわを連れて行くがよい!」
「なんで上から目線なんだ」
こうして、カナタはムオウを連れて帰った。
────
数日前を思い返しながら、カナタはふっと笑う。
(やっぱりムオウは安全だったな。お荷物が一つ増えたけど)
連れ帰ってからのムオウは、完全なペットだ。
昼頃に目を覚まし、ゴソゴソと冷蔵庫を漁っては、カナタにひっ付いてくる。
遊べ遊べとうるさいだけで、特に害はない。
おかげで、多少従魔からの嫉妬の目は痛いが……。
そんな中、会長は心配そうに尋ねた。
「あの、久遠くんの方は大丈夫なの?」
「あー、もうだいぶ騒ぎも収まりましたよ」
そして、数日の間にもう一つ大きな出来事があった。
カナタは自分の事情を配信で公表したのだ。
話した内容は、異世界や従魔のこと、魔人についてなど。
処刑された件などのネガティブな事柄は話さず、視聴者が最低限カナタ達の行動を理解できるように。
理由は、カナタに関する憶測が広がっていたからだ。
「尾ひれがついた噂もほとんど消えました」
今やカナタは日本中から注目を集めている。
すると、カナタ一行について色んな話が飛び交ったのだ。
能力は自作自演だとか、魔人は役者を用意してるだとか。
中には、カナタの偉業に嫉妬してわざと嘘を広めた者もいたのだろう。
元から多少あった流れだが、魔王軍決戦の後にそれが爆発した。
その状況を断ち切るため、カナタは弁明したのだ。
結果、騒動は起きつつも、良い方向に向かった。
「今はむしろ応援してくれる人が増えました」
「それなら安心ね」
カナタ自身、そろそろ誤魔化すのは難しいと感じていた。
今回は良い機会だったのかもしれない。
カナタは笑みを浮かべるも、ムオウに裾を引っ張られる。
「カナタ! 難しい話はやめて早く帰るのじゃ! わらわには待っている仲間がおる!」
「はいはい、ゲームの話ね。今日こそ一時間までだからな」
「き、昨日も一時間しかしておらぬが?」
「嘘つけ」
ムオウはRPGに熱中している。
あろうことか、勇者が魔王を倒す物語だ。
カナタは妙に感じながらも、会長に会釈した。
「では、ありがとうございました」
「気を付けて帰ってね」
なんだかんだ面倒見がよかった会長には、ムオウも手を振る。
「さらばじゃ、おばさん!」
「おばっ!?」
「こら!」
そうして、カナタとムオウは帰宅した。
◆
「こんばんはー。世間をお騒がせしてすみません、カナタです!」
帰宅して夕方。
魔王軍の事務所から、カナタは普段の挨拶で配信を開始した。
目の前の大きなテーブルには、あらゆる料理が置かれている。
「本日は決戦勝利を祝って、事務所でパーティーです!」
「「「わーい!」」」
「だから料理消すなってえ!」
しかし、飛びついた従魔たちによって、いきなり半分が消滅する。
いつも通りの光景だ。
《カナタ君こんばんは!》
《おおー豪華だねえ!》
《従魔たちは相変わらずだなww》
《すぐ見にきたのに料理消えてる……?》
《勝利記念きたあ!》
《すげえ戦いだったもんなあ》
《今回は外食じゃないんだ?》
テーブルに並べられているのは、ピザや弁当、オードブルなど。
全て配達で注文した品だ。
カナタはその悲しき理由を口にする。
「外食したかったのに全部断られました。なんか飲食店で指名手配されてるみたいです」
カナタは細めた視線を横に移す。
すると、従魔たちは揃って首を傾げた。
「「「なんでだろう……」」」
「お前らのせいだよ」
従魔たちは自覚がないようだ。
《自覚しろwww》
《従魔のせいなんだよなあ……w》
《コントすんな笑》
《いつも通りで安心》
《事務所にシェフ呼べばいいのにw》
「シェフを……呼ぶ?」
すると、カナタは最後のコメントに目を付ける。
だが、そのままヘナっと項垂れた。
「その発想はなかった……」
《カナタ君らしいw》
《庶民的で好き》
《庶民派魔王》
《もう金持ってるだろうにw》
《成金感なくてすこ》
《カナタ君は変わらんな笑》
そんな中、以前までには無かったコメントも見られる。
カナタが公表した内容についてだ。
《異世界でもこんな事してたのかな》
《この従魔たちと旅とかお前……》
《寝食も共にしてたんだよな?》
《えっちすぎんだろ!》
《普段何してたんだよ》
その話題にはルーゼリアが飛びつく。
「それはもう……ね? あんなことやこんなことをしたわよねえ」
「してねーよ! 誤解されるだろ!」
ルーゼリアはうふっと魅惑的に近づき、カナタにウインクする。
《はあああああああ!?》
《まさかお姉さんと!?》
《カナタ許さねえ》
《¥5000 ふざけんなこれでも食らえ》
《↑ツンデレでわらう》
《従魔を引き連れて何もないはずがなく……》
その話題はヴァレリアにも飛び火した。
《もしかして師匠とも!?》
《おいおいおい》
《お師匠はまずいって!》
《それだったらガチで許さねえわ》
《何を教えてもらったんだよ!》
せっかくお上品に味わっていたヴァレリアは、ゴホッとむせる。
「な、なぜワタシにも……!」
「師匠も人気だからね」
「カナタも否定せんかあ!」
ヴァレリアはすっかりいじられキャラとして定着している。
これも愛されている証拠だ。
すると、事務所の階段からカンカンと降りる音が聞こえてくる。
「あーっ! カナタ貴様、わらわを差し置いてー!」
「またうるさいのが来たよ……」
三階で寝ていたムオウだ。
カナタも気遣って声をかけなかったのだろう。
しかし、ムオウはすぐそこまで瞼をこすっていたのに、パーティーを見るや否や全力疾走してくる。
「わらわの分もあるんじゃろうなー!」
「まだまだ追加で来るから大丈夫」
「今すぐ食べたいのじゃー!」
「はいはい。ということで、ムオウでーす」
引き取った翌日に続き、ムオウは二度目の配信出演だ。
《二回目から紹介雑ww》
《クマさんのパジャマかよw》
《ムオウちゃんかわいい》
《今日も元気だなあ》
《のじゃロリありがとう》
《ちょうどロリ枠補充できたね》
《お師匠が成長したからな》
《魔王軍の癒し枠》
しかし、流れるコメントにココネがムッとした。
「癒し枠はココネです」
「あら、ママも負けていないわよ」
「ふーんだ! わらわに決まっておろう!」
ココネ達も半分冗談だろう(半分本気だが)。
この通り、ムオウも数日ですっかりメンバーに馴染んでいた。
また賑やかになったメンツに、カナタもふっと笑みを浮かべる。
(無事に戻ってこられて良かったな)
魔王軍決戦の前、ここの雰囲気はピリついていた。
従魔たちも顔に出さないようにしていたが、全員感じていたことだろう。
それほど“魔王の復活”には警戒していたのだ。
(なんかそこにいるけど)
ムオウは拾うことになったが、魔王問題は解決はした。
決戦も完全勝利で終え、こちらは何も失っていない。
むしろ、団結力が増したとすら思える。
カナタはふと見上げた。
(これからも、この日常を守っていこう)
それにはエルヴィが声をかけてくる。
「カナタ様。なーんか油断してるけど、これからも勝負挑むからね」
「えー、もういいじゃん」
「ダーメ。それに、従魔にも負けないから」
「「「……!」」」
それには、従魔たちの視線がバチっと交差する。
カナタはふうと息をついた。
「やっぱこうなるかあ」
カナタのほのぼのライフはまだ先のようだ。
心の中では、全員が仲間だと思っているだろうが。
すると、コメントはカナタの話へ。
《カナタ君はどういうポジション?》
《異世界では魔王を倒したんだよね》
《じゃあ勇者側なのか?》
「あー、そうですね……」
カナタは勇者として選ばれたことは公言していない。
最後に処刑された話につがなると思ったからだ。
カナタはふむと悩むが、代わりに周りが答えた。
ココネも、
「主様は魔王ですよ」
「は?」
ルーゼリアも、
「むしろこれで真の魔王になったわね」
「は!?」
エルヴィも、
「魔王の方が倒し甲斐あるしっ」
「はあ!?」
ミカも。
「魔王でも甘えていいからね」
「ママぁ──じゃなくて!」
一瞬おぎゃるも正気を取り戻し、カナタは抗議する。
「俺ってまだ魔王なの!?」
「「「うん」」」
それにはコメントも全同意だ。
《魔王様!》
《やっぱカナタ君は魔王様だな!》
《決戦も勝利したし!》
《真の魔王になられましたな》
《これからも配下として付いていきます》
《まさに魔王降臨》
「だから勘違いって言ってるだろーーー!」
第二章 完
ご愛読ありがとうございました!
これにて『第二章 魔王降臨』は完結です!
ここまで面白いと思ってもらえましたら、ぜひ↓の『☆☆☆☆☆』を押して、『★★★★★』で埋めて下さると嬉しいです!
皆様の応援はとても力になります!
また、本作は一時書き溜めをしまして、時期を見て更新再開しようと思います!
おそらく次が最終章になるでしょう!
完結にふさわしい章を用意できればと思いますので、ぜひフォローはそのままでお待ちください!
今後とも本作をよろしくお願いします!




